利益と社会的責任の軋轢:マラリア・ワクチン
スイス熱帯病研究所(バーゼル)が参加し国際共同開発したマラリア・ワクチンが、ワクチンを最も必要とするが、高価な治療薬を購入できない途上国の人々にどのようにして供給するかという新たな論議を引き起こしている。
世界保健機関(WHO)によると、世界では毎年300万人がマラリアを発病する。患者の多くは途上国の住民で高価な治療薬を購入することができず、毎年100万人が死亡するという。WHOマラリア根絶計画のベルナルド・ナーレン・アドバイザーは、政府および非政府組織の粘り強い挑戦が、医薬品企業を利益よりも社会的責任を重視する方向にシフトさせたという。少なくとも、旅行者や軍人など先進国からマラリア感染エリアに行く人のためのワクチン開発研究費と、アフリカのマラリア患者のための治療ワクチン研究費は、今では同程度になったとナーレン氏は言う。「旅行者のマラリア予防ワクチンのほうが、途上国のマラリア患者治療ワクチンよりもはるかに利益が大きい。たとえ、死に直面する途上国のマラリア患者の治療薬の方が、はるかに必要性は高いとしてもだ。」とナーレン氏は語る。が、最近では薬品企業も方針を変更してきた。今年初め、WHOとスイスの薬品企業ノバルティスは、アフリカ諸国に供給する最新マラリア治療薬の価格引き下げに署名した。ノバルティスは、新薬「コアルテム」の治療に必要な24錠分の価格を先進国40ドルに対しアフリカでは2ドル40セントとすることに合意した。
ノバルティスのリンダ・ステファン・インターナショナル・プロダクト・マネジャーは、エイズなどと違いマラリアはあまり注目されないが、マラリア対策は薬品企業だけに委ねられるべきものではないと言う。「WHOなどの保健機関がマラリアに関する知識を広める活動を行うべきだ。なぜ薬品企業に責任を押し付けようとするのか私には理解できない。」とステファン氏は述べた。
一方、クラウス・ライジンガー・ノバルティス財団理事は、マラリアワクチンをめるぐ議論は社会責任と利益が相容れない問題ではないということを証明したと言う。「企業の利益は社会責任を果たさなければ長期的には保持できない。企業は株主の金を運用資金にしているのだから、社会的な責任と株主に対する責任のバランスが必要だ。」と述べた。
マラリア・ワクチンをどのようにして世界に供給するかという問題は、臨床試験が完了し薬品特許が承認されるまでは仮定の問題だ。スイスおよび各国の研究チームがワクチン開発を進める間、WHOはマラリア根絶を目指し政府支援を動員するという。「問題は、国際社会がワクチン入手と価格設定にどこまで意欲的に取り組むかだ。」とナーレンWHOマラリア根絶計画アドバイザーは語った。
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