チューリヒ動物園75周年
本年で75周年を迎えるにあたりチューリヒ動物園では、数多くのイヴェントが催される予定である。あと1ヶ月で夏休み。家族みんなが楽しめる動物園は、今年はさらににぎわうことであろう。
「動物愛護」の面から、狭い土地に縛り付けるといった批判もある動物園だが、現在求められている動物園の役割を、チューリヒ動物園園長のアレックス・リューベル氏に聞いた。
スイスインフォ: 動物園園長という仕事は子供が夢見る職業の一つですが、毎日どのような仕事をなさっているのでしょうか。
リューベル園長: 子供たちが夢見るというのもうなずけるほど、魅力ある仕事ではありますね。わたしは獣医で、動物園で働けば、動物と長い時間接することができると思っていましたが、実際は違いました。動物園を宣伝する動物の大使のようなものです。インタビューを受け、講演もよくします。動物園への募金活動もしなければなりませんし、市民の皆さんに動物に興味を持ってもらい、信用を得、動物愛護の面から園を運営するといった使命もあります。
スイスインフォ: 動物園はなぜ必要でしょうか。
リューベル園長: 多くの人にとって動物園は「自然への非常口」なのです。動物を見たいと思っても、簡単には動物が住んでいる国まで旅行することができません。生きた動物と直に接することは、動物への理解を深めるために重要なことです。動物を愛することで動物を保護しようとする心も生まれてくるのです。
スイスインフォ: チューリヒ動物園は長い歴史があり、今年で75年を迎えますが、時代によって動物園のあり方が問われつづけてきたと思います。
リューベル園長: 動物園は200年ほど前にできました。当時の人たちは、珍しい動物を見るために動物園に行ったわけです。チューリヒの動物園も同じような考えで創立されました。
1930年代初めになって、森林の伐採が盛んになります。動物の7割以上が森林に住んでいますから、伐採が進み多くの動物が死滅してしまいました。動物園の役割はこの時から、「動物の避難場所」と変化してゆきました。動物を保護するため、人間の手を借りて繁殖をするようになりました。チューリヒでは1950年代に当時の園長、生物学者、生物心理学者のチームが繁殖を進んでするようになり、いまや、繁殖はごく普通の動物園の活動となっています。
動物園外でその動物の生息圏が破壊されてしまっている昨今、生息圏の代用になれる動物園は大切な存在といえます。
今の動物園は、自然の仕組みを教える教育の役割も担っています。「人間は愛するものしか保護しない」とあるアフリカ人が言ったのですが、自然をよりよく知り、愛することで、自然を保護しようとする心を育む役割が動物園にはあります。
スイスインフォ: スイス国内では、野うさぎの生息圏さえ脅かされていますが、動物園の試みは市民に受け入れられると思いますか。
リューベル園長: 地球上の自然がいかに破壊されているか。劇的です。人間は「自然の体力」を2割増しで酷使していると言われています。スイスでも同じことが言えます。人口の増加を止め、よりよい生活を求める人間の欲にブレーキをかけない限り、どうしようもないですね。
私自身、悲観的になりがちですが、積極的に対策を立て、自然破壊の防止に努めることが必要です。スイスの野うさぎかマダガスカルの熱帯林の保護かはあまり問題ではありません。自然の破壊に悲観的になるばかりではなく、人々の発想の転換をこのチューリヒ動物園でわたしは試みているつもりです。
スイスインフォ: そのために多くの人を呼び寄せようと努力されているわけですが、エンターテイメントに重きがおかれ、動物園が遊園地のようになってしまいませんか。
リューベル園長: 動物園は常に、魅力的なものでなければならないと思っています。ジェットコースターのある遊園地には決してなりません。動物そのものが、とても魅力的だからです。とはいえ、積極的に新しい企画に取り組むつもりです。もっとも、新しい魅力をアピールする企画にあたっては、わたし自身、成功するかどうか不安で、はらはらしますが。動物園は広い層に受け入れられることが肝心です。わたしは動物を代表する大使であり、大使として、動物と人間を取り持つ「外交」をする任務があると思っています。こうした自覚があれば、動物園のあるべき姿もおのずから決まるものです。
スイスインフォ: ライオンなど行動範囲の広い動物たちは、実際は「牢獄」に入れられているということを理解しているのでしょうか。
リューベル園長: 知らないと思います。今いる動物のほとんどは動物園で生まれましたから、牢獄に入れられているとは思ってもいないと思います。閉じ込められているかどうかは問題ではなく、与えられた場所でも普通に生きてゆけるかどうかが問題だと思います。普通に生きるということは、家族と一緒に過ごせて餌をもらえる。また、ここの生活が面白いということです。
スイスインフォ: 園長が特にお好きな動物はいますか。
リューベル園長: 特に好きな動物というのはありません。獣医として、サイとオウムと接する機会が多かったのですが、動物たちや動物と植物の共存に特に興味がありますね。新設のマソアラ熱帯林ドームは、マダガスカルの熱帯林をすっかり真似て作りました。ここでは、熱帯林の中で生息する動物を見ることができますが、彼等は自分たちの生息圏以外で生息できないことが、分かると思います。自然の中でそれぞれがかかわり合って生きていることを、人々に見てもらうことにわたしは喜びを感じています。
スイス国際放送 聞き手 ウルス・マウアー (佐藤夕美 (さとうゆうみ)訳)
49歳
獣医
妻と3人の子供がいる
1991年から同職
昨年の訪問者数 およそ165万人
従業員 120人
形態は株式会社
売上 2,200万フラン(およそ19億8,000万円)
75周年はライオンをテーマとしている。ライオン用の施設の改築に500万フランから600万フラン(およそ4億5,000万円から5億4,0000万円)が必要で募金中。
話題となっているのは、マダガスカルのマサオラ半島を模倣した熱帯林ドーム。建設費5,200万フラン(およそ46億8,000万円)。11,000平方メートルの広さのドームでは熱帯林の自然摂理が完璧に行われるようになっており、キツネザル、爬虫類、鳥、虫たちが生息している。ウェブカメラで、リアルタイムの様子が見られる。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。