撮影日は不明だが、撮影された当時のシュロスヴィールはまだうまく機能し、自治体として独立していた。しかし2018年にグロスヘーヒシュテッテンと合併したことで、村は過去のものとなった
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地方の行政職を一般市民が担ってきたスイスでは、「政治は副業」という考えが基本だ。そのため本業を持つ多くの人が、余暇を利用して地方自治に従事したり、副業として公職に就いたりしている。政治と有権者との間の壁を低くするこの名誉職制度が、実際は制度としての限界を迎えている。
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2019/02/01 08:30
この記事はスイスインフォの直接民主制ポータルサイト「直接民主制へ向かう」#DearDemocracyの掲載記事です。当ポータルサイトで紹介している社内外の見識者の見解は、スイスインフォの見解と必ずしも一致するものではありません。
マルクス・ガイストさんは日中はベルンのスイス連邦鉄道本社でマネージャーを務める。勤務終了後は自宅のあるエメンタール方面へと向かい、地区計画を学んだりタウンミーティングの進行役を務めたりする。
ガイストさんはグロスヘーヒシュテッテンという村の副村長だ。本業の傍ら自治体の公職に就く大勢のスイス人の1人だ。以前は隣のシュロスヴィール村の村長を務めていたが、この村は昨年初めにグロスヘーヒシュテッテンと合併した。
本業と並行して地元政治に従事することはスイスの名誉職制度の根幹だ。この制度は基礎自治体レベルだけでなく、州や連邦レベルでもスイス政治の基礎になっている。
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少なくとも理論上ではそうだが、エメンタールの入り口に位置するこの村では名誉職制度の抱える問題が容赦なく顕在化している。シュロスヴィールでは村の公職を引き受ける人が年々不足していたと、ガイストさんは言う。
こうした状況にあるのはこの小さな村に限らない。ガイストさん自身も10年前に村の参事会への立候補を持ちかけられ、承諾した経緯がある。
本業の仕事を終えたその日の晩に、建設許可に対する異議申し立てや学校規定の問題について取り組む気力や時間がある人ばかりがいるわけではない。
城をシンボルに持つ人口600人のシュロスヴィール村がより規模の大きい隣のグロスヘーヒシュテッテン村と合併したのも、公職の担い手が不足したことが理由の一つだ。自治体合併が進むスイスでは、基礎自治体の数は1950年に約3100だったが、今年1月1日現在では2212に減少。基礎自治体の数が年々減っていることを受け、スイス地方自治体協会は今年をスイスの「名誉職の年」に位置付けた。
多くの人に責任を分担
名誉職制度の理念は直接民主制のそれと似ている。権力が多くの人に分割されるのだ。
スイスでは、公職に選ばれてもこれまで通り本業を続けることが良しとされる。住民と隔たりがある「政治階級」が形成されるのを防ぐためだ。
名誉職の年
スイスで名誉職制度が危機的状況にあることを世間に訴えようと、スイスの2212の基礎自治体を代表するスイス地方自治体協会は今年を「名誉職の年外部リンク 」に位置付けた。年間を通しスイス全国で催しを行う予定。専門家と一般人との議論を通し、早急に必要な改革の実現に向けて弾みをつけたいとしている。
スイスが名誉職制度を軸に据えて成功を収めてきたことを考えると、こうした取り組みの重要性はさらに高くなる。書籍の刊行も何点か予定されており、5月には「Milizarbeit in der Schweiz(仮訳:スイスの自治行政における名誉職制度)」が発売される。スイスインフォは「名誉職の年」のメディアパートナーを務め、このテーマを定期的に取り上げる予定。
名誉職制度は、政治家と住民との垣根を透明にするべく構想され、その理念は直接民主制のそれと似ている。それは、権力を多くの人に分割し、責任は少数のプロ政治家ではなく、多数の住民一人ひとりに負わせるというものだ。
しかし存続が危ぶまれる基礎自治体が増えている。スイスでは自治体の書記を対象に定期的にアンケートが実施されているが、最新アンケート結果では基礎自治体の公職で成り手不足が深刻または非常に深刻と答えた人が半数に上った。
その原因の一つは、自治行政の魅力が失われつつあることだ。自治体が州や連邦の指示を実行するだけになることが増え、自治体当局には自由の余地がほとんどないと嘆く自治体役員は多い。
夜間に行われる長い会議に出席しても大した報酬も支払われないのであれば、自治行政に関心が向かない人が多いのも当然だ。さらに、議論の分かれる問題で大きな批判を浴びたり、ののしられたりすることに耐えられない市民も多い。
政治家の専業化
ベルンの連邦議事堂にある上下両院で名誉職制度が成立していたのははるか昔のことだ。
しかし名誉職制度で問題を抱えているのは基礎自治体だけでなく、州や連邦も同じだ。ベルンの連邦議事堂にある上下両院で名誉職制度が成立していたのははるか昔のことだ。スイス連邦議会での任務を誠実にこなすには、案件についてよく理解し、議会の委員会で積極的に活動する必要があるが、本業を抱えながらではもはや両立しない。
連邦議会議員の仕事量が増えた理由には、国際的なルールの増加がある。こうしたルールはグローバル化を背景に国内政治に影響を与えている。また、政治家自身にも原因がある。連邦議会で提出される動議の件数が年々増加しているため、本業を持つ政治家は常に新しい課題に取り組まなくてはならない。連邦議会議員を対象にしたアンケートによると、議員たちは労働時間の平均約8割を政治に費やしている。
議員と他の職業を掛け持ちする人は、基本的に労働時間がフレキシブルな職に就いている。連邦議会では弁護士と経営者の割合が突出して高い。他には協会、政党、労働組合などで勤務し、本業と議員活動とを両立させている議員が多い。
それ自体が悪いとは限らない。政治的課題が複雑になった今日では、議員が事実上すべての労働時間を政治に費やすことは不可欠かもしれないからだ。
ただ、政治家の専業化にはデメリットもある。プロの政治家が日頃接するのは、法案作りのために協議する他の政治家が中心となり、法律の影響を実生活で受ける人たちとの交流は少なくなる。
さらに、政治家自身は自らの政治的取り組みによる影響をあまり受けない。その結果、政治家と有権者との間にある壁は見えないはずだったが、徐々に目に見えるものになってきている。
シリーズ「スイスの民主主義」
スイスは間接民主制と直接民主制が組み合わさった国だ。スイスほど直接民主制が発展している国はない。このことはスイスで国民投票が620回以上(世界記録)行われてきたことからも明らかだ。
#DearDemocracyシリーズでは、ルーカス・ロイツィンガー氏がスイスの直接民主制に関する最も重要で基本となる制度、メカニズム、プロセスを解説する。
同氏はチューリヒ大学で政治学を専攻。現在はジャーナリストとして執筆活動を行う傍ら、政治系ブログ「Napoleon’s Nightmare(ナポレオンの悪夢)外部リンク 」を共同運営している。
(独語からの翻訳・鹿島田芙美)
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