米オープンAI、アンソロピックがチューリヒに スイスのAI研究力に期待
世界の生成人工知能(AI)開発をリードする米オープンAIが4日、チューリヒに研究拠点を新設したと発表した。競合する米アンソロピックもチューリヒに拠点を開設済みで、スイスのAI研究・人材供給力が飛躍的に伸びるとの期待が高まっている。
スイスが世界的なAIハブに成長できるかどうかは、今後も優秀な人材を輩出・呼び込み続け、将来有望な新興企業に資金を提供できるかどうかにかかっている。スイスの今後のAI規制がどう形作られるかも重要な要素だ。
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スイスはこれまで、ITよりも銀行、時計、製薬といった伝統産業で名を馳せてきた。だが世界を牽引する生成型AI「チャット(Chat)GPT」を開発するオープンAIと、競合の「クロード(Claude)」の開発元アンソロピックがチューリヒにAI研究拠点を設置したことで、業界図は大きく変わる可能性がある。チューリヒには既に米半導体のエヌビディアやアップル、グーグルが拠点を置いている。
オープンAIの研究担当副社長マーク・チェン氏は、スイスを「欧州をリードする技術拠点」と評価する。アンソロピックは「研究人材のトップハブ」と述べた。
だが米AI大手がチューリヒに進出したからといって、スイスが欧州事業の中心地としての地位を固めているというわけではない。2社はともにロンドンやダブリンなど他の欧州主要都市に拠点を築いてきた。
スイスが欧州連合(EU)加盟国と差別化できる可能性があるのは、AIを巡る法規制だ。スイス通信省は近く、8月に発効したEUのAI法外部リンクに関する勧告を発表する。
連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)のハンス・ゲルスバッハ共同所長は9月のブログ記事外部リンクで、EUのAI法は膨大な量の規制と書類手続きを課し「企業への要求が非常に高い」と指摘。「このためイノベーション(革新)が無意味になったり、市場のブレークスルー(転換点)に至らなかったりするリスクがある」と警鐘を鳴らした。
ゲルスバッハ氏はEUのAI法は正しい方向を向いてはいるものの、イノベーターや企業にもっと自由が与えられるべき分野もあるとみる。「スイスがEUよりも賢く、法的に健全で、少しだけスリムな規制を作ることができれば、テック分野で大きなチャンスが生まれるだろう。スイスは世界的なAIハブに発展する可能性を秘めている」
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米国とのつながり
米国発の世界的AI企業の進出で、スイスのAI産業は活気を増している。
「米国のAIエコシステム(生態系)と強い絆を持ち、共生関係に発展しつつある」。現在スイスのAI市場に関する本を執筆中のビジネスコンサルタント、アレクサンダー・ブルンナー氏はこう語る。
エヌビディアが2022年にスイスのAI新興企業アニマティコ(Animatico)を買収しチューリヒに進出したことも、その証左の1つだという。
連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)AIセンターのマルセル・サラテ共同所長は、オープンAIがスイス・フランス語圏にも活動拠点を広げることに期待を寄せる。
急成長中のAI業界では人材獲得競争が激しさを増す。オープンAIは、チューリヒのグーグル・ディープマインドから研究者3人を引き抜いた。EPFLのAIセンターでは現在、1000人の学生・博士研究員が切磋琢磨する。
サラテ氏は「AIの成長は一世一代の好機をもたらす」と話す。「今やガレージから未来の世界的大企業が生まれる。そのうちのいくつかがこの地域にあってほしい」
サラテ氏はワールド・ワイド・ウェブ(www)の二の轍を踏んではならない、と釘をさす。欧州原子力研究機構(CERN)が1989年にワールド・ワイド・ウェブを発明した時、スイスは世界をリードする産業の育成に出遅れた苦い経験がある。
資金不足
新興企業がスイスで潜在力を発揮するには、ベンチャーキャピタルや既存産業との連携が必須だ。ヘルスケアやロボット工学、金融といった業界は特に、AIを取り込んで技術革新を進める必要がある。
メディアグループStartuptickerは2023年12月のレポートで、スイスはAI新興企業の数では優秀だが、投資額では他国に大きく後れを取っていると指摘した。前出のブルンナー氏は、スイスの大手企業が米国の大企業に依存するのではなく、スイス製のAI技術を導入するべきだと提唱する。ニュースレター配信サービスのサブスタック(Substack)で「優れたAI研究とAI人材、刺激的なAI新興企業があるだけでは、世界のAI競争では勝てない。教育、インフラ、地元のAI企業からの企業購入まで、AIバリューチェーン全体を構築することが重要だ」と書いた。
スイスのAI 研究を主導するのは連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)だ。両校は10月、スイスの研究、教育、AIイノベーションを促すために、国立AI研究所(SNAI)を新設すると発表外部リンクした。
今年9月には、スイスの新スーパーコンピューター「アルプス」も正式運用を開始した。完全に稼働すれば前身のスパコンの20倍の性能を持ち、現時点で世界最先端のスパコンに並ぶ。 両校はまた、医療からロボット工学、持続可能性目標の達成など各分野で研究を実践に応用するための「AI コンピテンスセンター」も運営している。
編集:Veronica De Vore、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子
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