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COP29 スイスと世界にかかる排出削減への圧力

米フロリダ州で2024年10月11日、大型ハリケーン「ミルトン」による大雨でアンクロート川が氾濫。ニューポートリッチー市が冠水した。気候変動の影響により、ハリケーンや台風が強大かつ急速に発達する傾向が懸念されている。ミルトンも最も弱い「カテゴリー1」からモンスター級の「カテゴリー5」へと、24時間足らずで急速に勢力を強めた
米フロリダ州で2024年10月11日、大型ハリケーン「ミルトン」による大雨でアンクロート川が氾濫。ニューポートリッチー市が冠水した。気候変動の影響により、ハリケーンや台風が強大かつ急速に発達する傾向が懸念されている。ミルトンも最も弱い「カテゴリー1」からモンスター級の「カテゴリー5」へと、24時間足らずで急速に勢力を強めた Copyright 2024 The Associated Press. All Rights Reserved

アゼルバイジャンの首都バクーで11〜22日、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が開かれる。現在の温室効果ガス排出削減の状況は、明らかに危機的だ。世界、そしてスイスは気候目標の達成に向け、どれほどの進歩を遂げたのだろうか。

2015年に締結されたパリ協定は、産業革命前からの世界気温の上昇を1.5度未満に抑えることを重要目標とした。COP29の開幕が迫る今、目標達成への取り組みを注視してきた研究者や当局者らの現状評価は「火遊び」「時間の浪費」「地球規模の綱渡り」と手厳しい。

国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は10月、UNEPが公表した「排出ギャップ報告書」2024年版外部リンクで「ホットエア(空手型)はもう十分だ」と訴えた。

同報告書の著者らは「言葉と現実の間に大きな乖離がある」と警告する。温室効果ガスの排出削減は現在、十分なペースで進んでいない。削減量の膨大な不足を埋め合わせるには、世界の排出量の80%近くを占める主要20カ国・地域(G20)をはじめ、各国がより本腰を入れ「劇的に強力」な公約を掲げ直す必要がある。

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各国はバクーで排出削減目標を議論したのち、2025年2月までに新たな公約を提出し、同年11月のブラジルでの第30回締約国会議(COP30)に臨む。

UNEPの研究者らによると、世界は今、産業革命前からの気温上昇が2100年までに2.6〜3.1度に達する「破滅的」な道を進んでいる。それを回避するには野心を「量子的に飛躍」させる必要がある。具体的には、史上類を見ない世界規模での再生可能エネルギーの導入や森林保護、エネルギー効率向上策などが含まれる。

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環境関連データの分析プラットフォーム「ネット・ゼロ・トラッカー」によると、世界の主要な企業、都市、地域の40%余りが、まだ温室効果ガス排出削減目標を定めていない。それに比べ、スイスの状況はずっと良好のようだ。スイス証券取引所の上場企業のうち大手30社を見ると、3分の2余りが2050年までに排出量を差し引きゼロにする目標を定めている。また、世界自然保護基金(WWF)の8月の発表によれば、国内全26州のうち複数の州が、建設部門をはじめとする気候・エネルギー政策で進歩を遂げている。ただしWWFは、地域ごとに重要な違いがあることや、まだ1.5度目標に準拠した取り組みを進めている州がないことも指摘している。

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太陽光発電とクリーンエネルギーに一条の光

排出削減の遅れを伝えるニュースには気が滅入るが、太陽光発電などクリーンエネルギーの目覚ましい成長には確かな希望が感じられる。2023年12月にドバイで開かれた第28回締約国会議(COP28)では、各国政府が再生可能エネルギーによる発電容量を2030年までに3倍に引き上げ、化石燃料からの脱却を進めることで合意した。

UNEPによると、太陽光発電と風力発電を推進することで、2030年までに必要な排出削減の27%、25年までに必要な排出削減の38%が達成できる見通しだ。さらに20%は森林破壊の停止で、残りはエネルギー効率の向上、建築物・交通機関・工場の電化、化石燃料施設からのメタン排出の削減で実現できる。

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国際エネルギー機関(IEA)は年次報告書「世界エネルギー見通し」2024年版外部リンクで、太陽光は2033年までに原子力や風力、水力、ガス、ひいては石炭を抜き、単独で最大の電源になると指摘した。

