日本代表選手、全員メダル獲得!
世界84カ国から総勢約400人の高校生が参加した第47回国際物理オリンピック(IPhO)の授賞式が17日、開催国のチューリヒで行われた。日本代表選手5人全員がメダルを獲得。金メダルは3人、銀・銅メダルはそれぞれ1人ずつだった。「物理の甲子園」に参加した彼らに喜びの声を聞いた。
金メダルは渡邊明大さん(奈良・東大寺学園高2年)、吉田智治さん(大阪・大阪星光学院高3年)、福澤昴汰さん(東京・筑波大附属駒場高3年)の3人が受賞した。
また、銀メダルは吉見光祐さん(兵庫・灘高1年)、銅メダルは高羽悠樹さん(京都・洛星高3年)が受賞した。
国際物理オリンピックは物理の知識と能力を競う世界大会だ。参加資格は20歳未満の大学・短期大学などの高等教育を受けていない生徒たちで、各国内で選抜された5人に与えられる。
10日に成田空港を出発した日本代表選手は12日に実験問題、14日に理論問題に取り組んだ。試験時間はそれぞれ5時間ずつだった。
不安を乗り越えての受賞
国際物理オリンピックへの参加は2回目で、昨年は銀メダルだった吉田さんは、念願の金メダルを獲得することができ「うれしい」と満面の笑みを浮かべた。今回の試験は「難しかったが、おもしろい、挑戦してみたいと思わせる難しさだった。実験問題はもっと精密にデータを取ればもっとおもしろい結果が出ると思った。日本に帰ったらもっと物理を勉強したい」と生き生きとした表情で話した。
また予想外の金メダル獲得を素直に喜ぶ福澤さんは「やりきったという満足感」でいっぱいだと言う。高校3年生の福澤さんにとって同大会への出場は今年が最後だ。「だからこそ楽しみながら問題を解きたいと思っていたが、それどころではなかった。焦りっぱなしのままで試験が終わってしまったことが心残りだ」とうれしさと悔しさが残るコメントを残した。
一方で高校1年生の吉見さんは「手応えを感じなかったので、銅メダルで十分だと思っていたが、最終的には銀メダルを取れたので安心した。来年は金メダルを目指したい」と次の目標を語った。
銅メダルを受賞した高羽さんは国内大会への出場経験はあるが、世界大会への出場は初めて。「試験の手応えがなく、結果が出るまでは不安でしょうがなかったが、メダルが取れて安堵(あんど)の気持ちでいっぱいだ」と胸をなでおろした。最初で最後の世界舞台で見事にメダルを獲得した高羽さんは、授賞式後の昼食や取材の最中ずっと満足げな表情を見せていた。
しかし結果に不安だったのは、2回目の参加となる渡邊さんも同じだった。理論問題試験の前日には4時間しか寝られなかったと言う。「精神面が弱いことに気づかされた」と冗談っぽく話した渡邊さんだが、昨年のインド大会でも金メダルを獲得していた分、プレッシャーは大きかったに違いない。「今年も金メダルを取れて、喜びよりも安心感が勝っている」(渡邊さん)。
人と人をつなぐ場
個人的に金メダルを取れたうれしさもあるが、「全員がメダルを獲得できたことが何よりもうれしい」と話す渡邊さんに他の皆もすかさず同調した。また高羽さんは、試験の結果が気になって不安だったときに仲間が「大丈夫か?」と常に気遣ってくれたというエピソードを語った。
同大会はそれぞれの能力を競う個人競技ではあるが、同じ目標への努力を分かち合う仲間同士のチームワークの強さがこの5人から感じられた。 こうした仲間との交流を深めることも、国際物理オリンピックの目標の一つだ。この大会は物理の楽しさを見つける場だけでなく、同じ興味関心を抱く世界中の青年をつなぐ場でもある。
同大会への参加国は84カ国。選手たちは試験の合間に行われた遠足やパーティーを通じて親睦を深めていた。日本選手の5人も最終日には各国の選手と記念撮影をしたり残り少なくなった時間で最後の挨拶をしたりしていた。
それぞれの夏休み
物理の「スーパー高校生」にも日本に戻れば日常生活が戻る。各人が夏休みに抱える課題はさまざまだ。
高校3年生の3人には、受験勉強が待ち受けている。すでに受験校や専攻が決まっている生徒もいれば、まだ迷っている生徒もいる。
しかし、物理を進学に結びつけるかどうかは別として、物理の知識をこの先もさまざまな場で生かしていきたいという点では、現段階で3人とも同じ将来を描いている。
