豆の害虫駆除で農業研究賞受賞
連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) 植物学研究所の研究者シルヴィア・ドルン教授は、コロンビアの研究所CIATとの協力で、貯蔵中の豆に付く害虫を薬を使わずに駆除する方法を開発し、今年の国際農業技術賞「 SFIAR」 を受賞した。
「乾燥した豆は熱帯に住む人たちのパンだ」とドルン氏は語る。しかし、貯蔵されている豆に甲虫が集 ( たか ) り、豆を食い散らすため、途上国の小規模農家の損失は大きい。「数週間で豆が完全に虫にやられてしまう」というが、そんな農家に吉報をもたらす研究だ。
多くの人を救う
ドルン氏はETHZの大学院生とコロンビアにある熱帯農業国際センター「セサール・カルドナ ( CIAT ) 」との共同研究で、薬物を使わない害虫駆除方法を開発した功績により、「国際農業研究スイスフォーラム ( SFIAR )」 による国際農業研究賞を受賞した。賞金の1万フラン ( 約90万円 ) のほとんどはCIATの今後の研究費用に充てるという。この駆除方法が、国際的な協力活動を通し世界的に広まっていけば
「2000フラン ( 約18万円 ) ほどで、南アメリカ、アフリカ、アジアなどの多くの人の生活を救うという素晴らしい結果をもたらすことができる」
とドルン氏は喜ぶ。
SFIARの事務長フェリックス・ヒンターマン氏は途上国における食糧確保への貢献を
「まず虫害に強い豆の新種が開発されたこと。また、害虫を駆除する益虫を見極める方法が開発されたということで、『二重の戦略』」
であると評価した。
人気のスイス人研究者
今回受賞になった研究「乾燥豆をヒメバチと植物の抵抗力で保護」のヒメバチは益虫で、マニョック ( キャッサバ芋 ) の害虫の天敵だ。これを利用した害虫駆除は、同じくEHTZのハンス・ルドルフ・ヘレン氏による研究で、熱帯で既に実証済み。ヘレン氏の研究は1995年、世界食糧賞を受賞している。ドルン氏もこの研究に携わっていた。
「スイスには食糧安全分野で優秀な研究者が多くいる。害虫の大量発生に対応できるだろう」
とドルン氏。1990年代から農業における害虫と益虫を研究する昆虫学を研究してきた業績があって今回、コロンビアのCIATから協力の要請があったという。
ドルン氏にとっては、実際に利用できる研究が大切だという。
「これは熱帯の小規模農家に非常に有益な方法だ」
研究データはすべて農業専門雑誌に公開され、CIATのネットワークを通し実践に移されることになる。
「わたしが最も関心を寄せているのは、食糧安全と貧困との関係だ」
ずっと以前、1児の親になった時、自分の子どもに問題なく食べさせることができたことを幸せに思ったという。一方、世界には子どもに食べさせる食糧が十分にない母親も多くいる。こうしたことが彼女の研究の大きな動機になっているという。
フィエラ・マラッハ 、swissinfo.ch、InfoSüd
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )
SFIAR ( Swiss Forum for International Agricultural Reseach )
個人や農業開発関係機関が会員の非公式な協会。会員は研究、施設、非政府組織 ( NGO ) 、民間企業、農業団体、政府機関などから参加。
SFIAR賞は2008年から始まり今回で2度目。途上国や新興国での農業開発における問題への喚起とスイスの最新の成功例を評価する目的を持つ。研究は農家との連携で行われ、成果があることが条件となっている。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。