米国がパリ協定離脱を通告 スイスも追随?
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米国がパリ協定の再離脱を国連に通告した。スイス最大与党で保守派の国民党(SVP/UDC)も協定離脱を求める動議を出す構えだ。スイスも米国に追随するのか。知っておきたいポイントをまとめた。
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世界第2位の温室効果ガス排出国である米国のドナルド・トランプ大統領は1月20日、大統領就任からわずか数時間で、パリ協定離脱のための大統領令に署名した。
米国政府はすでに国連に離脱を通告済みで、正式な離脱は来年1月の予定だ。米国はトランプ政権1期目の2020年に協定を離脱、バイデン政権で再び加入し、今回が再びの離脱となる。
パリ協定28条は加盟国に対し、自国内での協定発効時から3年後以降に脱退が可能(通告から1年後)と定める。
スイス国民党も離脱を要求
スイスでは9日の国民投票で、企業に環境責任を求める「責任ある企業イニシアチブ」が大差で否決されたばかり。国民党は同日、否決結果を歓迎する声明を発表し、スイスもパリ協定から離脱すべきだと訴えた。
マルセル・デットリング国民党党首は仏語圏スイス公共放送(RTS)のインタビューで、これは挑発行為ではないとし、スイス政府は独自に離脱を決定できると説明した。「スイス政府は議会や国民に信を問うことなくパリ協定を批准した。であれば、協定離脱も政府が自由に決められる」と語った。
国民党の広報担当者はswissinfo.chの取材に対し、パリ協定脱退を求める動議を議会に提出予定であることを認めた。
国民党の動きに対し、中道右派・急進民主党(FDP/PLR)のシモーヌ・ド・モンモラン議員はRTSに「私たちは結束し、パリ協定を堅持しなければならない。パリ協定は(スイスに住む)私たち一人ひとりにとってだけではなく、地球上のすべての人にとって重要だ。私たちがこの協定に疑義を呈することがあってはいけない」と語った。
政府の反応は?
国民党の要求をめぐっては、同党所属の閣僚であるアルベルト・レシュティ環境相自身も否定する。
レシュティ氏は「スイスの有権者が(9日の投票で)突きつけたノーは、環境保護に対するノーではない」と記者団に明言し、その根拠として、23年6月の国民投票で、パリ協定目標を達成数するための環境保護法が可決されたことに言及した。
環境保護法は、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を加速させ、2050年までに気候中立を達成することを目指すことを盛り込んだ法律で、国民投票では60%の賛成で可決された。
レシュティ氏はニュースポータルサイト「Nau.ch」に対し「国民は環境保護法に明確に賛同した。これによって国民はパリの気候目標にコミットした」と語る。
またRTSのインタビューでは「国民党が間違っていると言っているのではない。政党は議会に対して動議を出すことは認められている。しかし、政府閣僚としての私の義務は、国民の決定を実行に移すことだ。そして、その決定の1つが脱炭素化なのだ」と述べた。
スイスの法制度上、パリ協定からの離脱は可能か?その場合、方法は?
スイスでは2020年7年にパリ協定が発効した。発効から3年が経過しているため、理論上は離脱可能だ。
しかし、スイスの法律専門家らは、デットリング氏の発言は誤りであり、政府が独自に協定を離脱することはできないとみる。
ベルン大学のイェルク・キュンズリ教授(憲法・国際法)はswissinfo.chの取材に
「パリ協定は2017年、議会の承認を経て連邦内閣が批准した。従って、連邦内閣が単独でこの協定を離脱することはできず、スイス連邦議会の承認が必要となる。デットリング氏は2つの点で間違っている」と説明する。
気候変動に関する国際協定は、任意のレファレンダム(国民表決)の対象だった。憲法改正や超国家機関(国連やEUなど)への加盟などは自動的に国民投票の対象になる(強制レファレンダム)のに対し、それ以外の議会の決定は新法交付後100日以内に有権者5万人分の署名を集めれば、国民投票で信を問える任意のレファレンダムの対象だ。
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レファレンダムとは?
しかし、レファレンダムは提起されなかった。連邦環境省環境局は、これを理由にパリ協定は「スイス国民によって暗黙のうちに承認された」と指摘する。
パリ協定離脱を発議するのが政府であろうと議会であろうと、離脱は「連邦令として議会の承認を受ける必要がある。それは(任意的)レファレンダムの対象となり、ゆえに国民の承認が必要になる可能性がある」、と環境局のロビン・ポエル報道官は説明する。
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他の国々はパリ協定を離脱するのか
パリ協定を離脱した国は他にはない(194カ国・欧州連合が参加)。ただアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、米国に追随して協定離脱を模索していると報じられている。
アルゼンチンは昨年の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で、環境に関する国際コミットメントを再評価するためとして代表団を引き揚げた。英紙フィナンシャル・タイムズなどは、ミレイ政権が協定離脱に向けて調整を進めていると伝えた。
世界有数の温室効果ガス排出国であるインドネシアも、パリ協定を疑問視していると報じられている。政府の気候・エネルギー特使、ハシム・ジョヨハディクスモ氏は1月にジャカルタで開かれたある会議で「現在、中国に次ぐ第2位の汚染国である米国が国際協定の遵守を拒むのであれば、なぜインドネシアのような国が遵守しなければならないのか」と述べた。
トランプ氏がパリ協定を離脱する理由
パリ協定は、気温上昇を産業革命前比で2℃未満(努力目標1.5℃)に抑えるという目標を掲げる。
トランプ氏の大統領令は、パリ協定は米国の価値観を反映しない数多の国際協定の1つであり、「米国民の利益となる財政支援を必要としない、あるいはそれに値しない国々に米国の血税を向かわせている」としている。
トランプ氏は、国際協定に参加するのではなく「経済・環境の両方の目標を推進・成功させてきた米国の功績は、他国の模範となるべきだ」と述べた。
米国の動きを受け、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は、クリーンエネルギーへのシフトは「10年に一度の経済成長取引」だったと主張した。「パリ協定への扉は開かれたままであり、あらゆる国からの建設的な関与を歓迎する」
スティル氏は、パリ協定採択後の10年で世界の分断は進んだが、気候変動交渉プロセスは「その流れに逆らうことができた」と話している。
編集:Gysi von Wartburg/ts、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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