屋根の緑化、道路の白化…ヒートアイランド対策に有効なのは?
世界各地で夏の最高気温が記録されるなか、都市部の暑さはより深刻だ。ヒートアイランド現象を和らげ、辛い夏を乗り越えるにはどうすればいいのか?スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の専門家に聞いた。
バルセロナで40℃超え、ブカレストで42℃、イタリア南部フォッジャで43℃。今年7月末から8月初めにかけて欧州の一部を覆った熱波により、気温は過去の平均値を大きく上回った。スイス気象台(メテオスイス)によると熱波はスイスの一部地域にも及び、南部ティチーノ州ルガーノでは25℃以上の夏日が7月22日まで15日間続き、1864年の測定開始以来最長期間を記録した。
暑さとそれに伴う不快感は、特に都市部で深刻だ。アスファルトやコンクリートの表面は太陽エネルギーを吸収・増幅し、日中の熱をこもらせる。車両や工場からも熱が発生し、緑地の少なさや換気の悪さと相まって、ヒートアイランド現象を引き起こす。
その結果、都市部では周囲の農村地域よりも気温が数度高くなることがある。田舎に比べて冷えるのが遅いため、夜間の気温差は特に顕著だ。スイスの都市部では夜間の気温が周辺の農村部より5~7℃高くなることもある。
猛暑は不快なだけではない。熱中症や心血管疾患などの持病悪化にもつながる。スイスの都市でヒートアイランド現象が起きると、他の比較的涼しい都市に比べて死者が26%多いとの研究外部リンクがある。
経済的影響もある。欧州でヒートアイランド現象が医療費に及ぼす影響外部リンクは、大気汚染による影響に匹敵する。
残念ながら、都市の猛暑問題を解決する特効薬はないが、対策は打てるーー都市気候・熱波が専門のヤン・カルメリエETHZ教授はそう話す。
swissinfo.ch:あなたはスイス最大の都市、チューリヒで働いてます。都会の暑さにはどう対処していますか?
ヤン・カルムリエ:私のオフィスはガラス面の多い新しい建物の中にあります。南向きで、遮光装置はありますが熱波が来ると日中は暑すぎます。その場合は自宅で仕事をします。
周囲の外部環境も建物内の温度に影響を与えることを意識している人はあまりいません。たとえば建物の周囲に木があると、建物内の温度を下げてくれます。
アスファルトやコンクリート、その他従来の建築材料は保温効果があります。ヒートアイランド現象を軽減する建物や道路を作るための代替資材にはどんなものがありますか?
アスファルトは地下に水を通しません。代替案の1つは、多孔質で透水性のある舗装でしょう。雨水を集めて蒸発させ、周囲の温度を下げます。
こうした舗装は歩道には適していますが、交通量の多い通りには適していません。都市部でコンクリートの改装はさらに困難です。ファサードや屋根の緑化は都市の局地気候だけでなく生物多様性にもプラスの効果があります。
ロンドンの研究外部リンクによると、屋根を白く塗ったり反射材を設置したりした方が、屋根の緑化や路上緑地帯の設置より効果的に都市を冷やすことができます。都市を白く塗るべきでしょうか?
白い屋根は、建物の中を冷却する必要性を減らすという点でも優れた解決策です。しかし都市部の気候に目に見える効果を上げるには、全ての屋根の半分を白く塗らなければなりません。歴史的建造物の多いチューリヒのような都市では極めて不可能です。工業地帯や大きなスーパーマーケットならいいかもしれませんが。
道路はどうでしょうか?ロサンゼルスは2018年に都市では初めて一部の道路を白く塗りました。スイスでも同様のプロジェクトで、路面温度が大幅に下がることが実証されました。
舗装したてのアスファルトは真っ黒で、太陽放射の吸収量が多く、蓄える熱も多い。時間が経つと灰色っぽくなり、熱の吸収力が落ちます。結果的にはそんなに酷いことではありません。
全ての道路を白く塗装すれば、眩しくなって解決策になりません。晴れた日には眩しくて運転できなくなる危険があります。
景観の問題もあります。白は汚れやすく、汚い道路は好かれません。
スイスを含む世界の多くの都市が公共スペースに木を植え、緑地を作っています。ヒートアイランド対策には植樹を増やすだけで十分でしょうか?
