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水害対策の見直し

2007年8月、ベルン州で洪水 Keystone

温暖化がもたらす脅威の表れとして、昨年世界中で洪水が多発した。

スイスも例外ではない。2007年8月には、集中豪雨のため、スイスの平野部や北西部が浸水した。約25億フラン ( 約2400億円 ) の被害をもたらした2005年の大洪水に次ぐ規模だった。

 災害疫学研究センター ( CRED ) によると、2007年には、世界で399件ほどの災害があり、その半分以上が水害関係で、およそ1億6400万人に被害をもたらしたという。

増える水害

 「2007年は幸いにも、大惨事というほどの災害はありませんでした。しかし、経済的損失は前年よりも大きかったのです」
 と、災害疫学研究センター所長のデバラティ・グア・サピール氏は言う。
「全体的に見て、異常事態がよく起こっています。地震や火山噴火のような地質学的な現象ではなく、風害や水害が極めて多いのです。現在の状況は、気候変動に関する政府間パネル ( IPCC ) の予測通りです」
 と、指摘した。

行動モデル

 観測者によれば、基本的にいつ大きな自然災害がスイスで起こってもおかしくないという。いずれにせよ、スイスが備えるべき対策を専門家は見直している。

 「常にスイスはモデルになっています。とてもうまくやっていると思います。多額の資金が早期警報システムや土地利用計画、法令制定のために投入されています し、国民も理解を示しています」
 と、国連国際防災戦略 ( ISDR ) 事務局次長のヘレナ・モリン・ヴァルデス氏は言う。

 しかし、連邦環境局 ( BAFU/OFEV ) で災害防止責任者を務めるハンス・ペーター・ウィリー氏から見ると、災害対策にはまだ改善の余地があり、統合的な危機管理戦略を開発することで、国民の災害に対する備えを整える必要があるという。
「地方自治体や国は、災害発生の危険性にもっと適応していこうとしているのです。状況は変化しているため、あらゆるコンセプトを再チェックする必要があります。もし、これまで通りの安全を確保したいならば、わたしたちはシステムを変えなくてはいけません」
 と、ウィリー氏は言う。

 近年の災害体験により、「技術的な」土地管理に代わり、自然的な解決方法を支持する発想の転換が起こったと、連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHL ) の地質学者オレル・パリオー氏は指摘する。
「水害と戦うというよりも、水害とうまく付き合っていこうとしています。共同体や土地所有者に受け入れられるようなプロジェクトができるには時間がかかりますが」

 パリオー氏はヴァリス州のローヌ川の流れを変える3度目の工事を好例として強調した。ヴァリス州では、一部の堤防や川に決壊や氾濫 ( はんらん ) の危険性がある場合、農家は氾濫原 ( 水の逃げ道となる土地 ) として所有地の利用を許可するよう説得されている。
「技術者も自然的な解決策を認めているようですし、政治家も含め、状況は変わってきています」
 と、パリオー氏は言う。

水害対策

 2007年の洪水で、明確な水害対策が求められた。

 連邦環境局によれば、川や運河の堤防に確認された弱い箇所をなくすため、いくつかのプロジェクトが進行中だという。洪水の危険がある際に、州当局や地方自治体当局の迅速な意思決定を可能にする、降水量や流量を予測する「水文予測」も、現在進められている分野だ。全国災害予測地図も作成されているが、当初の予定より遅れていて、現在のところ2011年が期限だ。

 政府は治水対策として、今後4年間に、年間およそ1億4700万フラン ( 約140億円 ) の予算を当てている。財源があるというのはいいことだが、それでも、州が計画していることすべてをカバーすることはできないと、ウィリー氏は注意を促した。ただ、「比較的小さな投資で、被害をかなり抑えることができるため」、警報システムは1番最初に必要なことだとウィリー氏は言う。


swissinfo、サイモン・ブラドレー 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

異常気象や大地震が起きると、連邦アラームセンター ( NAZ/CENAL ) は被害を受けた州、軍隊、連邦警察局やそのほかの関係者に、スイス気象庁やスイス地震サービスからの警報を送る。

国民に対する警報は、全国にある7750個のサイレンで伝えられる。一般に州警察が行う。

国民はスイス放送協会のラジオ局に周波数を合わせ、情報を得る。

スイスは連邦制のため、自然災害が起こった場合、連邦当局は自治体への支援の範囲内で行動するだけになっている。

連邦民間防衛局 ( BABS/OFPP ) は地上で起こるあらゆる災害を監視している。

連邦水理地質局 ( BWG/OFEG ) は自然災害予防の責任がある。連邦水理地質局内には、議会の外部委員会である、スイスの自然災害プラットフォーム ( PLANAT ) の事務局がある。

予防策の報告書を作成するため、PLANATは公的機関、研究者、保険会社、そのほかの専門家を集めている。

昨年2007年は、世界で起きた自然災害399件の半分以上にあたる、206件が洪水だった。2000年から2006年までの洪水発生件数は、年平均172件だった。

2007年の災害で、世界でおよそ2億人が被害にあった。その半分は6月と7月に中国で起きた大洪水の被害者だ。

2007年の自然災害による損失額は、2006年の340億ドル ( 約3兆6000億円 ) から、625億ドル ( 約6兆6000億円 ) に達した。損失額には、多額の保険がかけられた先進国の建造物への被害が含まれている。

7月に日本で起きた地震では、125億ドル ( 約1兆3200億円 ) 、ヨーロッパを襲った冬の嵐「キリル」では、100億ドル ( 約1兆600億円 ) の損害だった。また、夏にイギリスで起きた洪水では、80億ドル ( 約8480億円 ) 、カリフォルニアの山火事では25億ドル ( 約2650億円 ) の損害を受けた。

不十分な開発戦略が、アジアでの洪水による大量の死者を招いたと、報告書の主執筆者のデバラティ・グア・サピール氏は言う。大規模な建設計画、進行する都市化、アジアの人口の多い国の一部で広がる貧富の差が、洪水によるさらなる被害をもたらすだろうと、サピール氏は警告する。

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