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読み書きに問題を抱えるスイス人は50万人

 「今こそ政治家は、この問題に目を向けるべきです」と語るデリシオティス氏. E. Derisiotis

スイスに読み書きができない人なんているのか、と思う人もいるだろう。NGO「大人のための読み書き向上」(Read and Write for Adults)代表、エリザベス・デリシオティス氏によると、読み書きに問題があるスイス人は50万人にも上るという。

一方で、NGOが最も苦戦を強いられているのは、読み書きが出来ない人の多さよりも団体の資金難である。

 国連によると、世界では、8億6000万人(対象となった15歳以上のうち約5分の1)が、読み書きが全くできないか、非常に問題があるとされている。スイスでも、その数は50万人を数える。9月8日の国際識字デーにあたり、NGO「大人のための読み書き向上」は、3カ国語(ドイツ語、フランス語、イタリア語)で書かれた10万枚のチラシを全国で配布した。国民にこの問題を広く知ってもらうため、チラシ以外にもアルファベットスープなども配られた。

swissinfo: 読み書きができないと、どのような支障があるのでしょうか?

エリザベス・デリシオティス氏:それは日常生活における全ての点で、大きな障害にぶつかります。病院かどこかで何か用紙に書き込む必要がある時、お金をおろすために現金自動出入機(ATM)の前に立つ時、お店の中を歩いていて、商品のパッケージを手に取る時、など様々なシーンで読み書きが必要となってきます。子供の宿題も手伝ってあげることができません。そしてもちろん、最も問題なのは仕事をする時でしょう。

この分野の調査によると、スイスでは6人に1人は、読み書きに問題があるとされています。けれども一切読むことも書くことも、全くできないという人は、いないのではないでしょうか。

 そうとは言えません。現在、スイスには多くの移民が入ってきており、社会は彼らへの対応を怠っていると思います。このため、私たちは彼らへの特別プログラムを用意しています。

どうして読み書きができなくなってしまうのでしょうか。

 社会がこの問題を放置していることが大きな原因になっていると思っています。特に経済が不振の時には、この問題はいつも後回しにされ、状態が悪化します。読み書きができない人は、困難な人生を歩んでいます。経済的な問題だけではなく、転校を重ねるなどして学校の授業についていけなくなってしまうのです。

 私たちの団体は、読み書きができなくて困っている人に対して手助けを行っていますが、大人になってから読み書きをマスターするのは大変なことです。このため、学校の先生が、受け持っている子供たちに問題がある場合にしっかり対応するということが必要なのです。私は、そのための教師向けプログラムが必要だと訴え続けて来ているのですが、実現には至っていません。

政治家はこの問題について認識してこなかったのでしょうか。

 頭では分かっていても、充分な対処をしているとは言えません。予算が不足していれば、深刻な状況を防ぐことも、実際的な問題に立ち向かうことも、社会に問題提起をすることも不可能なことです。

 今こそ政治家は、この問題に目を向けるべきです。識字率の問題に立ち向かう仕事は、簡単なことではないにも関わらず、大変地味な仕事です。だからなかなか成果をあげられないのです。

読み書きができない人々は、どうやってNGO「大人のための読み書き向上」の存在を知ることができるのでしょうか。

 それは私たちの最も頭を悩ませている問題です。読み書きを習わなくてはいけない人々は非常に多いのですが、私たちが出会うことができるのは、そのうちのほんのわずかな人数です。マスコミもほとんど取り上げませんし、一般に知られてもいません。

 スイスのドイツ語圏では約1000人、フランス語圏では800人、イタリア語圏では若干名が私たちの特別訓練プログラムを受けています。ほとんどの人は口コミでやってきます。

そのような人々の生活背景は悲惨なものなのでしょうか。

 もちろん彼らの教育水準は、比較的低いものですが、100%の人がそうだというわけでもありません。時には生活環境によって読み書きを忘れてしまったという人々もいます。

 男女別で見ると、女性の方が学校へ行く機会が少ないため、男性より読み書きに問題がある数は多いはずだと分析しています。ところが私たちの所へ来る男女比はほとんど同じくらいの割合です。これはつまり、私たちが取り込めていない女性の対象者が多く存在するということを示しています。

NGO「大人のための読み書き向上」は設立してもう20年になりますね。この間、どのような変化があったのでしょう。

 私たちのやっていることにあまり変化はありませんが、この問題は、この20年で世界的に知られるようになってきているのではないでしょうか。特に経済協力開発機構(OECD)が近年、若い人々の読み書き能力低下を懸念して参加国に学習到達度調査(PISA)を行い始めたのは、とても良いことだと思います。

読み書きの問題を抱える人々は、多くの場合、敢えて自分の問題を表にさらそうとはしないのではないでしょうか。このような心理的なタブーをどのように乗り越えていけば良いのでしょう。

 この問題は正攻法で向かわなければいけません。私たちは、対象者を前にして、腫れ物に触るような態度は取りません。遠まわしな言い方などはせず、あくまで一つ一つ、実際的な課題について率直に話していきます。

swissinfo、 ガビ・オヒセンバイン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

9月8日の国際識字率デーでは、世界で読み書きができない成人は8億6000万人にも上ると発表された。
スイスでは読み書きに問題があるとされる人は50万人。
NGO「大人のための読み書き向上」の設立は1985年。

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