ジュネーブで選挙不正 国内外に波紋
スイス・ジュネーブ州で発覚した選挙不正が全国に波紋を広げている。住民投票・選挙管理事務所の職員が、少なくとも4件の不正に手を染めた。専門家はスイス全土での不正捜査を呼びかけるが、パンドラの箱を開けることになりかねない。
この記事はスイスインフォの直接民主制ポータルサイト「直接民主制へ向かう」#DearDemocracyの掲載記事です。当ポータルサイトで紹介している社内外の見識者の見解は、スイスインフォの見解と必ずしも一致するものではありません。
ジュネーブの事件は民主主義の最も弱い部分を突かれた。住民投票・選挙の手続きが正しく行われていることへの信頼だ。
スイスは、直接民主制に関してはいち学生ではなく、首席でなければならない。直接民主的な法権利のおかげで、スイスほど多くの物事に自分の意思を反映できる国はほかにない。
ジュネーブ検察庁が痛烈に非難しているのもまさにそれが理由だ。同州住民投票・選挙事務局の男性職員が、少なくとも4回の投票で投票用紙を廃棄し、別のねつ造した用紙にすり替えたのだ。
「投票は信頼を失っていない」
男性職員は10日に逮捕されたが、9時間にわたる事情聴取の後、同じ日のうちに釈放された。ジュネーブ検察庁は13日、職員が何者かの支持や金銭的報酬を受けて不正を働いた証拠は見つからなかったと発表。職員どうしのいさかいが動機とみられるが、捜査を継続すると表明した。
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スイスでは有権者が投票日に先立って投票用紙を事務局に送付することができる。今回の事件は、郵送された投票用紙に不正が行われた可能性が高い。
郵便投票では、事前に有権者の自宅に届けられた専用の封筒に、①投票証明書と②1枚または複数の投票用紙を入れて返送する。複数入れる場合は別々に匿名の封筒に入れ、厳封しなければならない。
つまり、郵送された投票用紙に不正を施す場合、封がされた封筒を開封して、原本を破棄してねつ造した用紙に入れ替えることになる。
氷山の一角
「今回のジュネーブのような事件は、民主主義に対する疑惑を引き起こす」。チューリヒ大学の法学者でアーラウ民主主義センター(ZDA)の共同所長を務めるアンドレアス・グラーザー外部リンク教授はこう話す。
グラーザー氏は、選挙不正という犯罪を質・量によって分類する基盤がスイスの直接民主制にはないと嘆く。
「闇に光を当てるべきだという努力に応えるのは、政治家にとって喫緊の課題だ。ジュネーブのような事件は氷山の一角に過ぎないと我々は考えている」とグラーザー氏は話す。
「家庭内暴力(DV)のような他の犯罪について行ったように、まずは闇に光を当て、違反の実態を調査することが必要だ」
対応すべきは犯罪学者だが、州や自治体の選挙管理委員会にも批判の矛先が向けられている。専門家は、技術的に不正を働く可能性が最も高いのは自治体レベルで、連邦レベルは最も低い。
国外にも波紋
グラーザー氏は、不正が起こるリスクは郵便投票の仕組みに起因し、便利さには落とし穴があると指摘する。投票日よりも前に投票用紙が届き、有権者や役所のもとに長く保管されるためだ。
5月初旬にオーストリアの法学者学会に参加したグラーザー氏は、「オーストリアもスイスで起きた郵便投票の不正に震撼していた」と話す。「郵便投票は確かに当然ある制度ではない。だがこの贅沢を維持するためには、絶対に何らかの対応が必要だ」
数値基準
具体的にどんな対応が求められるのか。グラーザー氏の答えは明確で、数値基準を設けることだ。「例えば投票用紙の取り扱いに2人以上が目を通す原則の導入だ。もっと言えば2人以上が開票に立ち会うのが望ましい」。
仕組みに基づいたリスクは、開票作業に素人やボランティアを駆り出すのも仕組み上のリスクだと指摘する。「もっと感度を増すための投資が絶対に必要だ。例えば講習に通う費用を負担するといった形が考えられる」
選挙不正4種
- 投票用紙を他人が記入(集票)
- 暴力や贈収賄によって、特定の人物の選出や事案への賛否を強制(有権者への違法な妨害)
- 投票用紙を追加・破棄または誤集計(選挙結果の歪曲)
- 他人の投票用紙が入った封筒を開封(投票の秘密)
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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