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2000ワットで十分

「2000ワット社会」を求め2008年、ベルン・メッセ会場前で環境保護団体「グリーン・プリーズ」がプラカードを掲げてデモ Keystone

2008年11月30日の住民投票で、チューリヒ市は全国に先駆け、「2000ワット社会」を市の条例に取り入れることを承認した。

1人あたりのエネルギー消費を2050年までに、現在の6000ワットから3分の1に減らすという野心的な案が投票者の76.4%もの支持を得たことは、予想外の結果だった。

長期の目標はグリーン

 環境を管轄する保健・環境局 ( Umwelt- und Gesundheitsschutz ) の当時の責任者、ロベルト・ノイコム氏は
「市民の2世代後の将来に向けてレールを敷いた。( 結果を出すまでには ) 長い息が必要」
と投票結果が出た際に語り、成果が上がるには市民にとっても忍耐が必要であることを示唆した。

 この計画の目標は、1人あたりの消費エネルギーを1960年代当時のレベルに戻すことだ。そのためには、現在の年間消費量6000ワットを3分の1に減らし2000ワットにし、二酸化炭素 ( CO2 ) の年間排出量を現在の1人あたり6トンから1トンに減らすことが必要という連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) の具体案を伴った計画が土台となっている。

 投票前にはチューリヒ産業商工会議所、「スイス経済連合エコノミースイス ( Economiesuisse ) 」、「スイスツーリングクラブ ( TCS )」 などが、膨大な経費がかかることを挙げ、持続的に可能ではないと反対のキャンペーンを張ったにもかかわらず、市民の決心は変わらなかった。環境・保健局の「エネルギーと持続性課」で建築を担当するトニ・ピュンテナー氏は当時を振り返りながら、進歩的ビジョンを試しにやってみようという土壌がチューリヒにはあると強調する。
「この問題に無知な人が反対しただけだ。反対したのはむしろチューリヒ市以外にある団体だった。わたしたちは、ほかの人が何かをし始めるのを待っているという態度は取りたくない」

 さらに、原子力発電所との契約は更新しないことも決められた。現在チューリヒ市で消費される電力の約3分の1から半分が4カ所の原子力発電所から賄われているが、最後の契約が切れる2044年以降は原発には頼らないことになる。

建築分野で大きな可能性

 連邦工科大学チューリヒ校の分析によると、2000ワット社会は現在の生活の質を下げなくとも実行できるという。そのためには、エネルギー効率を上げ、失われて行くエネルギーをこれまでの57%から40%まで下げることと、器具などを動かすために必要なエネルギーを半減することの二つを挙げている。これにより省エネは3倍の効果をもたらすという。ピュンテナー氏の説明では、チューリヒ市は特に建築分野での省エネの可能性が最もあるという。建築材の製造工程から冷房に至るまで再生不可能なエネルギーが現在半分を占めるという建築関連には、エネルギー効率の高いものにする余地はまだ多く残っているからだ。

 市民が2000ワット社会を承認してから2年がたったが、市はすでに太陽エネルギー発電から供給されるエネルギーは保証し、必ず購入するようになった。市民は家庭で消費するエネルギーのうち、太陽エネルギーが占める割合を年間54キロワットから段階ごとに選ぶことができる。市全体で消費されるエネルギーに占める太陽エネルギーの割合は0.4%にしかすぎない。しかし、割高でも太陽エネルギーを買おうとする動きは市民の中にも出てきている。

 またチューリヒ市が所有するビルは徐々にミネルギーハウスでも現在のところ最も基準の高い「P」を基本し、屋根にはソーラーパネルを置くことや、風力発電の促進に最も力を入れているという。ミネルギーハウスを建てる際、民間会社の指導を希望すれば市から支援金も出す制度も導入した。およそ1週間かかる指導の料金は6000フラン ( 約50万円 ) 。実際にミネルギーハウスを建てることになった場合は、全額が市から支払われる。
「建築分野では、2000ワット社会は達成可能です」
 とピュンテナー氏は太鼓判を押した。

市民の寛容さも大切

 一方、交通分野では、約8割の通勤者がすでに公共交通機関を利用していることなどから、今後節約する余裕はさほどないとピュンテナー氏は言う。それでも、自転車交通を現在の7%から12%に増やすため自転車ルートの充実や自転車の駐車場を新たに作っている。市内の配達トラックも商店街で共有することで輸送回数を減らす試みもある。

 2000ワット社会に次いでチューリヒ市は2009年11月29日、地熱利用計画のため3870万フラン ( 約32億円 ) の予算を承認した。しかし今年春になって、2500メートル掘った地下は80度しか熱がなく、計画は中止となった。その理由をピュンテナー氏は
「水を温めるだけではなく電気としても使うことに意味があった。花崗岩の硬い層をもっと深く掘れば高い温度が得られる可能性はあるが、地震を誘発するようなことになるかもしれない」
 と言う。

 2000万フラン ( 約16億円 ) の税金がつぎ込まれたのちに中断されたものの
「掘ってみなければ分からなかったという一面がある。ここで得られたデータを有効利用することに今は意味がある」
 と語り、いまのところ市民からの不満の声は上がっていないという。2050年の目標の達成のためには、チューリヒ市の試行錯誤を認める市民の寛大さも必要とピュンテナー氏は言う。資金に余裕があるからだという批判には「どこにお金をかけるかだ」と反論する。

 7月最初の週末に開催された夏祭り「チューリフェシュト ( Züri-Fäscht ) 」では、220万人の人出となった。気温が毎日30度を越し、ソフトドリンクが50万リットル、ビールが50万リットルが消費された。今年から露店で売られたペットボトルの回収を徹底したところ、3日間で10トンのペットボトルと空き缶が回収されたという。一人一人のちょっとした心がけが大きな成果を生んだ例だ。市民が決めた2000ワット社会への意思は2年たった今でも健在だ。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

オフィスも住宅も建物はミネルギーハウスにし、エコランプやエネルギー効率の高い家電を使い、自家用車は100kmを3.3ℓ以下で走る効率の良いものにする。
エネルギーをより少なく使う物品を消費し、資源を効果的に使う。そのほかリサイクリングや再生可能なエネルギーの利用率を上げる。
人の移動も物流も、車そのもののエネルギー効率の上昇のほかに、公共交通やカーシェアリングを高めるほか、必要、不必要を見極めホームワークなども含めて職場と家の距離を短くするといったことも提案されている。

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