一方で高校生活最初の夏休みを迎える吉見さんは「今年の夏休みは英語に取り組みたい。先輩たちが他の国の生徒と交流しているのを見て、自分ももっと英語を頑張りたいと思った」と話す。物理以外にも新たな趣味かつ目標を見つけられてとても楽しそうだ。
また、高校文化祭の役員をいくつか抱えている高校2年の渡邊さんは、9月に行われる文化祭の準備を乗り切れるかどうか気が気でないと言う。皆夏休みにもそれぞれの課題を抱えて忙しそうだが、楽しそうだ。
2022年日本大会に向けて
22年の国際物理オリンピックのホスト国は日本だ。東京で開催される日本大会で出題委員長を務めることになっている東京大学大学院の早野龍五教授は、「今回の大会はチューリヒ大学が全面的にサポートし、若いボランティアも大勢入ってしっかりとオーガナイズできていると感じた。東京でもきちんとした大会ができるようにしたい」と話す。
1週間同大会を視察した早野教授は、日本大会の一番大きな課題は「いい問題を作ること」だと出題委員長としての強い意気込みを見せた。
また今回の大会でオブザーバーとして試験問題の翻訳や解答の採点を行った川畑幸平さん(東京大学理学部4年)は、「生徒が日本語を極力使わず、図形や数での解答を心がけてもやはり言語上の壁は残る」と国際大会の問題かつ課題を指摘する。言語上の壁に関しては各国のオブザーバーがいかに現地の採点者と交渉できるかにかかっていると話す。 国際物理オリンピックに参加する生徒たちの多くは「学校や受験勉強で問われる物理の問題に対しておもしろさがなく、物足りないと感じている」(川畑さん)。
そんな世界中の生徒たちを楽しませる問題を作る大人たちへの期待は高まる。プレッシャーを抱えるのは高校生たちだけではない。同大会は物理が好きな世界中の人たちが選手、出題者、サポーターなどさまざまな立場から参加できる国境と職業の壁を超えた世界大会なのだ。
高校生を対象とした物理の知識を競う世界大会で、物理に対する興味関心と能力を高め合うことが目的の一つ。初回は1967年にポーランドのワルシャワで開催された。ホスト国は毎年変わり、今年はスイスとリヒテンシュタイン。スイスでの開催地はチューリヒ大学のイルヒェルキャンパスだった。22年は日本がホスト国で開催地は東京に決定している。
大会には、各国の予選で選ばれた最大5人の選手たちがオブザーバーなどからなる引率役員とともに参加する。
大会の開催期間は例年8日間で、その間に各5時間の実験・理論問題試験が行われる。試験問題は各選手が使用する言語に翻訳される。
問題の翻訳や解答の採点が行われている間、選手たちはホスト国の文化に触れたり遠足に出かけたりする。今年は共同開催国であるリヒテンシュタインへの訪問、登山列車でのリギ山登頂、フィアヴァルトシュテッテ湖(ルツェルン湖)でのクルージングなどがプログラムに含まれた。
今年の開催期間は7月11〜17日で、2日目遠足、3日目実験問題試験、4日目遠足、5日目理論問題試験、6、7日目遠足、8日目結果発表という日程だった。
採点方法
上位3人の点数から平均値を設定し、その平均値の90パーセント以上の得点者に金メダル、78〜89パーセントの得点者に銀メダル、65〜77パーセントの得点者に銅メダルが渡される。また50〜64パーセントの得点者には入賞が与えられる。
今年の大会では47人が金メダル、74人が銀メダル、98人が銅メダルを獲得し、65人が入賞した。
日本選手の参加と成績
日本の国際物理オリンピックへの初参加は06年。それ以降、毎年5人の生徒を派遣している。今年の参加は11回目となる。
日本選手の過去3年の成績は、15年インド大会で金1人、銀2人、銅2人、14年カザフスタン大会で銀4人、銅1人、13年デンマーク大会で銀2人、銅3人。毎年代表選手の全5人がメダルを獲得すると好成績を収めている。
日本での予選は全国物理コンテストの「物理チャレンジ」から始まる。2段階から構成される同コンテストでは、全国各地域で開催される第1次選考の上位約100人に対し、夏休みに3泊4日で合宿形式のコンテストが行われる(第2次選考)。
同コンテストで優秀な成績を収めた参加者から10人が選出され、さらに秋合宿と7カ月にわたる通信添削、実験実習、冬休みおよび春休みの合宿研修などを経て、最終的に国際物理オリンピックの代表選手5人が選ばれる仕組みだ。
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