樹木は日陰を作り、局所的に涼しさを与える効果があります。体感温度は最大6℃下がります。冷却効果は木の種類や大きさ、樹齢によって異なります。最も効果的なのは葉が密生し、広範に根が張り、大きい落葉樹です。
しかし木は逆効果をもたらすこともあります。気流を遮断し、ヒトの体が日中の熱から回復しなければならない夜間の熱放散を妨げる場合があります。植樹はある地域にはメリットとなりますが、その近隣地域では気温に伴う快適性が低下するのです。
このため都市計画の責任者は、木をどこに植えるか、全体の状況を考慮に入れる必要があります。大通りの真ん中など、通気性の高い道路に大きな木を植えるのは避けるべきです。一般的な気候条件も重要で、高温多湿な気候の都市では樹木の冷却効果が低下します。
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スイスの都市、緑化でヒートアイランド対策
スイスの実例として、チューリヒの新興住宅地の1つ「オイロパ・アレー」は夏になるとオーブン状態になります。計画段階で熱の問題が見落とされた外部リンクそうです。これは特殊なケースなのか、それともスイスの都市がヒートアイランド対策に十分取り組んでいないということなのでしょうか?
この個別事案で何が起こったのかは知りません。他にも多くのミスが起きています。「プライムタワー」(編注:チューリヒ中心部にあるスイス第2の高層建築)の周囲にはアスファルトが多すぎます。外部空間には考えが及んでいなかったのです。
しかしチューリヒにしろスイスの他の都市にしろ、対処したいという気概が感じられません。意識は高まっており、正しい方向に進んでいるとは思います。それがゆっくり過ぎるとしても。
私たちはさまざまな熱波の動きなど、夏の都市気候を10㎝単位でシミュレーションできるモデルを開発しました。自治体はシミュレーションを使用して近隣地域の温度快適性を評価し、暑さ対策を構築できます。ただし、モデルを動かすには大量のデータが必要です。
スイスの平均気温は今世紀末までに4℃以上上昇する可能性があり、上昇幅は世界平均を上回ります。スイスの都市はどのように適応すべきでしょうか?
まずはヒートアイランドを緩和しなければなりません。前に説明したように、可能性は数多くあります。植樹や多孔質の道路、都市を通る通気通路はすべて、正しく実行すれば熱を調節する効果的な手段となります。人々が移動でき、温度環境をうまく調節できる緑豊かな道路やアクセスの確保が重要です。逆に、木のない広い通りは熱風の通り道となり、歩道には適さないかもしれません。
都市は適応策も練る必要があります。暑さに適応するということは、高気温に対応するための包括的な計画を実施し、熱波を監視し、どのように行動するかについて国民の意識を高めることを意味します。
国民が数時間酷暑から逃れるための冷房センターをスイスにも創設すべきでしょうか?
スイスの都市は人口密度がそれほど高くありませんが、暑さに弱い高齢者にとって冷房センターは非常に役立ちます。当局がスポーツセンターに空調完備の部屋を提供してもよいでしょう。当然ながらアクセスが容易である必要がありますが、スイスには空調の効いた公共交通網が発達しています。
スイスの自治体に参考となりそうな先駆的な都市はどこでしょうか?
ウィーン、モントリオールからシンガポールやシドニーまで、多くの都市が対策に乗り出しています。しかし、そのまま模倣できる暑さ対策というのはありません。ある場所で効果があったとしても、他の場所ではそれほど効果的ではない可能性があるからです。
どこに木を植えるか。どのファサードを緑化するか。最も高い建物をどこに建てるか。当局は研究機関や都市計画研究者、住民と協力して、緩和策の適切な組み合わせを見つけなければなりません。各都市は自分の市に合った解決策を見つける必要があります。
そうすることで、また何よりも排出削減を通じ気候変動を抑えることで、都市の気温が下がり、より住みやすくなるのです。
編集:Sabrina Weiss、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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