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スイス人文学者とその日本人配偶者による異文化談

ムシュク家の庭は日本庭園。内装も和風にした家に住むふたりの日本—スイス人論 swissinfo.ch

経済も文化もグローバル化が進む中、いまや国際結婚も珍しいことではい。スイス人と日本人同士の夫婦はお互いをどのように理解し、共同生活を営んでいくのか。

知日家で、スイスのみならずドイツ語圏諸国全体を代表する文学者のアドルフ・ムシュク氏と充子(あつこ)さん夫妻にスイスと日本の違いについて聞いた。ふたりの冷静な目は、日本とスイスをどのように分析するのか。チューリヒ郊外「ゴールド湖畔」と称される、陽の当たりの良い町にあるムシュク宅を9月末、訪問した。

 アドルフ・ムシュク氏(1934年生まれ)は1960年台前半に東京の国際基督教大学で教鞭をとった経験もある知日家。帰国後、ジュネーブ大学やチューリヒ連邦工科大学などでの教授職を経て現在、独ベルリン芸術院(Akademie der Künste, Berlin)の総裁を務める。同氏は作家としても評価が高い。充子ムシュクさん(1952年生まれ)は大学卒業後、京都のゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)に就職し、そこでムシュク氏に出会った。

swissinfo: スイスに住む日本人は、スイス人から批判されることを大きなストレスと感じているようです。批判に対する二つの文化の対応の違いをどのように見ますか。

アドルフ・ムシュク: 

個人差はあると思うが、スイス人の批判は直接的であり、批判を受けた人は傷つく。スイス人は批判されることが嫌いであり、特に自己批判は苦手だ。しかし、批判されても黙ることはない。

一方、日本人は、批判することを避ける。まずは相手の様子を窺う。相手がどのようなグループに所属し、どのような行動をとるかなどを観察しながら接していく。しかし、こうした配慮をする必要がない場所、たとえば仕事帰りの酒場で日本人は、欧州人がしないほど厳しく侮辱するようなことまで言ってのける。

充子・ムシュク: 

スイス人は批判を「悪いもの」として受け止めるのは確かだ。スイスでは(家庭が憩いの場でもあり)家庭内での批判は少ないと思う。日本では、家族同士で直接的で厳しい批判がなされることがあるのではないか。

スイスでは批判されると、その場で反論する。しかし、日本人はその場で反論できず、家に帰ってから夫に言ったりする。批判されて恥ずかしいと思うからだ。

アドルフ・ムシュク: 

恥ずかしいという感情だが、日本人は恥ずかしいのは自分に対してだけではなく、自分を批判した人は恥ずかしい人だと思うのではないか。批判した人は社会の秩序を乱すような、礼儀のない人だと思われる。

日本人はその場で反論できないといいますが、反論する練習は必要でしょうか。

充子・ムシュク: 

批判されるということは、自分が注目されているということであり、された人にとってチャンスである。

自分の意見を言えるようになる技術は学ぶべきだ。しかし、日本人はディベート文化を持っているわけではなく、欧米の真似をすべきでもないと思う。日本人には日本人らしい対応の仕方があると思うからだ。

アドルフ・ムシュク: 

反論できるかできないかは、能力や頭の良さとはまったく関係ない。知識人のほうが「完璧になろう」という思いがあり、間違ったことは言いたくないと思うため討論に参加できないでいる。そういう日本人を、わたしはよく見た。

日本は技術面で非常に進んでいる一方、世界はグローバル化したのだという意識はないといってよい。基本的に文化面、感情面ではあまり変化していないようだ。

充子・ムシュク: 

日本人が欧米人に学ぶのも良いが、むしろ欧米人は、なぜ日本人は批判を避けるのかに疑問を持ち、日本人の態度に学ぶべきではないか。わたし自身は、戦うのでものなく防御するのでもなく、諦観することを学んだ。諦観とは、諦めでもなく妥協でもない。冷静沈着、じたばたしないということだ。

時には批判しあうこともある夫婦関係ですが、スイス人と日本人の夫婦は、たとえばアフリカ人とスイス人の夫婦より長続きするという統計があります。なぜだと思いますか。

アドルフ・ムシュク: 

文化的遺伝子の影響だ。日本人とスイス人は「永遠の夫婦」を続けようとする意思がある。こうした考えは儒教的でありキリスト教的である。夫婦関係を維持しようとし、安定した関係を保とうとする義務感がある。ふたりが幸せかどうかはあまり関係がない。

充子・ムシュク: 

スイス人と日本人同士の夫婦に限らず国際結婚した夫婦は、お互いに対する興味、共通する言語、忍耐、そして多くを期待しないといったことが必要だ。多くを期待しないというのは、前にも述べたように、諦観するということだ。

社会の受け入れ度も重要だ。もしわたしがスイス人の女性だったら、日本人の男性と日本で生活しようとは思わない。日本の社会が国際結婚した外国人女性をあまり認めないからだ。イスラム教徒の男性と出会い、改宗までして結婚した日本人女性の多くが、結局結婚に失敗していると聞く。こうした女性のナイーブさに大きな疑問がを抱く。

さらに言えば、経済的にお互いが自立しているという基盤の上に夫婦関係がある。夫婦の一方が、他方に経済的にすっかり頼りきるような関係は「カタストロフィー」だ。

アドルフ・ムシュク: 

日本の国外で日本人が大企業のトップに立つことが珍しいように、外国に住む日本人女性にとって、職業の選択もおのずと狭まってくる。語学の障害が大きいからだ。男性ならそれ以上に難しいだろう。

充子・ムシュク: 

それでも、スイスに住む日本人女性は、スイスの生活や文化に慣れ親しもうと努力している。スイス人の男性は、こうした女性の努力に感謝してほしいものだ。

アドルフ・ムシュク:

僕はしています。

スイスと日本の文化の違いを語って欲しいというスイスインフォの提案は、テーマがあまりにも漠然としすぎたため、ふたりの会話は、日本人の役割意識、スイス人の人道援助精神、日本とドイツの戦後処理の違いなどにまで及んだ。紙面では、人間関係を保つために避けて通れない、批判という行為について、また国際結婚をした夫婦の関係にのみ絞って紹介するにとどめた。

swissinfo、 佐藤夕美(さとうゆうみ)聞き手および構成 

アドルフ・ムシュク(1934年生まれ)
- チューリヒ大学と英ケンブリッジ大学でドイツ語、英語、心理学を学んだ後、教職に就く。
- 1962年から1964年まで東京の国際基督教大学で教鞭をとる。
- その後、ジュネーブ大学などを経て、チューリヒ連邦工科大学のドイツ語および文学教授となる。
- 現在、独ベルリン芸術アカデミー(Akademie der Künste Berlin)の会長を務める。
最近の作品から>
– 「Der Rote Ritter」 Frankfurt/M 出版社 Suhrkamp 1993年
– 「Eikan, du bist spät」 Frankfurt/M 出版社Suhrkamp 2005年

充子・ムシュク(1952年生まれ、京都出身)
- 大学卒業後、京都のゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)に就職。- ムシュク氏に出会い1988年に結婚。スイス在住19年。
- ドイツ語のほか、英語、フランス語を話す。ムシュク氏とは、ドイツ語ができるにもかかわらず、はじめは英語で話していたという。

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