スイス山間部の村、新たな地滑りの恐れで避難
スイス東部グラウビュンデン州のブリエンツ村に土砂崩れの危機が迫っている。当局は地元住民に避難命令を出した。避難は数カ月続く予定だ。
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グラウビュンデン州の人口91人の小村ブリエンツでは、ここ数週間、山肌の動きが急激に加速している。ドイツ語圏スイス公共放送(SRF)が先月報じたところによると、土砂の上部は以前よりもはるかに速く動いており、時には1日に40cmも移動している。
地元当局は最大120万㎥の地滑りが起きる危険性が高まったとして、警戒レベルをオレンジから最高の赤に変更し、地域内の立ち入り禁止措置を決定。避難命令の発令を受け、住民は11月18日までに村を離れた。無許可で村に立ち入ると、最高5000フラン(約80万円)の罰金が科される。
現時点で、村上部の斜面がいつ崩れるかは予測は不可能という。当局は今後も24時間体制で監視を続ける。危険性がなくなるまで避難命令は解除されない。
2023年にも住民が避難
この村では2023年5月にも、200万㎥の地滑りが起きる可能性があるとして、避難命令が出ている。
昨年6月16日夜、120万㎥の岩石が谷に落下し村のすぐ近くで止まった。7月3日に避難命令が解除され、ブリエンツの住民は自宅に戻った。
地元当局は、近隣の自治体への移住計画も検討している。
「気候変動とは無関係」
同地域の地滑りをモニタリングする地質学者のシュテファン・シュナイダー氏は、ブリエンツで起きたような地滑りはこの地域では珍しくないと指摘。山の地盤の不安定さは気候変動とは無関係だと話した。
ブリエンツでは1878年に最初の地滑りが記録されている。当時、同様の規模の岩の塊が1日に約4mずつ村に向かって下降した。この現象は1年半続き、最終的に村から100mの地点で止まった。
危険な泥
それ以来、大小さまざまな地滑りや落石が定期的に起こっている、とシュナイダー氏は説明する。村の地下の地盤もまた、何十年も動き続けている。
シュナイダー氏はスイスの通信社Keystone-SDAに対し、「雪の多かった1999年の冬が、この動きに大きな影響を与えたのではないかと考える人もいる」と語った。
同氏によると、大量の雪解け水が地面に染み込むと、地滑りの起きやすい混合物を形成する。ブリエンツが位置する高原は頁岩と、地元ではフライシュと呼ばれる非常に柔らかい岩石で構成されている。これに水が混ざると、「厚い泥が形成される」という。
地下の岩盤の角度と相まって、ブリエンツの山、そして村もゆっくりと下方へ滑っていく。これまで、年に2.5mのペースで谷に向かって移動してきたという。
異常気象
最近の研究では、気候変動が山岳地帯の自然災害を激化させ、アルプス地方に大きな影響を及ぼしていることが示唆されている。アルプス山脈の高地ではここ数十年で落石が増加し、永久凍土の融解、氷河の後退が進む。
シュナイダー氏によれば、気候変動に関連した異常気象(山間部での降水量が通常より多く、頻度も高いこと)は、岩の滑落速度には直接影響しない。むしろ非常に雨の多い夏や雪の多い冬といった異常気象が長期間続くことが響くという。しかし、これらは気候変動に直接起因するものではないと強調する。
ブリエンツの地滑りは永久凍土の融解のせいでもない、という。永久凍土は標高2300m以上にしか存在しない。この村は標高1100mにすぎない。
昨年の地滑りを受け、専門家たちは再発防止や村を保護するための取り組みを進めている。
地滑りの速度を遅らせる策の1つが排水トンネルの建設だ。下にある岩から水を汲み上げ、周辺地域を安定させる。すでに試掘トンネルの建設が始まり、地質学者とエンジニアがこれを元に計画を評価する。このトンネルは1.6km延長される予定で、プロジェクト全体の費用は4000万フラン(約68億円)という。しかし、このプロジェクトでは差し迫った危険を防ぐことができない。
村の外側に土砂崩れを食い止める防護壁を作る、ダイナマイトで小規模の地滑りを誘発するといった案も上がる。しかしシュナイダー氏は、斜面でのダイナマイト使用は不適切だと話す。
「1つは安全性だ。発破は斜面の上部に爆薬を設置する必要がある。それは危険すぎる。もう1つは保険の問題と言ってもいい。もし誰かが爆破して村に被害が及べば、爆破の引き金を引いた人間に責任がある。これらは社会的、政治的議論に発展する問題だが、(議論は)簡単ではない」
編集: Mark Livingston/gw、英語からの翻訳・追記:宇田薫、校正:大野瑠衣子
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