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元祖直接民主制、アッペンツェルの「ランツゲマインデ」

アッペンツェルのランツゲマインデ。4月29日 Keystone

毎年4月の最終日曜日、アッペンツェル=インナーローデンでは重要な議事の審議、州判事・州議選出の投票を行う住民大会「ランツゲマインデ(民会)」が開催される。広場に成人市民全員が集まり、投票は挙手で行われる。4月29日に行われた今年のランツゲマインデをリポートする。

「ランツゲマインデ」は14世紀から行われている元祖住民投票だ。4月の最終日曜には、アッペンツェル行きの列車は満員で、人々は「投票に行きますか?」と挨拶を交わす。「よそもの」がまず驚くのは、男性達が刀剣を着用していることだ。伝統では刀剣が投票権を象徴していた。今日でも、ランツゲマインデの日には、アッペンツェルの男達は刀剣を着用する。

投票の前に、教会によるミサが行われる。アッペンツェル=インナーローデンは敬けんなカトリック州で、今でも宗教は日々の暮らしの様々な面で重要な役割を果たしている。ミサが終ると、ブラスバンド、各ゲマインデ(市町村)による旗振りが行われ、いよいよ約2時間のランツゲマインデの開催となる。広場には約3、000人の住民が集まっている。ステファン・オッツさんはアッペンツェル州に引っ越して来たばかり。今回が始めてのランツゲマインデ出席だ。「これは最も純粋な形での民主主義だと思う。出席できて光栄だ。とても古い伝統で、他のどこにも残っていない投票形式だが、この伝統なくしてスイスはあり得ない。」と語った。カルロ・シュミッド・ランツマン(アッペンツェル州知事)は個人的にもこの投票制度の支持者だ。「たった2時間で、どれほど多くの事を処理できたか見て下さい。建設許可、道路拡張、日曜の営業時間(スイス特にカトリック州では日曜は営業禁止の所が多い)、州議員の選出、全部終った。我々はここに来て、あらゆる事を投票で決定し、1年の残りの日々を平穏に暮らすのだ。が、我々はただ古いというだけの理由でこの伝統を守ろうとしているのではない。が、古いからという理由だけで廃止するべきだとも思わない。ここアッペンツェルでは、今日でも有益だと思う伝統を保持するのだ。」と語った。

実はアッペンツェル=インナーローデン州では10年前まで女性の投票禁止という伝統法を守っていた。1991年にスイス連邦裁判所が介入し、州に女性参政権を強要する形で認めさせた。今年ランツゲマインデに出席した働く母親モニカ・レームさんは「私はいつも投票できないなら税金を払わないと行って来た。投票権を持てて本当にうれしい。第一、男だけがスーツで出席していたらグレーすぎてつまらないでしょう。」と笑った。が、年輩のアッペンツェル女性はレームさんとは意見が違うようだ。「最初わたしは女性の投票権には反対だった。それは、我々の伝統の1つが失われることになると思ったからだ。それに我々女性はいつも夫に何をどのように投票するか命令してきたわけで、私達は政治に声を反映できないなんて思ったことはない。」とマリア・ハンムさんは語る。が、投票権を得た今、ハンムさんも「女性が投票権を持っても伝統は保持できている。女性の州議が選出できたなんて最高だ。」と言う。

が、ランツゲマインデの未来については疑問もある。アッペンツェル=アウターローデン州などでは、無記名投票の方がより民主的だとの理由で野外挙手投票制度を廃止した。今回初出席のオッツさんも、ランツゲマインデには匿名性が皆無なことは認め、ランツゲマインデに出席するには反対意見を公然と表明することも覚悟しなければならないと述べた。また、この点に関してレームさんは「若い世代は公の場での挙手投票は好まない。10年から15年の間には、ランツゲマインデはなくなるかもしれない。わたしは伝統が好きだから、ランツゲマインデがなくなったら私は悲しいが。」と述べた。これに対し、ハンムさんら年輩の世代はランツゲマインデがなくなる日など想像もできないようだ。シュミッド知事も「政治制度は人為的なもので、人為的なものは全て刹那的だ。が、もしランツゲマインデ最後の日を予想しろと言われるならば、2000年後と答えよう。」と言った。

ランツゲマインデの日はアッペンツェル最大のお祭りの日でもある。狭い通りには人があふれ、焼きソーセージの香りが町中に満ち、アッペンツェル・ダルシマーの音色がカフェやバーから聞こえてくる。そうなのだ。ランツゲマインデがかくも長く続いているのは、春の良き日、点在する農場から人々が集会に集まり、友達や家族・親族に会い、情報や近況を伝え合い、商談を行う絶好の機会だったからだ。

21世紀の平凡な日常衰�に戻る前に、スイス最小の州の長い歴史の誇りに思いを馳せて。

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