スイス最大の太陽光発電
連邦工科大学ローザンヌ校 で8月24日、スイス最大の太陽光発電がスタートした。
今回は一部のソーラーパネルのみが稼働したが、2012年には同校のほぼ全ての屋上2万平方メートルに電力供給会社がパネルを設置し、年間200万キロワット時を生産していく。大学と企業が協力して立ち上げ、また個人がパネルの借主になり生産に参加するという点でユニークなスイスで唯一の企画だ。
再生可能エネルギーへの意欲
8月24日午前11時発電機にスイッチが入った。その瞬間、折しも雲間から顔を出した太陽に発電を示す針が大きく振れ、連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHL/EPFL ) 側の計画責任者フランシス・リュック・ペレ氏と電力供給会社「ロマンド・エネルジー ( Romande Energie ) 」の最高経営責任者 ( CEO ) ピエール・アラン・ウレック氏が、堅く握手を交わした。「ソーラーパーク、ロマンド・エネルジー&連邦工科大学ローザンヌ校 ( Parc solaire Romande Energie – EPFL )」がこうしてスタートを切った。
今回は1000平方メートル分のパネルが稼働したが、1カ月後には6000平方メートル、2011年と2012年にそれぞれ6000平方メートルずつ増設し、最終的には555戸の家庭の年間消費電力量に値する、年間200万キロワット時の電力を生産していく。
2009年1月にスタートした同計画は、再生可能エネルギーでの発電を2020年から2025年に10%増大することを目指すロマンド・エネルジーのプロジェクトの一環だった。これに連邦工科大学ローザンヌ校が同意して屋上を提供した。
スイスの太陽光発電は、技術開発には定評があったが、スイス政府の補助はドイツなど他国に比べ大幅な遅れを取っていた。
「やっと3年前に始まった政府の補助金のリストに多くのプロジェクトが名を連ね、順番を待つより独自の資金でスタートした方がよいと判断した」
とウレック氏は言い、再生可能エネルギーへの同社の意欲を強調した。
また、建物に取り付ける場合の建築基準法による多くの規制、日照条件の良い山地の設置には自然保護団体などからの反対もブレーキをかける。
「山地では、風力電力の設置も反対にあい苦労している。結局スイスでは、現在の段階でのことだが、こうした大型の建物の屋上がソーラーパネル設置に最適だ。美観を損なわない上、大量にパネルを購入することでコストダウンもできる」
実際、ロマンド・エネルジーは次の計画として、ヴォー州にあるスーパーマーケットの屋根8000平方メートルにパネル設置を考えている。
一方、大学側が使うのは全発電量の3割だ。これは大学の全消費電力量の2、3%に過ぎないが、クリーンエネルギー開発に力を入れている工科大学としては
「太陽光発電に協力することは、こうしたエネルギーに賛成しているという象徴的な意味がある」
という。大学周辺の住民には、パネルの反射光が邪魔にならないように角度を配慮はしたが、ほかには特別に反対もなかったという。
ソーラーパネルの借主に
この計画のもう一つの特色は、企業を始め個人がソーラーパネルを借りて、太陽光発電に参加できることだ。「モン・カレ・ソレー (Mon Carré Solaire / わたしのソーラ―四角形 ) 」は「アパートを借りるようにシンプルな」太陽光発電への協力方法だ。
「賃貸家屋に住み、家にパネルを取り付けられない人でも、工科大学の屋根のパネルを自分のものとして借りることができる。設置のための費用も維持費も、技術的な面への心配もいらない。1平方メートルが最低単位で1年間が契約期間だが、いやになったらいつでもやめられる」
とロマンド・エネルジーの営業部長ジャン・ピエール・ミッター氏は説明する。
スイスの4人家族の家庭では、年間4000キロワット時から4500キロワット時を消費する計算になるが、すべてを太陽パネルで賄おうとすると30平方メートルを借りる必要がある。
「しかし、1平方メートルでもかまわない。参加することでこの発電方法を促進することに繋がる」
とミッター氏は力説する。
ちなみに値段は1平方メートルで年間78フラン ( 約6300円 ) 。もしパネルを借りた場合、現在スイスでは太陽光発電の電気代は平均1 キロワット時に付き0.8フラン ( 約64円 ) だが、それよりほぼ半額に近い約0.45フラン ( 約36円 ) になる。普通の電気代は0.2フランのため
「確かに面積を広く借りれば借りるほど普段の電気代は高くなるが、このパネルを借りた際に成立する契約書に対し少し多めに代金を払うという、いわば太陽光発電支援だ」
とミッター氏。
インターネットのサイトから申し込めば、共同家主のような形式で「共同発電」のメンバーになり、天候や発電量などの情報が送られてくる。
ミレニアム技術賞の太陽電池
ところで工科大学側は、このプロジェクトが技術的に順調に進めば、将来的に大学の建物を繋ぐ道の脇や建物の壁にもソーラーパネルを取り付けていくことを考えている。
「今年オープンしたロレックス・ラーニングセンターの波打つ屋根にも、湾曲した薄いパネルを取り付けられるようになるかもしれない。これからどんどん技術的な開発は進むからだ」
と科学者の視点でウレック氏は話す。
また、今回の計画の一分野に「研究開発部門」があるが、その枠の中で、色素増感太陽電池を今年10月に建設が始まる同大学の大会議センターの屋根8000平方メートルに取り付ける計画がある。色素増感太陽電池は、科学技術分野のノーベル賞に匹敵するフィンランドの「ミレニアム技術賞」を今年6月受賞した、同大学のミヒャエル・グレッツエル教授が開発した電池。フィンランド技術アカデミーが「一般に普及しているシリコン電池より安価で、多くの利点がある」と高く評価したものだ。
「パネルは薄く、また色を付けられるので緑にするかといった色々な提案が持ち上がっている。発電効率などを観察し、うまくいけば、安価であるため、将来大いに活用されるだろう」
とウレック氏は期待している。
ロマンド・エネルジーも、太陽光発電は同社の再生可能エネルギー発電の中の僅か数パーセントを占めるにすぎないが
「今後、色素増感太陽電池の効率性や実用性などを見て、採用の是非を判断する。太陽光発電の問題はいつもパネルの値段がどれほど安価になるかということだ」
と現実的な意見で締めくくった。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ) 、ローザンヌにて、swissinfo.ch
スイスの電力供給会社5社の一つ。
市民側からの要求や環境問題の変化に伴い、再生可能エネルギーでの発電に力を入れている。
13カ所の小型水力発電所で全発電量の25%をすでに発電。今後さらに2020年から2025年にかけ、水力、風力、バイオマス、太陽光など、再生可能エネルギーの発電で10%の増産を計画している。
今回のソーラーパークプロジェクトはこの増産計画の一環。
一方、効率の良い電気使用法の教育にも力を入れている。
スイスの発電の55%は水力発電、40%は原子力発電に頼っている。その他2%はバイオマス、風力、太陽など再生可能エネルギーが占める。冬季にはフランスの原発から電気を輸入している。スイスには5基の原発がある。
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