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世界最高の古文書コレクション初公開

研究者の閲覧しか出来なかったボドメール図書館が古文書美術館としてオープン。 Keystone

パピルスにギリシア語で書かれた、世界最古の新約聖書「聖ヨハネの福音書」(A.D.200年頃)からアルゼンチン作家、ボルヘスの手書き小説(1953年)まで世界の知の歴史を辿る。

収集家、マルチン・ボドメールの図書館はこれまで研究者にしか公開されていなかったがボドメール財団が世界的建築家、マリオ・ボッタへ美術館改造を依頼し、今年から一般公開、世界有数の知の起源に触れることができるようになった。

コレクションの見所

 「どの作品に一番価値が?」との質問にジュネーブ大学学長、アンドレ・ハスト教授は「個人的な見解だが、現在までラテン語の解釈でしか知られていなかった古代ギリシアの新喜劇作家(前342〜前292年頃)、メナンドロスのギリシア語でパピルスに書かれた作品群の発見は今世紀で一番大きかったのでは」といい、「スイスで唯一のグーテンベルグの聖書」も挙げた。ドイツのマインツで「初めて活字を使って印刷された西洋最初の書物」とされるグーテンベルグ聖書は1455年頃、ラテン語訳で印刷された。聖職者以外の階級へ聖書を普及させ、宗教改革へつながったことから「グーテンベルグ革命」とも言われる。当時、180部ほど印刷されたと言われるが現在残っているのは40部と言われ、日本も慶應義塾大学が一冊所蔵している。

 この他、モーツアルトの自筆の楽譜「アレグレット短調の四重奏曲」やベートーベンの力強い性格を彷彿させる手書き楽譜、アインシュタインが一般相対性理論の講演の際に使った計算式のメモなどもある。興味深いのは万有引力論が登場するニュートンの「自然哲学の数学的原理」(プリンキピア、1687年)の初版本に最大のライバル、ライプニッツの書き込みメモが見られる。微積分を誰が先に発見したかで先取権争いがあったことを考えると貴重な資料だろう。また、ジュネーブで息を引取ったアルゼンチン作家ホルへ・ルイス・ボルヘスの小さく緻密な筆跡など必見だ。

ボドナーの最大発見

 紡績業から財をなした収集家、マルタン・ボドメール(1899〜1971年)が現在、値段をつけることもできないコレクションが成るには驚くような逸話がある。1958年のある日、カイロの闇市で商人が「旦那が興味のある古代コレクションがある」との誘いに出向いたところ、砂漠でみつかったと言う一連のパピルスの原稿がいくつもあった。商人は「全部セットでしか売らない」というので、いらないものは捨てればいいと買占めた。ボドメール自身、ギリシア文字の形体で2世紀から4世紀のものと想定していたが、帰国して鑑定してみたところ、世紀の発見に繋がることに。一点はこれまで、最古の新約聖書はシナイ写本とバチカン写本(ともに4世紀)との史実を覆す、A.D.200年ごろに想定される「ヨハネによる福音書」全編だった。もう一つの大発見は前述のメナンドロスの劇作品だった。ハスト教授は「結局、捨てるものは何もなかった」と語るが、この福袋セットの値段は公表されていない。

日本からコレクション

 日本のコレクションは十数点というが、今回展示されているのは伊勢物語と源氏物語の写本と禅僧が書いた水墨画の掛け軸だ。伊勢物語は17世紀全般に流行した絵入りの写本で、奈良絵本と呼ばれるもの。元禄時代の作成で挿絵が色鮮やかで美しい。源氏物語の写本は正徳から享保(1711〜1736年頃)と推定され、白描の挿絵があり、絵入り源氏物語の完全揃い本でかなり珍しいものという。

ミケランジェロからマリオ・ボッタまで

 財政状態が困難だったボドメール財団は美術館への改造に当り、ミケランジェロのデッサンを競売で売り、ボドメール美術館の増設を行った。建築を請負ったマリオ・ボッタ氏は「ここでの建築の役割は蔵書を保護すること」と語り、地形的制限から既にある2件の邸宅を地下で結ぶ展示所を造った。1925年からボドメールの邸宅があるコロニー村は現在はジュネーブの高級住宅街でレマン湖の対岸に国連欧州本部が見渡せる。近隣には詩人バイロン卿の邸宅もあり、蔵書との対話にはピッタリのロケーションである。


スイス国際放送、 屋山明乃(ややまあけの)

‐今まで研究者の閲覧しか出来なかったボドメール図書館が古文書美術館として11月22日から一般にオープンした。開館時間は火曜から日曜、14時から18時まで。ジュネーブのレマン湖畔の街コロニーまで33番のバスで行ける。

‐80言語、16万部ある蔵書から230点が常設展で展示され、展示会も行われる予定。

‐コレクションは「世界の知」を集めたもので古代エジプトのヒエログリフからホメロス、コーラン、グーテンベルグの聖書、シェークスピアからランボーなどの初版本や自筆原稿を収蔵している。

‐日本のコレクションは30点から40点あるが、中でも源氏物語、竹取物語、伊勢物語、古今和歌集、源氏小鏡などの美しい挿絵つき写本がある。現在、展示されているのは源氏物語と伊勢物語の奈良絵本など。

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