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日本はどこ

『Where is Japan』から 北海道 名寄 Andri Pol

「Where is Japan」。わたしたちの頭の中にある日本は一体どこにあるのか?スイス人写真家、アンドリ・ポル氏が12年間にわたりファインダーを通して見続けた日本を集大成した写真集が出版された。

生け花、茶道といった「日本の美」よりも「素晴らしいお寺の横にあるコンクリートのビルも含めて」の日本の姿に愛情を抱き、カメラを向けたくなるというポル氏に彼の日本について語ってもらった。

swissinfo.ch : 写真集『 Where is Japan 』には、わたしたち日本人にとっては、とても日常的な日本が捉えられています。ポルさんに日本への愛着があるからこそ撮れる写真だと思います。愛情なくして撮ったとしたら、受け取る側のわたしたちに感動を与えません。

ポル : 日本は好きです。

日本に初めて行ったのは16年前で、単なる観光旅行でした。( 日本には ) 自分とは違うにもかかわらず身近に感じさせる何かがある。魅せられましたね。

まるで、ウイルスに感染したように、日本のことをより知りたい、理解したいと思うようになったのです。わたしにとっては、日本は説明ができない国だったのです。

わたしは写真家ですから、何にでも興味を持つことが仕事です。日本の社会はどのような仕組みで動いているのか。なぜ、こんなに興味を湧かせてくれるのかということを知りたくなったのです。そこで、日本に結びつけたストーリーを出版社や雑誌社に提案し、日本で仕事をしながら、自分の興味の渇きを癒 ( いや ) すことにしました。こうして、これまでの12年間、1年に最低2度は日本に行くようになりました。

swissinfo.ch : 現在注目されているのはインドや中国。日本は興味の主流から外れているようにも思いますが、なぜ今、写真集を出版したのでしょうか。

ポル : 日本はいまでも興味の対象になる国です。今回出版した本は売れていますし、本の反響もあります。わたしの同僚であるジャーナリスたちも、どうにかして仕事で日本に行くチャンスがないか狙っている人たちがいます。和食は世界一美味しいですが、それだけが理由ではありませんよ。

日本の人々も信じられないほど快いですね。日本語を話さないわたしをどうにか理解しようとしてくれる。私も理解しようとする。そういう国はあまりありません。

swissinfo.ch : 日本をとても褒めますね。

ポル :  ( 聞きとれないほどの小さい声で ) 本当にそう思っているから…

swissinfo.ch : この写真集を見た日本人は、ポルさんの眼が日本の現実をとらえていることが分かりうれしくなる一方で、なんだか恥ずかし部分を見せつけられたという思いをする人もいるのではないでしょうか。

ポル : わたしは、よく、人や物に対する先入観を取り上げ、その裏側を見せたり、疑問を投げかけたり、これを皮肉ったりするといったことをします。それが、わたしの物の見方であり、考え方です。

といっても、わたしはモラリストではありません。こうした写真集を出すことで、日本人の心を傷つけるのではとも思ったりはしました。しかし、それは考え方の問題です。美しいもの、汚いもの、すべてがあって全体が存在するわけです。たくさんの事実を見せる。それが、相手を傷つけることになってもです。

禅、いけばな、お茶、素晴らしいお寺や風景などなど、いずれも実際に日本にはありますし、そうしたものをこれまでにもたくさんの写真家が撮ってきました。いまさらわたしが撮る必要があるのだろうかと思うのです。

日本人もヨーロッパ人も同じだと思うのですが、典型的なものに合わないものを除外してしまう傾向にあります。お寺が素晴らしいと、隣にある汚い建物は見ないようにする。( わたしの作品は ) そこを、お寺にフォーカスを絞らず、広角で、幅のある視野で撮る日本です。

その見ないようにするものを含めての日本が好きですし、そうした日本を撮るのが好きなんです。

swissinfo.ch : 具体的に作品を見ながら、お話していただきたいのですが。例えば、大人のおもちゃシリーズ、ゴム人形 ( ダッチワイフ ) が並んだ写真はショッキングですよね。

ポル : 雑誌のルポの仕事でした。こうした人形を持っている人にも会いました。写真は撮れなかったのですが。一人ぼっちでいる男たち。その寂しさを、彼らはどうするのかということを表現したかったのです。人形には名前があって彼らのパートナーなんです。屈折した思いと、そうした男たちの世界から発せられる魅力を表現したかったのです。彼らにとっての解決方法はモラリストにとって悪であるわけですよね。

swissinfo.ch : やくざの写真はどうでしょう。刺青をいれられながら、テレビが付いていたり。刺青をいれた2人のやくざの後姿が大写しになっていますが、なんだかユーモラスでもありますね。

ポル : そうなんです。この写真、大好きです。見てください。

ヨーロッパ人ははっきりした道徳観があると思うのです。何をしてよいか、何をしたら悪いかということがある。しかし、日本人は違うと思います。背中の刺青を見せるためにボクサーショーツを足首まで下げることを普通にしてしまう。こんなことはヨーロッパのギャングは絶対にしません。しかも、そのショーツがハローキティなんです。

swissinfo.ch : 日本の写真のほかに、たくさんのお仕事をしていらっしゃいますね。特に肖像写真を多く撮っていらっしゃいますが、仕事欲を掻き立てられる人物とはどのようなタイプの人でしょう。

ポル : 交流ができる人は想像力をかきたてられます。有名人、無名人かは問題ではありません。

わたしの経験から言って、物事や人を白か黒かと分けることはできません。すべてが灰色です。先入観や、わたしがこの人はこうだと思ったりしても、そういった先入観には常に裏切られてきました。人との出会いには常に驚きがあります。大切なのは、物事に対して興味を持つことです。

私の場合、自分の判断を確かめるために取材をするわけではないのです。日本へ行くこともそうです。日本も、観て、何かを発見するために行くのです。これからも、日本で新しいことを経験するでしょうから、たくさんの日本の写真集を出版することができると思います。

聞き手 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 、swissinfo.ch

1961年、グラウビュンデン州生まれ
ルツェルンの美術学校でデッサンの教師の資格を取るが、写真家になるため独学。年代、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで写真を勉強。
その後独立し「National Geographic ( ナショナル・ジオグラフィック ) 」、スイス「ドゥ( Du ) 」、独「シュテルン( Stern)」など、スイス国内、世界を撮り続ける。現在、スイスの文化雑誌「ゲオ (GEO)」の写真編集員。スイスメディア専門学校「MAZ」講師。

2010年、ドイツ・Steidl出版
英語/日本語。写真227点。90フラン ( 約7000円 )
日本では6月から発売

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