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欧州で広がるTikTokへの懸念 スイスも16歳未満への禁止検討 

Tiktok禁止を訴える活動家
米国は監視と国家安全保障上の懸念からTikTokを全面的に禁止する法律を制定。執行は一時停止されている Copyright 2023 The Associated Press. All Rights Reserved.

世界的人気を誇る中国系動画投稿アプリ「TikTok」に対し、各国が規制に動いている。強力なアルゴリズムの選挙に対する影響が民主主義への脅威と認識され、若者の健康に与える害も指摘される。規制を見送ってきたスイス政府も、ようやく重い腰を上げつつある。

中国企業バイトダンス傘下の動画投稿アプリ「TikTok」。中毒性のある短いコンテンツで数十億人を楽しませる一方、欧米諸国で当局の警戒を呼んでいる。米国は機密情報流出への懸念に基づき政府端末でのTikTok使用を制限。その後、実質的なTikTok禁止法も制定し、ドナルド・トランプ大統領が延期しなければ1月に発効する予定だった。また欧州連合(EU)では、TikTokが有害なコンテンツを蔓延させたり、選挙結果を左右したりするリスクについて調査が実施されている。

ドイツでは、2月の連邦議会総選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進したことに関し、コンテンツ推奨アルゴリズムが果たした役割も研究されている。得票率を倍増させたAfDは、TikTok上での露出の多さも顕著だった。

隣国スイスも一連の懸念と無縁ではない。国内のTikTok利用者は200万人を超え、その75%を12〜19歳が占める。また、1月にはバイトダンスがチューリヒで商業登記した。同社は今後の計画を明かしていないが、スイスで足場を拡大していくとみられる。

スイスはEUと異なり、主要SNSを今のところ規制していない。国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)は「サイバーセキュリティーは企業や国民一人ひとりの責任だ」と説明している。

ただ連邦政府は先月末、16歳未満のTikTokやInstagramなどの使用禁止を検討すると表明した。専門家らは、TikTokの情報拡散力とアルゴリズムが民主主義と公衆衛生に及ぼすリスクを警告している。

スイスのNGO「アルゴリズムウォッチCH」のポリシー・マネージャー、エステル・パナティエ氏は「世論に対するSNSの影響を評価し、信頼に足る情報を入手できるようにすることは、直接民主制において極めて重要だ」と語る。

民主主義へのリスク

TikTokが民主主義に及ぼす影響への懸念は増している。

ベルリンの非営利シンクタンク「戦略対話研究所(ISD)」の専門家、アナ・カツィ・ラインスハーゲン氏は現在実施中の調査に基づき、「AfDはTikTokの閲覧数や支持者によるアカウントが他党よりも多い」と指摘する。

同氏らは政治関連コンテンツの拡散にTikTokのアルゴリズムが果たした役割を調べ、その一環として「おすすめ」フィードにどの党の動画が多く表示されたのかを分析した。調査では政治的関心などが異なる架空の利用者を模したアカウント13個を用意し、それぞれの「おすすめ」フィードに表示された動画から政党や政党支持者が発信したものを抽出した。その後、各アカウントの該当動画のうち1〜5本目を分類した結果、AfDかAfD支持者が発信した動画が全65本中32本、つまり49%を占めた。また、欧州委員会は政治広告に該当する動画にその旨を明記するよう勧告しているが、従っていない動画が45%に上った。

英調査団体グローバル・ウィットネス外部リンクが実施したドイツ連邦議会選前のSNS分析によると、TikTokのアルゴリズムはAfDを支持するコンテンツを重点的に勧めていた。しかも、支持政党のない利用者に対しても同じ傾向が見られた。

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社会民主党(SPD)や左翼党といった左派寄りの政党も選挙前にTikTok上で存在感を高めたが、表示されるコンテンツはCDU/CSUやAfDなど右派寄りの政党に比べて大幅に少なかった。

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これは新しい傾向ではない。AfDは2024年の地方選挙と欧州議会選挙の前から全政党で最も強力外部リンクにTikTokを利用し、検索バーのサジェスト(入力予測)機能でも最も党名が挙がって外部リンクいた。そして、選挙で18〜24歳の支持を獲得した。

スイスのメレット・シュナイダー下院議員(緑の党)は、自国で同様の現象が起こることを懸念している。スイスの右派・国民党(SVP/UDC)はTikTokを活用し始めたばかりだが、ドイツの右派政党と同じく他党より関心を集めている。シュナイダー氏はドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーのインタビューで、SNSに対する「緊急」の規制が必要だと訴えた。

TikTokがスイスの若者に及ぼす弊害

TikTokをめぐる懸念は政治にとどまらない。スイス3州の当局は1月末、「チャレンジ」と称して大量の鎮痛剤を飲む行為が米国から広まり、TikTokを通じて若者らの過剰摂取を助長していると警鐘を鳴らした

