第45回アート・バーゼルでビデオアートやフィルムに焦点を当てる
世界最大の現代アートフェアー、第45回アート・バーゼルが19日から22日まで開催される。スイスインフォは、いわゆる絵画・彫刻などのジャンルではなく映像に焦点を当て、なぜ多くのトップギャラリーがフィルムやビデオを上映するのか、探ってみた。
ビデオアートは、1960年代後半に始まった。ビデオアートの草分け的存在ナムジュン・パイクとブルース・ナウマンがこの「動くイメージ」を使ったのだが、それはあくまで彼らのインスタレーションの一部としてだった。
1970年代になると、アメリカのアーティスト、ビル・ヴィオラが初めてビデオ作品を一つの独立した芸術作品として制作し始めた。
そして今日の若いビデオアーティストたちは、1990年代のファッションブランド「ミルクフェド」が代表するアートに夢中になったような世代だが、ビデオアートに新しい息吹を与えつつある。彼らはデジタル時代の映像に精通している。
一方、アート・バーゼルは1999年、現代アートでの「動くイメージの重要性」に注目しフィルムセクションを立ち上げている。これは、インスタレーションの中に使われるビデオ作品などではなく、「スクリーンに映し出されるアート」のみに限定したものだ。
だが、こうしたフィルムセクションもアート・バーゼルが開催される世界の3都市、バーゼル、マイアミ、香港で、その展示方法が全く異なる。それは地域の文化に敏感なそれぞれのキュレーターたちがキャッチしたものが、それぞれ異なるからだ。
バーゼルで毎年開催される世界最大の現代アートフェアー「アート・バーゼル」は、アート世界のオリンピックとも呼ばれる。
エルンスト・バイエラーを含む3人のギャラリストが45年前に始めた。その後、年を追うにつれ、世界の第一線のギャラリーが集まるようになった。元々はアート作品を売るためのフェアーだったが、現在は現代アートの展示場であり、またメディア、アーティスト、バイヤーやコレクターが集まる交流の場でもある。
今年の第45回アート・バーゼルは世界から選ばれた300以上の一流の出展者(ディーラーやギャラリー)が、20世紀と21世紀を代表する話題のアーティスト作品を紹介する 。
バーゼルで毎年開催される世界最大の現代アートフェアー「アート・バーゼル」は、アート世界のオリンピックとも呼ばれる。
エルンスト・バイエラーを含む3人のギャラリストが45年前に始めた。その後、年を追うにつれ、世界の第一線のギャラリーが集まるようになった。元々はアート作品を売るためのフェアーだったが、現在は現代アートの展示場であり、またメディア、アーティスト、バイヤーやコレクターが集まる交流の場でもある。
今年の第45回アート・バーゼルは世界から選ばれた300以上の一流の出展者(ディーラーやギャラリー)が、20世紀と21世紀を代表する話題のアーティスト作品を紹介する。
3カ所で異なるフィルムセクション
昨年の12月にマイアミで開催された「アート・バーゼル・マイアミ」では、ロンドンのギャラリーArtprojxのディレクター、デイビッド・グリン氏がフィルムセクションを担当した。それはマイアミという場所のお祭り騒ぎにも匹敵する、エンターテイメント的なイベントだった。スクリーンはすべて展示会場の外に設置されている。
一方、「アート・バーゼル・香港」では屋内にスクリーンが設置された。ここでは、香港出身でチューリヒと北京を行き来するアーティスト兼キュレーターのリー・チェンファ氏がフィルムセクションの企画を行った。
チェンファ氏がアーティストとして制作する作品は、メディアアートと呼ばれるものだ。このメデイアアートは、デジタルアートという新しい技術を使った実験アートを包括するものだ。
このメディアアートについてチェンファ氏はこう話す。「中国で70年代以降に生まれた多くのアーティストは社会的できごとやメディアに関心を持つ人が多かった。このアートは、我々がどのように未来を考えているかを表現できる一つの手段だった。そして今日、メディアアートの芸術家は現代アートの表現者と考えられるよう望んでいる」
