スイスで無人運転が一部解禁 地方部の輸送改善に期待
スイスでは3月から、指定された区間で無人運転車の走行が可能になる。高速道路でドライバーが一時的にハンドル操作をソフトウェアに委ねることも解禁される。米中に比べれば遅いスタートだが、スイスにとっては大きな転換点になりそうだ。
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スイス連邦政府は昨年末、一定の条件下でドライバーが高速道路で走行車のハンドルから手を離すことを解禁する政令を閣議決定外部リンクした。数年間の試験運転を経て、高速道路の安全要件を満たすと判断した。
スイス政府は、自動運転にはドライバーの不注意による渋滞や事故を減らす潜在力があると期待する。世界中の他の多くの国も同様の結論に達している。
スイスが自動運転交通に関してどのような立場を取っているか、自立走行型の車の登場で道路交通がどう変わるか、ポイントをまとめた。
3月に何が変わる?
2025年3月1日から、国内の高速道路で、自律的にハンドル操作やアクセル・ブレーキの制御を行える運転支援システムを搭載した自動車が走行可能となる。ただドライバーは必要に応じて運転を再開できるよう、常に待機していないければならない。車両には州の型式承認が必要だ。
各州当局が指定したルートでは無人運転も可能になる。州が管制センターから遠隔監視する。バスやタクシー、配達用バンなどが想定されている。
指定された駐車場や路上駐車スペースでは、無人の自動駐車が可能になる。
コンサルタント企業EBPスイスで道路交通を担当するベティーナ・ツァーント氏は「スイスの自動運転は範囲が広がった」と話す。
他の国はどのくらい進んでいる?
欧州など世界の複数の国で、自動運転車に関する試験事業や法改正が進んでいる。
中国と米国の一部の州・都市は、無人車両(レベル4、記事末尾参照)の導入で先行する。
米ウェイモは2020年、初めてアリゾナ州フェニックスで一般の利用者向けに無人タクシーの敗者サービスを始めた。22年には中国の百度(バイドゥ)は中国の武漢市と重慶市で無人車両の運行許可を得た。
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Siその後も両国でさまざまな無人車両が複数都市に広がっている。
過去2年で日本やシンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、ドイツでも公道でのレベル4車両の営業許可が発行された。
スイス政府は2015年のスイス郵便と通信大手スイスコムを皮切りに、民間企業に厳格な安全条件の下で試験運転を実施する許可を与えている外部リンク。
2023年の道路交通法の改正で、連邦当局が公道での自動運転を許可する道が開けた。
スイスの自動運転の今後は?
スイスの26州は今後、通常の自動車交通と並行して自動運転輸送システムを調整する責任を負う。
スイス自動モビリティー協会(SAAM)の主任ストラテジスト、マルティン・ノイバウアー氏は「12月の政令が現場でどのような意味を持つのか、理解を深める移行段階に入っている」と説明する。条文に何が書かれているかを理解することは大切だが、「アイデアを実行に移すときに現実は少し異なることはよくある」という。
EBPスイスのツァーント氏も、次の段階では学ぶべきことがまだたくさんあるとみる。「今回、実際の自動運転車を使ったより高度な実証事業への道が開かれ、スイスの地形や道路、標識、交通の流れの中で自動運転車がどう動くのか、経験を積むことができる」
同氏はスイスの自動運転技術について「地方部の公共交通サービスを改善するのには最適だが、交通渋滞や事故の減少には数年かかるだろう」と語った。
スイス郵便傘下ポストバスの無人公共バス導入プロジェクトで主導的役割を果たすノイバウアー氏は、スイスの優先事項は他の国々と異なると話す。
「サンフランシスコのような配車タクシーではなく、できるだけ多くの乗客を乗せるライドシェアに重点が置かれている」
無人運転車がスイスの道路を席巻する日は来る?
無人自動車が一般的になり、従来の自動車の数を追い抜くまでには、まだ数年かかりそうだ。
ノイバウアー氏は「2030年にはスイスの公道を走るレベル4の自動運転車は約100台に、2035年には数千台に増える可能性がある」と予想する。
一方、レベル5の完全自動運転車が登場するのは、早くても2035年になるとみる。自動車メーカーが自動運転車に多額の投資をする前に、そうした技術が道路にどのような影響を及ぼすか、調べるべきことが山積みだからだ。
自動運転車の生産競争では米国・中国勢が先行しており、欧州勢は電気自動車(EV)ですら遅れをとっている。自動運転分野では、米中に追いつくのに苦戦しそうだ。
無人運転が大衆に受け入れられるかどうかも不透明だ。
スイス電気通信協会の委託を受けEBPが2017年に実施した調査外部リンクは、ドライバー支援システムは一般的に国民にも受け入れられているが、回答者の圧倒的多数が無人運転に意味を感じていないことを浮き彫りにした。
スイスの通勤者の行動も、私的な移動に自動運転車を利用する人の数に影響を与える可能性があるとツァーント氏は述べた。
「大衆が息をのんで無人運転車を待ち望んでいるとは思えない。車通勤をする人は、電車のように移動中にノートパソコンで仕事するわけではない。スイスの公共交通機関は非常に優れているので、移動中に仕事をしたい人は車ではなく電車を使う」
自動運転の長所と短所は?
連邦運輸省道路局(ASTRA/OFROU)が2020年に発表した「未来の運輸2060」は、「自動運転車は道路交通の安全を高め、交通の流れを改善し、利用可能な交通量の効率的な活用を可能にする」と位置付けている。
昨年11月の国民投票で政府の高速道路拡張計画が否決されて以来、既存道路網の最適化は重要度を増している。
道路局の報告書は、無人運転車は鉄道駅とのシャトルサービスを通じて地方部の公共交通機関を改善する可能性もあると予測している。
自動運転システムの導入により、人為的ミスによる交通事故の減少も期待されるとする。
一方、いくつかの短所も指摘した。「自動運転車で大型貨物車、バス、タクシーの運転手の雇用が完全になくなるわけではないが、減るだろう」。また、相乗り促進は自動車販売の減少という副作用を生む可能性もある。
米国に本部を置く技術者・専門家組織SAEは、自動運転システムを次のように分類している。
レベル0:警告システムや自動緊急ブレーキでドライバーを支援するが、ドライバーの代わりにはならない
レベル1:ドライバーのハンドル操作や速度・ブレーキ操作をサポートする
レベル2:ドライバーのハンドルと速度・ブレーキ操作を同時にサポートする機能(部分自動運転)
レベル3:限定された条件下での自動運転。人間のドライバーは、必要に応じて運転を引き継ぐ態勢を整えていなければならない。
レベル4:ドライバーなしで完全に自律走行するが、区域は限定され、遠隔から人間の監視が必要。
レベル5:車両がドライバーの支援なく完全に自律走行する。
編集:Virginie Mangin/sb、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子
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