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国民発議の快進撃は終わった

連邦議事堂とロンシャン氏
国民発議が成功する割合は通常の割合に戻っている。2015年以降に国民投票で可決された提案は一つもない swissinfo.ch

スイスでは国民発議(イニシアチブ)が前回2015年の連邦議会議員総選挙以降、一度も成功していない。それ以前の12年間では快進撃が続き、9件の提案が可決されてきたのとは対照的だ。これは偶然か、それとも転機の訪れか?

 スイスの政治制度では、国民発議は国民が既存の政策に異議を唱えるための最高の手段だ。憲法改正を発議するには10万人分の署名を集め、たいていは政府と連邦議会からの反対を受けながら、国民投票で国民と州の過半数を得る必要がある。

 国民発議制度が125年前に導入されてから今まで330件の提案が出されてきた。実際に国民投票にかけられたのは210件で、可決されたのが22件。成功率は10.5%だ。

「長い間、国民発議による提案が国民投票で可決されるということは10年に1度あるかないかの政治的に珍しい出来事だった」

 そのため長い間、国民発議による提案が国民投票で可決されるということは10年に1度あるかないかの政治的に珍しい出来事だった。しかし04年から様相が変わった。同年以降の10年間だけで、11件もの提案が国民投票という障壁をクリアしたのだ。04~07年の連邦議会任期では成功率は最高記録の40%に達した。

大きく開いた「機会の窓」

 国民発議が成功する見込みを政治学的に分析する際、よく「機会の窓(Window of Opportunity)」という概念が引用される。機会の窓とは、特定の目的が達成しやすくなる時間枠のことだ。

 実際、04~14年の期間は移民の流入とグローバル化の影響で国民発議が成功しやすかった。こうして刑法は厳罰化され、自然環境を維持するための法律も誕生した。この間に成功した国民発議のうち、6件は右派、2件は左派・環境派によるものだが、1件は右とも左とも区別がつかなかった。

執筆者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。 調査機関「gfs.bern外部リンク」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracyで毎月、2019年のスイス総選挙についてコラムを執筆。

ロンシャン氏の政治ブログ「Zoonpoliticon外部リンク」、歴史ブログ「Stadtwanderer外部リンク」 

急落した政府への信頼度

 この過渡期では、政府への信頼度はスイスとしては珍しく低かった。きっかけはクリストフ・ブロッハー氏が連邦閣僚に当選したことだ。これを機に中道派および左派の間で行政機関への信頼が低下した。

 そしてブロッハー氏の再選が阻まれた07年以降、風向きが変わった。今度は右派が不信感を表すようになったのだ。不安を抱く農村地方の住民、就職の見込みがあまりない低学歴層、今の生活が脅かされていると感じる中流階級が、右派の国民発議を支える最大の支持層となった。こうした人々は扇動的な政治キャンペーンを通して簡単に動員された。

 当然ながら国民党(各政党の立場については記事最後尾の欄を参照)を支持する有権者の大半は国民党の提案に賛成した。だが支持政党のない国民も繰り返し同党の提案を支持した。

 そして、ほかの政党支持者の間にも提案を支持する少数派がいくらか存在したことで、提案は賛成過半数を得ることができた。

通常の状態が戻ってきた

 この流れがもう過ぎ去ったとは言わないが、今の状況は例外的なものではなくなった。それどころか通常の状態が戻ってきた。転機が訪れたのだ。

 この主張を裏付ける三つの見解がある。

 1)国民発議の「洪水」が落ち着いている。スイスでは12年と15年の二つの総選挙の間に25件もの国民発議が行われたが、現在はこれほど頻繁なことはない。そしてこれに並行するように、行政機関への信頼度が過去最高に上がっていることがいくつかの研究結果から分かっている。

 2)国民党は再び連邦内閣に完全に統合されている。その反面、国民投票でほぼ圧倒的に優位だった立場を失った。16年春に「外国人犯罪者の国外追放強化案」の是非を巡る国民投票結果が転機をもたらしたのだ。

 この頃から、インターネット上の政治キャンペーンで突然のごとく度々現れたソーシャルメディア運動から、新しい市民団体が立ち上がるようになった。今や市民団体の方が国民党よりも国民投票で成功を収めているほどだ。この4年間、国民党が主導した国民発議はすべて賛成過半数に達していない。

 3)行政機関の政策が再び支持されるようになった。緑の党が提起した脱原発案が国民投票で否決されたのはその例の一つだ。政府と連邦議会が有権者の支持を得て、しかるべき時期にエネルギー転換を決定したことも関係した。

 同様の傾向は、労働組合が発議した老齢・遺族年金の増額案でもみられた。これに関しては国も提案を出したが、それが国民投票で否決されたのはその後のことだった。

「通常の今」にすべきこと

 つまり、通常の状態が戻ってきたということだ。15年以降、国民発議が一度も成功していないのは単なる偶然だ。私の予想では、国民発議の10件に1件は今後も国民投票で可決されるだろう。

 国民発議が今後も成功するには、幅広く共有される問題を取り上げ、党派を超えて穏健な解決策を求めることが必要だ。これが国民発議を行う発起人たちに求められる要件となる。

 その一方、政府と連邦議会もまた発起人の提案を詳細に分析しなければならない。提案に歩み寄る必要がそもそもあるか、あるとしたらどの点で、どの程度すべきかを確実に判断できるようにするためだ。戦略的な判断を誤れば、連立与党の過半数、重要な利益団体、民間支援者が協力関係を築くことが難しくなるからだ。

 そのような協力関係がそもそもなかったり、希薄だったりすると、通常の状態でも国民発議は成功しやすくなる。現在審理中の国民発議で成功する可能性が一番高そうなのが、スイスの企業が外国で活動する際に人権と環境を守らせる企業責任強化案だ。政府と連邦議会がしかるべき時期にこの提案に対処するかどうかは、これから分かるだろう。 

SVP/UDC: 国民党(保守系右派)

SP/PS: 社会民主党(左派)

FDP/PLR: 急進民主党(リベラル右派)

CVP/PDC: キリスト教民主党(中道/右派)

GPS/Les Verts: 緑の党(左派)

GLP/PVL: 自由緑の党(中道)

BDP/PBD: 市民民主党(中道)

JUSO: 青年社会党(左派)

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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