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臓器提供に文化の差

臓器提供に前向きなスイス人は多いが、ドナーカードを持ち歩いている人は少ない Keystone

ルガーノ大学の調査によると、スイス国内のドイツ語圏、イタリア語圏、フランス語圏によって臓器提供者の数に大きな差があることが分かった。

スイスの臓器提供数はヨーロッパの平均を下回っている。研究者は「臓器移植の実施数を上げるためには、言語圏別にキャンペーンを変えるべきだ」と指摘している。

 言語圏別に見ると、イタリア語圏では、臓器提供希望者がドイツ語圏の3倍以上、フランス語圏の2倍以上にものぼる。

意識の差

 スイス・ナショナル・サイエンス基金が、この調査結果を臓器移植研究プログラムの一部として出版した。これによると、イタリア語圏ティチーノ州の住民は臓器を提供することは「市民の義務」と考えているのに対し、ドイツ語圏の住民は「個人の自由」と考えている。

 ルガーノ大学のヘルスケア・コミュニケーション研究室が、この調査のためにドイツ語圏、イタリア語圏、フランス語圏から任意に1500人を選び、アンケートを行った。調査団を率いたペーター・シュルツ教授は「臓器提供の数を増やすためには、人々の生や死に関する考え方を頭に入れなければいけません」と語った。

 「調査結果には非常に驚きました」と教授は続ける。「ティチーノ州では他の言語圏より臓器提供の希望者が断然多いのですが、その理由として我々は地元の医者によるところが大きいと思っていたのです。ところがアンケート調査などを分析した結果、文化的な意識の差が、何より重要な理由だったということが分かったのです」。イタリア語圏の臓器提供希望者の割合(人口比)はヨーロッパで最も高いスペインとほとんど変わらない。

言語圏別キャンペーンが必要

 ドイツ語圏ではドナーカードを携帯している人は13%で、フランス語圏よりずっと少ない。調査に参加した研究員によると、スイスのドイツ語圏では、「臓器移植は個人的な判断で決断するべきだ」と言う考え方が常識的だ。このように考える人々は、臓器の提供に対して慎重な態度を取っている。

 イタリア語圏の人々もドナーカードを携帯している人はそんなに多くない。また、臓器提供に同意する人も半分ちょっとだ。しかし調査結果が明らかにしたところによると、彼らは「苦しんでいる人を助けることは市民の義務だ」と考えているため、結果的に多くの臓器提供につながっている。

 フランス語圏の人々は、臓器提供についてイタリア語圏の人々ほど強く義務感を感じているわけではないが、約25%の人がドナーカードを携帯している。また、7割以上の人が臓器を提供する用意があると答えている。

 臓器移植を待つ患者は多いが、需要と供給の間には大きな開きがある。この状態を少しでも改善するために、シュルツ教授は「言語圏別にキャンペーンの方法を変えるべきです」と提案する。「自分が死んだ時に臓器を提供したいと考えている人は、実は沢山いるのです。ただ、彼らがどこに住んでいるかを考慮して、適切なアプローチをしなければならないのです」

 研究者たちは「イタリア語圏で最も効果的なのは地元のインフォメーションプログラムを活用すること、フランス語圏ではこれまでの伝統的なキャンペーン、ドイツ語圏はかかりつけのファミリードクターに協力してもらうことが最も効果的です」と語っている。

swissinfo 外電 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ )

ドナーカードとは、事故などで脳死状態になった場合、臓器の提供を希望することを明記するもの。
スイスではティチーノ州全域とグラウビュンデン州(グリジョー二州、Grigioni)の一部が イタリア語圏。

‐スイスはヨーロッパ各国のうち、臓器提供数については下から4番目。
‐スイスで初めての臓器移植は1964年に行われた。
‐2005年、スイスでは1159人の患者が臓器移植を待っていた。
‐このうち実際に臓器移植を受けることができたのは413人。38人が手術の前に亡くなった。

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