本家本元バーセルの「アート・バーゼル」では、フィルムセクションを映画の専門家マルク・グローデ氏が7年前から担当する。動くイメージが与えるインパクトを分析する「インテリ」として、グローデ氏は複雑な映画を好む傾向がある。
グローデ氏によれば、映画を選ぶときの指標の一つは映画に「いらだち」があるかないかという点だ。「アメリカに暮らしたとき、僕にとって『いらだち』はとても興味のある感情になってきた」とさらりと言う。「この『いらだち』を人々はネガティブにとらえがちだが、僕にとってはこれは思考を続けさせてくれる何かだ。そして驚きの感情は、リラックスしていない状態(いらだちの状態)でこそ完璧な形で現れる」
そして、このドイツ人のキュレーターは、この分野で新しい「エネルギー」が現れつつあると感じている。「この分野の芸術家は、長年映写にはスクリーンが必要だという制限と闘ってきた。しかし現在、コンピューターを使えば、ほぼどこでも映写できるようになった」
グローデ氏はまた、動く映像に毎日のようにさらされている若い人たちが、アートフィルムの制作者になろうとする傾向が強くなっていると話す。
ギャラリーの役割
こうしたフィルム作品は、ギャラリーでは決して「売れやすい商品」ではない。しかし、これはますます人気が上がっているジャンルだ。
こうした中、「アート・バーゼル」はフィルム作品を展示するまたとない機会になる。いくつかのギャラリーは、「アート・バーゼル」が開催されるバーゼル、香港、マイアミのすべてでフィルムを上映しているが、作品はその場所ごとに違っている。
例えば、スイスの前衛的なギャラリーHauser & Wirthは香港ではスイスのアーティスト、ロマン・シンガーの「アクション的な彫刻」を上映した。しかし、バーゼルでは、輝くようなスターリング・ルビーの作品や精神的な要素が強いラシット・ジョンソンの作品を上映している。
「動くイメージ」は、長年存在したアートであり、ギャラリーの売却作品リストにも載せられてきたものだ。だが最近は変わってきているとHauser & Wirthのディレクターは、フロリアン・ベルクトールド氏は言う。「過去5年で大きく変わったのは、技術的な可能性が広がったことだ。イメージの質でのインフラが強化され、カメラのサイズも小型になり、ラップトップでの編集やiPhone(アイフォーン)でのサウンド録音もできるようになった」
感覚的なもの
過去50年の間、アート世界での「動くイメージ」は、主にコンセプチュアルアートであり、またパフォーマンスやインスタレーションの中で使われてきた。草分け的存在のバーゼルのギャラリーSchaulagerは、世界的に知られたアーティスト、フランシス・アリスやポール・チャンなどの作品を上映してきた。しかし、全員男性のビデオ・アーティストだ。
スイスのピピロッティやイギリスのジリアン・ウェアリングといった女性アーティストを除けば、確かに女性のビデオ・アーティストの数は非常に少なかった。
しかし、ここ2年で大きな変化が起きている。名誉あるターナー賞は女性たちに与えられた。イギリスのエリザベス・プライスはビデオ・アートに新しい局面を与えている。彼女の作品は、形式、内容、意味において「感覚的で色気のあるもの」。1年以上かかった作品は、プライスによれば「決して終わらないものだ」。
2013年のターナー賞に輝いたフランスのローラ・プルヴォストは、「Wantee」という題名のインスタレーションをこの賞のために提示した。作品の核となるものは、皮膚の上に感じる太陽光のようなものを表現する、実験性に溢れるビデオ作品だ。
こうした女性たちのビデオ作品を見ると、それはかつて存在しなかった感覚的なものをビデオで表現しようとしているように感じられる。それは、アート・バーゼルのキュレーターたちが考慮しなければならない何かなのかもしれない。
(英語からの翻訳・編集 里信邦子)
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