「鳥の巣」が完成するまで
「鳥の巣」として親しまれている、北京オリンピックスタジアムを設計したのは、バーゼルの世界的に有名な建築家コンビ、ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロン。
2人の難題に満ちた仕事をつぶさに追ったドキュメンタリー映画「鳥の巣、中国のヘルツォーク&ド・ムーロン ( Bird’s Nest, Herzog& de Meuron in China ) 」がこの程公開された。
「鳥の巣、中国のヘルツォーク&ド・ムーロン」を撮影したのは、スイス人クリストフ・シャウブとドイツ人ミヒャエル・シンドヘルム。2人は4年間にわたり、このスイス人建築家コンビが遭遇するさまざまな難題、設計構想に対する疑い、迷い、そして希望などを克明に描いていった。
中立の国の人間として
チベット問題、それが引き起こす北京五輪ボイコット問題など、国際的な批判の矢面に立たされている現在の中国。奥深い文明の伝統に支えられた、しかし権威主義的なこの国を理解するのに、この映画の公開はちょうどよいタイミングだったようだ。
映画は文化の相違、それがもたらすショック、一方での設計への意欲などが複雑に織り成す道程を細かく描いていく。1つの建築物を構想し、実現していく純粋に建築的な行程と平行して、社会・政治的な問題が次々に沸き起こるからだ。
中国の権威的な官僚主義体制を前にして、2人のスイス人は、時に自分たちの構想の正しさを確信し、時に迷い抜く。そうして、最終的には忍耐とバランスの取れた外交力を身に付けていく。
ヘルツォーク&ド・ムーロンは根っからのスイス人だ。中立の国の人間として、決して自分たちの西欧の価値観を相手に押し付けようとはしない。
「われわれはここで、征服者なのではない」
と、カメラの前で断言している。
「鳥の巣」
何千年もの歴史を生き抜き、一方で現代の都市計画の波に飲み込まれている都市、北京。この都市の周辺を多くのタワーや建築物が帯状に取り囲む。ヘルツォーク&ド・ムーロンはこうした都市の環境を最大限に尊重した。
オリンピックスタジアム「鳥の巣」は、厳密に言うと、この周辺地域の第4区に建設された。中国人が覆いを好まなかったので、屋根の無いこの「巣」は、コンクリートと鋼鉄でできた「小枝」で覆われている。
丸みを帯びたその曲線と優美さで、直線が支配する周囲の建築群とは対照をなす「鳥の巣」。その存在は、北京は寺院や、王宮なども含む、豊かな歴史に支えられた都市でもあるという事実を想起させる役を担っているように思える。
swissinfo、ガニア・アダモ 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
バーゼル出身のジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンは、2人とも1950年のバーゼル生まれで幼馴染み。また、連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ/EPFZ ) 建築学科の同窓生。
1978年、共同でバーゼルに事務所を開く。
1995~2000年、ロンドンのテート・モダン近代美術館の改築で一躍有名になる。
2001年、プリッカー賞を受賞し、世界の建築家の仲間入りを果たす。日本ではガラスのキューブ型のプラダ青山店を手がけて話題をさらった。
2006年、建築界で世界的に権威のあるロイヤルゴールドメダル賞をロンドンの王立英国建築家協会 ( RIBA ) から受ける。
現在、200人あまりの建築家を雇い、世界中で多くのプロジェクトを抱えている。バーゼルオフィスの支局がロンドン、ミュンヘン、サンフランシスコ、バルセロナ、東京と北京にある。
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