やっぱり和食がいい!( スイス放送協会「融和週間」-1-)
各国から多くの移住者を受け入れているスイス。中東諸国出身の若者たちが起こす社会問題など、外国人のスイス社会への融和問題が常にニュースになる昨今だ。
一方、スイスに住む日本人は、社会的に大きな波風を立てることも無く、スイス文化を受け入れ当地の生活に溶け込んでいるといえるだろう。しかし、絶対に捨てがたい習慣は食生活にある。
日本人学校があるチューリヒ市から電車で20分のウスター市 ( Uster ) では毎月、「食の市」が開かれる。この市で売っているのは、栗ご飯、ひじきの煮物、たこ焼き、納豆、お寿司、肉まん、和菓子などすべて和食である。
おいしさを求めると和食
食の市を主催するアルト美佐子さん ( 自称50代 ) の主旨は、スイスに住む多くの日本人においしいものを食べて欲しいということに尽きる。出展者たち全員、自宅のキッチンで手作りしたものを出しているが
「おいしくなければ売れません。市に出して売れなければ次回からは別な物を出すように、試行錯誤しながら美味しいものを出すようにしています」
5年前に市を始めるに当りアンケートを取った。おいしいものを食べたいが素材を入手することが難しくスイスでは作れない。もしくは、面倒なので作りたくない。また、日本のように簡単には買えないといった状況に、日本人の間で不満があることが分かったという。これに対応するために食の市を開催することにした。
市が始まる午後2時を前に、出展者の女性8人が大きな荷物を会場に運び入れている。前後左右から、和食独特のしょうゆや酢の匂いが漂ってくる。長いテーブルに品物が並び終わらないうちに、客が入場してきた。ケーキを予約してきたという小川智美さん夫妻は、スイスに来て2年になる。今回初めて食の市を訪れたという。家庭でも和食が中心。日本のおコメが食べたいそうだ。
「スイスの料理だけしか食べられないとなったら、辛い」
食の市が立つようになってから、毎回訪れているというミューラー西河郁子さん ( 43歳 ) は、大きな箱にたくさん買った物を詰めている。予算を100フラン ( 約1万円 ) と決めて買うのだ。
「5年間、定期的に続いているのが素晴らしいですね。売る人たちは大変だと思います。市に出ている商品をプロが作ったものとして見ていますから」
人気はパン
開催以来5年間出展し続けているラムサワー正代さんの手作りは、みたらし団子 ( 1本2フラン ) 、大福 ( 1個2フラン ) 、稲荷ずし ( 1個2フラン )、栗ご飯 ( 3フラン ) 、カステラ ( 1切れ2フラン ) 、和風唐揚げ ( 小1切れ1フラン ) 、大根の甘酢漬け ( 1小袋 1フラン ) と多様。1品約100円から350円になる計算。準備に2日前から取り掛かる。メールや電話で注文を受ける事務の煩雑さなども考慮すると、まったく採算抜きでの出展だ。
「日本の味が恋しい、たまには和食が食べたいと思う人たちのために、作っています」
そして食の市の「スター」はパン。パンが出展される日には来場者の数も大きく跳ね上がるという。そもそもパンは洋食だが
「菓子パンや食パンは和食と考えています」
と出展者の高橋亜子さん ( 35歳 ) は言う。食の市で売っているメロンパン、あんパン、カレーパンなどの菓子パンはスイスでは売っていない。
パンとケーキの職人である亜子さんのご主人裕則さん ( 34歳 ) は、日本とヨーロッパのパンの違いをこう説明する。
「ヨーロッパ人は皿に残ったソースをすくい取るため、ある程度生地のしっかりしたパンが必要ですが、日本人は柔らかいパンを好みます。菓子パンといってもそもそも甘さが違います。料理に砂糖を使う和食文化では、食事で十分砂糖を取っています。よって、デザートは甘さを控えるのです」
食の市には毎回、40人ほどの来客があるという。電車で2時間かかるビエンヌ/ビール ( Bienne/Biel ) からも訪れる人がいる。スイスに住む日本人の和食に対するこだわりについて
「日本人の遺伝子。長くスイスに滞在していても、それは変わらない」
と裕則さんは言う。
( 食の市の様子はビデオでもご覧いただけます )
swissinfo、ウスター ( チューリヒ州 ) にて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
「食の市」毎月1回
Florastrasse 42, 8610 Uster
アトリエ ばさら
連絡先 美和子アルトさん
a-el@bluewin.ch
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