また、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の調査によると、TikTokのアルゴリズムは大量の行動データに基づき動画を提供することで、利用者が抱える悲しみや抑うつの感情を増幅する恐れがある。ベルリンのヴァイツェンバウム研究所の研究者で、TikTok利用者350人とInstagram利用者120人から提供されたデータの分析を進めるリオン・ヴェデル氏によれば、TikTokのアルゴリズムは悲しい動画や憂鬱な動画に反応した利用者に対し、同じような動画をさらに多く見せようとする。

米国では2024年の裁判で開示された内部文書により、利用者の生活習慣や心の健康にコンテンツ推奨アルゴリズムが及ぼすリスクを知りながら、TikTok経営陣が緩和策を講じなかったことが明らかになった。

チューリヒ大学もまた、スイス全土の10代約1500人を対象に、TikTok動画と飲酒・喫煙量の相関の有無をスイスで調べている。同大のトマス・フリーメル教授(メディア利用・効果)は「多くの動画が(酒類の入った)グラスやたばこを手に友人と楽しく過ごす若者を映している」と指摘する。調査結果は今秋にも公表予定だ。

アルゴリズムへの不安

TikTokの影響を研究する専門家らによれば、コンテンツ推奨アルゴリズムは多くのSNSで使われているが、TikTokは高度な人工知能(AI)と膨大な利用者を擁するため他のプラットフォームよりも懸念が大きい。

ヴェデル氏によれば、「TikTokは独特」だ。利用者一人ひとりに合わせた調整がリアルタイムで実施され、他のプラットフォームよりずっと速い。フィードを利用者個人の趣向に適合させるため収集する情報の量でも、競合他社を上回っている。

TikTokは利用者の年齢に関係なく動画の閲覧履歴を最長3カ月保存し、過去6000回の「いいね」を追跡記録している。閲覧時間や一時停止の操作、エンゲージメント(投稿への反応)など、利用者の行動データはすべて収集し、何カ月も保存する。そして、強力な機械学習アルゴリズムを通じて一連の情報すべてをリアルタイムで処理し、コンテンツの推奨の仕方を調整する。ヴェデル氏は、TikTokのデータは競合他社と比べて「最も細かい」と評している。

TikTokのさらなる特徴は、「いいね」やコメント、フォローといった目に見えるやりとりだけでなく、利用者の目立たない行動を読み取ることにある。不透明なアルゴリズムを調査する欧州のNGO「AIフォレンジックス」のコンピューター科学者、マーティン・デゲリング氏によれば、「たとえ1000分の1秒単位でも私たちの関心を惹くもの」があれば、TikTokはそれが何なのかを理解しようとする。そうして個人にピンポイントで照準を絞り、フィードを調整する能力こそ、TikTokの革新性と魅力の源となっている。

スイスのプラットフォーム規制はどうなるか

EUのデジタルサービス法(DSA)は未成年者に対するターゲティング広告を禁止するとともに、コンテンツ推奨アルゴリズムの透明性確保や、違法コンテンツの迅速な排除をプラットフォームに義務付けた。こうした規定により、非EU加盟国であるスイスにも保護のすそ野を広げる。

しかし、アルゴリズムウォッチのパナティエ氏はEU法だけでは保護が不十分だとし、スイスの国内法による規制が欠かせないと主張する。

同氏は、プラットフォームがどのようにコンテンツを推奨・調整し、どのように特定の利用者層に照準を定めているのかについて、透明性を高めるべきだと考えている。実際、この方向の法案外部リンクが2024年に起草される見通しだったが、連邦政府の作業は遅れ続けている。議会から起草を指示された連邦環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK/DETEC)の報道官は、手続きがどのように、いつ進むのかを明言していない。

TikTokをめぐっては、インドのように全面的に使用を禁止する国や、米国、カナダ、欧州の数カ国のように政府端末での使用を規制する国が出てきている。

スイスはTikTokを禁止しない判断を下したが、国立サイバーキュリティー試験機関(NTC)は2023年の報告外部リンクでリスクを指摘している。同機関は、TikTokではプラットフォーム側に認められる権利が広範囲に及ぶため、利用者の監視が「技術的に可能」だと説明。位置情報が頻繁に送信される点も「目につく」とした。一方、実際に脆弱性が明らかになったり利用者を監視している証拠は見つかったりしたわけでもなく、当局によれば、この点が禁止を見送る理由となっていた。

AIフォレンジックスのデゲリング氏は、スイスのような小国がプラットフォームの有害な使用法に対抗することは、規制なしでは難しいと警告。「TikTok上で具体的な脅威が広がった場合、スイスは対応しにくくなる」との懸念を示した。

編集:Gabe Bullard and Veronica De Vore、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:ムートゥ朋子

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