スイスに春を告げる標準木「ヴァイデリ」 代替わりが間近

スイスでは各種の桜が見頃だ。著名なお花見スポット、スイス北部リースタール(バーゼル州)の野生の桜は、134年前からの標準木に代替わりの時が近づいている。

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スイス各地に春が訪れている。白やピンク色の桜が日替わりで開花し、広場や公園、街路を一瞬にして壮大な花の海に変える。一方、リースタールの森の端にある野生の桜(セイヨウミザクラ)は、開花までもう数日かかりそうだ。
「今日、2分咲きになりました」。リースタールに住む生物学者、スザンヌ・カウフマンさんは顔をほころばせる。毎日つぼみが開く様子を双眼鏡で観察し、スイス気象台(メテオスイス)に報告している。
リースタール近くの森の端にあるセイヨウミザクラは「ヴァイデリ」の名を持つ伝説の木だ。数十年前から、春の開花の始まりを示す標本木に定められている。スイス気象台の生物気象学者レギュラ・ゲーリックさんは、気候変動の進行とともに開花が目に見えて早まっていると話す。今年は131年にわたる観測期間の平均より2週間早い。
リースタールの森の端に立つセイヨウミザクラ「ヴァイデリ」の開花状況を記録し始めたのはエドゥアルド・ハイニス(1850~1967)。元教師のハイニスは地元議員を務め、後に刑務所の所長も担った名士だ。
ハイニスはリースタールの丘にある農場「ヴァイデリ」(Weideli。牧草地の意)を買い取った。そして1894年にセイヨウミザクラの開花状況の記録を始めた。
カウフマンさんは、「ハイニスは単に台所の窓から見えた1本を選んだだけなんです」と話す。サクランボの収穫時期を予測するのが目的だったようだ。
リースタールで桜の開花の記録が始まったのは1894年。これは(日本に比べれば遅いが)世界的には早い方だ。ベルン大学の調査外部リンクによると、その他の地域も含めれば1721年には農家や教職者、教師などによる記録が始まっていた。
20世紀半ばまで、桜の開花は農家が正確な収穫時期をはじき出すために観測されていた。「連邦鉄道は収穫時期に合わせて機関車や貨車、人員を提供しなければなりませんでした。荷送業者にはかごやトラック、人材、資金も必要でした」(カウフマンさん)

だがヴァイデリは年老いた。カウフマンさんは 「まだ定期的に花は咲きますが、見栄えが悪くなりました」と嘆く。枝が折れ、高い樹幹にまばらに咲くだけだという。
現ヴァイデリは131年前の原木ではない。初代ヴァイデリはいつしか枯れてしまい、1968年に近くにあったもっと若い桜が標本木の役を引き継いだ。以来、2代目ヴァイデリは毎年確実に開花状況を提供してきた。だが再び代替わりの時が近づいている。
3代目は誰に?
カウフマンさんは既に後任の目星をつけている。「たぶん、隣の桜の木でしょう。だいたい1~2日遅く開花します」。
2代目ヴァイデリの「複製」を作成する試みも同時進行している。昨年、リフトを使って一番上の枝を切り落とし、別の若い桜の木に接ぎ木した。
2代目と同じ遺伝子を持つこの「2.5代目」は、2代目と同じ場所に植えられる予定だ。
3代目と2.5代目のヴァイデリのどちらが標本木となるのか、現時点ではまだ決まっていない。ゲーリックさんは、森林の端に標本木の居場所が確保されることだと話す。これほど昔から毎年桜の開花が記録されている場所は、スイスで他にないからだ。
スイス気象台のゲーリックさんは「一般的に、スイスでは今年もすべての花がかなり早く咲き始めた」と話す。
セイヨウミザクラは1991~20年の平均より7日早く咲いた。フキタンポポやアネモネなども平均より2週間ほど早く春を迎えた。
「今年のミッテルラント地方(中部平原)は2月を中心に霧が多かった。このため例えばハシバミの開花は1991~20年平均より10日早かったが、昨年は19日も早かった」
全般的には、気候変動により暖冬が続いている。
独語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子

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