戦争のない戦争
















スイス人写真家マインラッド・シャーデさんは、戦争の前後に争いのあった場所周辺へと向かい、その傷跡を記録した。新しく出版された写真集「Krieg ohne Krieg(戦争のない戦争)」の作品は現在、ヴィンタートゥールにあるスイス写真基金の展覧会でも公開中だ。

フォトエディターとして、SWI swissinfo.chでの写真の編集利用と写真家とのコラボレーションを担当。機会があれば、カメラを持って記者に同行する。 チューリヒで写真家として訓練を受け、1989年からフォトジャーナリストとして活動。1990年にスイスの写真家エージェンシー、ルックアット・フォトスを設立。ワールド・プレス・アワードを2度受賞し、スイスの奨学金制度も利用。作品は広く展示され、様々なコレクションに収蔵されている。
戦争は土地に爪痕を残し、人々の心に傷を残し、その傷は後世に語り継がれていく。その記憶の多くはあいまいだが、そこにシャーデさんが探し求めるものがある。戦地へ行かない戦争写真家。シャーデさんは自身をそう名乗る。
2003年からシャーデさんはソビエト崩壊後に独立した国々の、戦争と平和の間で揺れるもろく壊れやすい日常生活を記録し続けた。チェチェン共和国の破壊された建物、イングーシ共和国で暮らす故郷を追われた人々、カザフスタンの核実験がもたらした被害、そしてナゴルノ・カラバフでの境界線をめぐる対立や、ロシアとウクライナでの追悼式やパレードを写真に収めた。
少なくとも最後の2作品を鑑賞する頃には、この写真集のテーマが現在でも重要性を帯びているとわかる。人物、道路、風景の写真は「対」になっていたり、連続して並べられたりしている。そうすることで未解決の争いがもたらす影響がはっきりと浮き上がる。
シャーデさんは、「もう写真が大きな影響力を持っているとは思っていない。だが、ずいぶん前に終わったと言われていても、そこにはまだ戦争の影響があり続けていること。またいかにして、人々がすぐに再び戦争状態に陥ってしまえるかということ。これらのことを、私の写真を見た人々が気づいてくれれば、それで十分だ」とインタビューに答えている。
(写真・Meinrad Schade 文・Thomas Kern、swissinfo.ch)
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