IEAによれば、クリーンエネルギーは「前例のないペース」で成長している。ただし、この拡大はエネルギー需要の増大に伴って進んでおり、そこには石炭火力発電への需要も含まれる。IEAは石油・ガス需要が2029年までにピークを迎え、世界は産業革命前からの気温上昇が2.4度となる軌道に乗ると予想している。

IEAは1.5度目標の達成について、「ますます狭いが、まだ実現可能」な道筋が残っているとみる。それにはクリーン電力を増やし、電化を加速させ、2030年の排出量を2023年比で33%削減する必要がある。

スイスの排出削減は進んでいるか

スイスは2030年の温室効果ガス排出量を少なくとも1990年比で半減させ、2021〜30年の年平均排出量を同35%減、また2050年までに排出量を差し引きゼロにすることを公約している。

2022年の国内排出量はノルウェーやポルトガルと同水準の4160万トン(CO₂換算)で、1990年比の削減率は24%だった。

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連邦環境省環境局(BAFU/OFEV)は依然として、スイスが目標達成への軌道から外れていないと確信している。同局広報のロビン・ポエル氏はswissinfo.chに対し、「国内での措置に加え、国外での措置も目標達成に活用すべきだ」と語る。

スイスは近年、国外での気候事業に投資し、自国の排出量の一部をオフセット(相殺)する方法に頼ってきた。パリ協定は二国間協定を通じた排出削減量のやりとりを認めており、スイスはこの仕組みを積極的に活用している。気候対策をめぐる合意の締結先はタイ、ペルー、セネガルなど、すでに十数カ国を数える。一方、この「カーボンオフセット」制度によって本当に実のある排出削減が実現するのかについて、各国の見解は分かれている。WWFや気候政策評価ツール「気候変動パフォーマンス・インデックス(CCPI)」の運営団体は、スイスは国内で重要な削減行動を取るよりも、安上がりな国外オフセットへの投資を重用していると批判してきた。

ポエル氏は自国の進歩について、「スイスでは近年、排出量がかなり減少した。建設業や工業での進展は特筆に値する。改正CO₂法に盛り込まれた措置により、国全体の排出量は2030年までに1990年比で37%ほど削減できるはずだ」と話す。

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連邦環境局は残り13%の削減について、政府出資や燃料輸入企業などの民間投資を念頭に、国外での気候保護事業を通じて達成すべきだと表明している。

監視団体、スイスの気候対策は「不十分」

しかし、世界の気候政策を監視するベルリン拠点の独立団体「クライメート・アクション・トラッカー(CAT)外部リンク」は、スイスが本当に目標達成への道を進んでいるのかを疑問視している。直近の評価では、スイスの気候変動対策や目標達成への進捗を「不十分」とした。

CATは、気候に関するスイスの政策や法制は改善しているが、国内での排出削減をはじめ、目標が不適切だと指摘する。議会は2030年までの排出削減について、厳しい目標(75%超を国内分とし、国外分は最大25%にとどめるなど)を法律で定めないことを決めた。連邦政府は今も自由に目標を設定できる。

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CATのアナリスト、ユディット・ヘッケ氏は「スイスは政策面で大きく進歩し、気候目標と国際公約の達成に向けた軌道に乗りかけている。真の課題は今後の実施段階にある」と語る。

WWFや環境団体グリーンピース・スイスはさらに厳しく、最近発効した法律や政府の排出削減公約の実効性を真剣に疑っている。

グリーンピースはスイスの目標と政策について、比較可能な欧州諸国にかなり遅れを取っていると指摘する。2030年の目標削減率は欧州連合(EU)が55%、デンマークが70%、フィンランドが60%、ドイツが65%で、フィンランドは2035年までに排出量を差し引きゼロにする目標も定めている。さらに、スイスの政策は金融部門の目標を欠くなど、規制面で著しい不備を抱えている。

グリーンピース・スイスの気候専門家、ゲオルグ・クリングラー氏は「スイス経済の強さや、スイスの大量消費に由来する海外での温室効果ガス排出量を踏まえれば、気候保護への資金供給に対するスイスの貢献は少なくとも年間10億ドル(約1540億円)に倍増させるべきだ」と主張する。

同氏は「スイスの2030年までの気候政策は何年も不適切なままで、改善していない」と批判している。

編集:Veronica De Vore、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫

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