気候資金、スイスの拠出額はフェア?「公平な分担」を巡る論争
アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、途上国への気候資金支援が最大の焦点となった。英シンクタンクがスイスは「フェアシェア(公平な分担)」以上の貢献をしていると評価する一方、国内の環境保護団体はまだ足りないと反論する。何を基準に「公平」を判断するべきなのか?
国際開発と人道問題を専門とするロンドン拠点のシンクタンク「海外開発研究所(ODI)」は9月に発表した分析外部リンクで、スイスは気候危機に対処する貧困国への支援でやるべき以上の貢献をしている、と評価した。 2009年にコペンハーゲンで開かれたCOP15で、先進国は気候変動対策に取り組む中低所得国に毎年1000億ドルを拠出すると約束。当初期限から2年遅れの2022年、目標額に届いた。ODIによれば、スイスはこの間に「フェアシェア」以上の額を拠出した12カ国のうちの1つだ。
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フェアシェアは主に「歴史的責任(温室効果ガスの累積排出量)」と「国の経済力」を基準に算出する。気候資金は、開発途上国が気候変動に対処し化石燃料から脱却するための支援に使われる。
現在はパリ協定の下で23カ国に国際的な「気候資金」への拠出が義務付けられている。実際の拠出額は各国が自由に決定できる。環境NGOは富裕国が公平な分担を果たしていないと非難し、現在の資金目標は途上国のニーズを十分に満たせないと主張している。
誰が何を負担する?
これまで最も「太っ腹」だったのはノルウェーとフランスだ。ODIによれば、両国は2022年にフェアシェアの2倍以上を拠出し、目標額の達成に貢献した。スイス、ドイツ、日本の拠出実績もフェアシェアを上回った。
ODIはスイスのフェアシェアを年間9億3000万ドル(約1400億円)と見積もっている。2022年の拠出額は13億3000万ドルと、フェアシェアの143%相当だった。
一方でイタリア、英国、スペインを含む多くの先進国はフェアシェアを下回った。最下位はギリシャと米国で、2022年実績はフェアシェアの3割程度に留まった。
米国は気候資金として140億ドル超を提供した。だがODIは米国の排出量、人口規模、国民総所得(GNI)を踏まえるとその3倍を拠出すべきだったと指摘する。
条件付きの気候資金援助
ただODIの数字は慎重に解釈する必要がある。ODI自身が指摘するように、多くの国が気候資金の大半を融資で提供しており、受益国の債務を膨らませている。英国の慈善NGOオックスファムは2023年に、気候資金の約4分の3を融資が占めると報告外部リンクしている。ODIも、返済不要の無償資金のみをカウントした場合、フェアシェアの達成率は大幅に下がると注記する。 ODIの数字でもう1つ留意すべき点は、国際開発金融機関(MDBs)が提供する気候資金を、MDBsへの出資比率や議決権に基づいて加盟国自身の拠出分に計上していることだ。国際協力・開発援助に取り組むスイスのNGO「南同盟」のローラン・マティル氏は、この数字は「スイスの公式
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スイスの拠出金倍増を求めるNGO
スイス政府自身が設定するフェアシェア外部リンクは年間4億5000万~6億ドル。国内のCO₂排出量を考慮した数字だ。
連邦環境省(FOE)によると、スイスは2023年に公的資金から約5億4600万フラン、民間資金約3億100万フランを気候資金に拠出した。前者は主に国際開発協力予算から拠出されており、NGOから厳しい批判を受けている。
マティル氏は、「スイス政府は『汚染者負担の原則』に基づく新しい資金源を提案すべきだ。環境破壊、この場合は気候変動を引き起こした者は、その責任を負いコストを負担しなければならないということだ」と指摘する。
南同盟は公的資金の拠出を倍増し、最低10億ドルに上げることを求めている。マティル氏は、この額は国内だけでなく輸入に伴う排出量も考慮したスイスの実質排出量に見合うと説明する。環境省によれば、スイスの輸入品に関連する国外での排出量は、1人当たりに換算すると国内排出量の2倍以上だ。
グリーンピース・スイスの気候専門家、ゲオルク・クリングラー氏は、「スイス政府はこれまで、気候危機における国の責任を過小評価してきた」と述べる。同氏もまた、スイスのフェアシェアは年間10億ドルが妥当であり、また国際援助予算を充てるべきではないと考えている。
途上国が真に必要なもの
COP29では、最貧国や地球温暖化で特に被害を受けている国々への資金援助が焦点となった。スイスを含む約200カ国の代表が、2025年以降の新たな目標として資金枠を3000億ドルに引き上げることで決着した。
クリングラー氏は、世界の国内総生産(GDP)の約1%に相当する経済力を持つスイスは、気候資金の1%を拠出すべきだと主張する。マティル氏も、スイスは支援額を「大幅に増やす必要がある」と強調する。
編集:Sabrina Weiss 英語からの翻訳:由比かおり、校正:ムートゥ朋子
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