崩れ落ちるアイガー
ベルナーオーバーラントにあるアイガーの東壁の一部が7月13日夜8時前、崩壊し、氷河の谷へ落ちた。麓のグリンデルヴァルトは砂埃を被ったが、直接の被害はなかった。
現在、ひび割れは250メートルにわたる。1日に72センチメートルの速さで下方にずれ続け、崖全体が崩れ落ちるものと予想されている。
今回、崩壊したのはおよそ70万立方メートル。しかし、東京ドームの容積124万立方メートルより大きい200万立方メートルの崖がまだ残っている。一気に崩れるのか、部分的に崩れていくのかはわからないが、近日中にすべて崩れ落ちると予想される。ちょうど夏休みと重なり、都市からの見物客も訪れている。
鏡で観測
カリフィルム(Challfirn-Gletcher)というアイガーの氷河地域に、小さな岩が転げ落ちているのが上空のヘリコプターから発見されたのは、6月10日だった。シュロスロウヴィナ(Schlosslouwina)付近にある急斜面の崖から落ちてきた岩と判明。別の場所でも2カ所でひび割れが発見され、付近にある山小屋の経営者は下山した。以後、毎日のように岩崩れが起こっており、付近の一部は、立ち入り禁止となっている。
ひび割れの原因は、グリンデルヴァルト氷河が溶け出したためであると、専門家の意見は一致している。この氷河は、過去20年間縮小し続け、その速さは1年ごとに平均1メートルほど。氷河がそれだけ軽くなり、石灰石の地盤のバランスが崩れたためという。しかも、ひび割れが20センチメートルほどになった時点で、氷河から流れ出した水が地盤に圧力をかけ、ひび割れの進行を早めた。
崖の大部分が一気に崩れ落ちた場合、氷の塊、水、岩が土砂として流れ出すと見られる。水が途中で溜まり、その後に鉄砲水として流れ出せば、グリンデルヴァルトが洪水になる可能性もあると見る専門家もいる。
グリンデルワァルトでは
多くの観光客が訪れるグリンデルヴァルトで日本語観光案内所を運営する安藤一郎さんは「これまでも砂埃が降ってきた。自動車などが汚れて困る。問題の崖のある東側の渓谷は閉鎖されているが、そこへ行く日本人観光客は少なく、直接の影響はない」と崖崩れを地元の村人は冷静に受け止めていると言う。
崖付近に設置された鏡に写して観測が続いているが、設置された5枚の鏡のうち2枚は、崩れ落ちた岩のために割れてしまった。現地での観測は難しく、いつ大きな崖崩れが起きるのかを予測するのは困難という。
swissinfo、佐藤夕美(さとう ゆうみ)
- スイスの氷河は1985〜2000年の間に、面積が18%縮小し22%低くなった。
- 特に小さい氷河の縮小が顕著。
- 大きくて標高が高いところにある氷河の縮小速度はゆっくり。
<スイスの崖崩れ事故>
-5月31日 ゴッタルドトンネルの壁が崩れ落ち、自動車を運転していたドイツ人夫婦が死亡
-6月12日 グラウビュンデンのコルヴァッチで土砂崩れが起き、70歳の男性が死亡
<アイガー>
標高3970メートル。
北壁の登攀は困難なことで有名。
日本人の登山家槙有恒は1921年、東山稜を初登攀した。
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