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ネット上の攻撃、スイスの地方議員に波及

Peter Schneider / Keystone

スイスでも、政治家への脅迫・中傷はある。それは地方政治家に対しても同様だ。しかし、物理的な攻撃は少ない。

連邦制を取るスイスは九州ほどの狭い国土に約2000の自治体があり、地方政治が民主主義の柱になっている。また政界ではこれからの政治を担う新しい人材の必要性も高まっている。

しかし、アーラウ民主主義センター(ZDA)が今週発表した調査によると、政治家に対する脅迫や中傷行為が、地方政治レベルでも起こっていることがわかった。

地方議会議員1000人を対象とした同調査によると、過去1年間に言葉の暴力を経験したと答えたのは全体の3分の1に上った。また6.4%が所持品への攻撃を、3%が身体的暴力の被害を受けたと回答した。インターネット上での攻撃(31%)と、自身を標的にしたフェイクニュース(20%)も目立った。中傷を受けるのは女性政治家の方が多く、身体的暴力の被害者は右派政治家が目立った。

地方政治レベルに特化した統計は今回が初のため、暴力が増加傾向にあるのかを判断するのは難しい。ただ、特に言葉による中傷が全体の36%に上るなど、その程度は「驚くべきもの」だと調査の共著者シュテファン・カルベラー氏は言う。また身体的攻撃は少なくはあるが、いかなる暴力も正当化されないし、そうした事実があることは注目に値すると指摘する。

カルベラー氏はまた、そのような攻撃が及ぼす影響にも言及する。全体として、回答者の4分の3は自分の政治的役割に「満足」すると回答した。しかし、何らかの攻撃を経験した回答者の43%は、それを機にソーシャルメディアへの投稿を控えるなどネット上の習慣を変えたという。特に女性でその傾向が強かった。一方、約4分の1が、暴力が議会活動に影響を与えたと答えた。カルベラー氏は、例えば特定の投票を棄権することを選択する可能性があると言う。

政界引退を決めた理由については時間が足りないことや影響力不足など普通の理由が多いが、特に若年層・女性については暴力を原因に挙げた人もいた。

「特に悪質」

西側民主主義国では近年、政治的暴力が絡む事件が相次いだ。ドイツでは2019年、地方政治家のヴァルター・リュプケ氏が右翼過激派に銃で撃たれて殺害され、政治的暴力をめぐり広く国民的議論が巻き起こった。それ以来、同国では政治家への暴言や身体的暴行が倍増し、昨年は緑の党が最もその被害を受けた。フランスでは7月の国民議会選挙決選投票を前に候補者や活動家50人以上が身体的暴力の被害にあった。英国では過去10年間に国会議員2人が殺害され、今年に入ってからは、スロバキアのロベルト・フィツォ首相と米国のドナルド・トランプ大統領候補が銃撃された。

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スイスのメディアでは殺害予告、ミルクシェイク攻撃(人にミルクシェイクを投げつける行為)、器物損壊などの事件報道が尽きない。一方、連邦警察庁(Fedpol)の昨年の統計では政治家への脅迫は290件で2年前の528件と比べ減少するなど、一見改善したかのように見える。

しかし、昨年の大幅減は3年続いた新型コロナウイルス感染症のパンデミック後という要素が大きい。実際、パンデミック中の2021年には1215件と記録的な件数に達している。また、脅迫内容が「特に悪質」になっていることを受け、Fedpolは対応を強めている。昨年は脅迫行為の5分の1を立件した。2022年の10分の1に比べると大きな変化だ。

講習と支援

暴力の原因については、多くの政治家やアナリスト、Fedpolは、特にネット上での二極化の影響を挙げる。ネット上の二極化は時として大きな混乱を引き起こす。フランスの内相は今夏の総選挙の積極的な選挙キャンペーン中、「極左、極右、その他の政治グループ」が二極化に油を注いでいると批判した。

多くの国々がネット上のヘイトスピーチ対策を模索している。例えば、欧州連合(EU)のデジタルサービス法は、大手ハイテク企業に自社のプラットフォーム監視を義務付けることを目的としている。ドイツでは、過激なコメントを投稿した個人に数千ユーロの罰金が科される。英国では、最近の暴動で暴力的なメッセージを投稿した一部ユーザーに実刑判決が下された。

2022年の欧州評議会の報告書は、特に地方政治家を標的としたネット上の暴力への対策として、それに対抗するための講習、コメント投稿者に対するより厳しい罰則、より積極的な反ヘイトスピーチキャンペーン、あるいは(最終措置としての)警察による保護といった対策を提案している。サポート・ヘルプラインもその一手だ。スイス社会民主党(SP/PS)のメレ・シンドラー氏は昨年、スイスの報道機関タメディアの取材に対し、脅迫状を受け取った後、警察の相談窓口を提供されたと語った。

欧州評議会の報告書は、最終的には問題の全容を概観することも重要だと指摘する。例えば、昨年チューリヒで試験的プロジェクトが始まったオンライン報告プラットフォームの設置や、ZDAのような調査の実施がその好例だ。

編集:Benjamin von Wyl/amva、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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