跳ね上がるホドラーのオークション
フェルディナント・ホドラー ( Ferdinand Hodler, 1853-1918 ) は、もっとも有名な画家として広く親しまれている。ここ数年、彼の風景画への興味は高まり、オークションでは引っ張りだこである。
先週、オークションハウスのサザビーズが公開したホドラー最高傑作「ダン・デュ・ミディ ( Dents du Midi ) 」は、11月27日のオークションにかけられる。
ダン・デュ・ミディはホドラーが1916年、ヴァレー州シャンペリー ( Champéry ) で描いた連山の圧倒的な景観だ。オークションでは500万から700万フラン ( 約5億から7億円 ) の買値が付くと見込まれている。「生前から高く売れていましたが、新しいバイヤーが加わり市場が拡大したため、価格はさらにつり上りました」とサザビーズのスイス絵画専門のウルス・ランター氏は説明する。
山シリーズ4作の最高傑作
ホドラーは、ベルナー・オーバーラントやジュネーブ湖などをモチーフとした約700枚もの風景画を描き残している。自然、鉱石、地質などの知識を基礎に、スイスの風景をユニークなアプローチで描き出した。大学で学び、何千枚ものスケッチを通して高められた記憶力や想像力を使い、アトリエで制作された。「スイス美術研究会 ( SIRA ) 」のマティアス・オベリ氏によると、ホドラーは特有の象徴主義と新しいスタイルの芸術を生み出したという意味で、卓越した芸術家だという。
代々にわたり90年間もスイスのある一家が所有していたこの絵画が、なぜ今になってオークションに出されたのか。これは、ホドラーの絵画の値段が急騰していることに無関係ではないと見られる。2007年6月、油絵「サン・プレから見たジュネーブ湖 ( Lac Léman vu de Saint -Prex )」が、予想されていた400万~600万フラン ( 約4億~6億円 )を大きく上回る、1090万フラン ( 約11億円 ) で競り落とされた。これまでのホドラーの最高額だ。また、2006年「トゥーン湖とシュトックホルン山脈 ( Thunersee mit Stockhornkette ) 」がチューリヒのオークションが付けた値段は570万フラン ( 約5億6000万円 ) だった。
スイス美術研究会によると、ダン・デュ・ミディは山のシリーズ4作の内の1枚だが、「もっとも素晴らしい詳細な表現」であるという評価を受けている。「山の青色が素晴らしい力を放出している。下から上ってくるガスが、とびっきりの雰囲気をかもし出している」とサザビーズのランター氏。「この1枚は、ホドラーのアルプス絵画を総括するものだ」。晩年の作で、これを描いた後、ジュネーブに引退し、その後1年半で亡くなっている。
スイス・オプション
スイスは現在、景気も良くお金は国際市場に流れている。スイスの美術品市場はアメリカ、イギリス、フランスに次いで第4位の大きさだ。スイスはもとより、ヨーロッパ各国やアメリカの美術愛好家や投資家が、スイスの20世紀の絵画に注目し、札びらを切るようになっている。
「国際美術マーケットは2000年から、飛躍的に高騰しています。スイス美術ももちろんこの恩恵を受けているわけですが、特に人気があります。コレクターはそのコレクションの幅を広げるのに、『スイス・オプション』も考えるようになったようです」とジュネーブ・サザビーズのシュテファニー・シュライニンク氏。
ホドラーのほか、価格の高い絵画に人気があり、アルベルト・アンカー、フェリックス・ヴァロットン、アルベルト・ジャコメッティ、ジョヴァンニ・ジャコメッティ、クーノー・アミエなどが再発見されているという。「特に20世紀前半にスイスでは絵画が多く描かれ、需要も高い。スイスのアーチストはフランス、イタリア、ドイツなどを精力的に旅行し、アバンギャルド文化に触れてスイスに帰国した。そこから独自の芸術的解釈が生まれた」とシュライニンク氏は説明する。
swissinfo、サイモン・ブラドリー、 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳
最近のオークション落札価格
2006年11月、ジョンソン・ポラック作「No.5 1948」が1億7500万フランで落札。これまでの世界最高額。グスタフ・クリムトの「アデーレ・ブロフ・バウアー ( Adele Bloch-Bauer ) 」の1億3500万フランを破った・
スイスのアーチストによる作品で最高額1850万ドルを記録したのは、アルベルト・ジャコメッティの彫刻「よろめく男 ( L’homme qui chavire ) 」( 2007年5月 ) 。
2007年にチューリヒで落札されたホドラーの「サン・プレから見たジュネーブ湖 ( Lac Léman vu de Saint -Prex )」は1090万フラン。ホドラーでは最高額だった。
また、2006年「トゥーン湖とシュトックホルン山脈 ( Thurnersee mit Stockhornkette ) 」がチューリヒで570万フランを付けた。
1853~1918年
歴史・神話、田舎の風景をテーマとするスイスの国民的画家。特に、ベルナー・オーバーラントの山々、トゥーン湖、レマン湖を描くことを愛した。
ベルンの貧困街に生まれる。14歳で両親を失い孤児に。トゥーン市で観光客用に絵画を制作するスタジオで画家として働き始める。ジュネーブの美術学校で学び、一生のうち多くをジュネーブで過ごす。
画家として多くの賞を受賞。1900年にはパリの万博で金賞を受賞した。1914年、フランスのシャルトル大聖堂がドイツ軍によって爆破されたことに対し抗議の署名をしたことから、ドイツ芸術アカデミーから追放される。このため、国際的に知られるまで必要以上に長い時間がかかった。
「ホドラー展」が来年、パリのオルセー美術館で開催される予定。その後、ベルン、ブダペストに巡回される。
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