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イルカを代弁するジャーナリスト

映画「ザ・コーヴ」から。ダイバーと戯れるイルカ The Cove

昨年の東京国際映画祭で紆余屈折の末上演された、ルイ・シホヨス監督の「ザ・コーヴ」は、和歌山県太地町のイルカ漁や日本の捕鯨を巡る論争の火付け役となった。今年の米アカデミー賞では、長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。

スイスでも上映され、テレビ、雑誌にも取り上げられている。日本ではこの夏に一般劇場での公開が決定している。

 インターネットの日本語のサイト上では、イルカ漁やイルカを食べることの是非を超え、欧米と日本の文化や感情の違いにいたる議論が熱っぽく交わされている。このほど、スイスインフォは、映画の主役、リック・オベリー氏との共著『入り江 ( Die Bucht ) 』を今年2月に出版したスイス人のジャーナリスト、ハンス・ペーター・ロート氏に、イルカ漁の是非について疑問を投げかけた。

 映画では、海岸で地元住民から暴力を振るわれ地面に倒れる男性がロート氏だ。ジャーナリストとして太地町に何度も足を運んでいるロート氏と住民との事件は、ドイツテレビ ( ARD ) のカメラマンがとらえた。

swissinfo.ch : 映画「ザ・コーヴ」の代弁者として伺います。この映画を指して、プロパガンダ映画だと評する日本の映画評論家もいますが、どう思われますか。

ロート : わたしはそうは思いません。この映画は啓蒙映画です。日本では、この映画が映し出したことが知られていません。それは、わたしにとって非常に大きな驚きでした。日本人は、国内で起こっている多くのことを知らないということです。それは問題だと思うのです。例えば、食品安全の問題ですね。水銀に汚染されたイルカや魚を食べているという事実を知らない。こうしたことを日本人は知る権利があると思います。

swissinfo.ch : なによりも日本人を啓蒙したい、というわけですね。

ロート : もちろん ( 啓蒙の対象は ) 、世界全体を念頭に入れているわけですが。監督のシホヨス氏自身が、言っているように、重要なのは日本で上映されることです。この映画は、アメリカ人が作った映画です。アメリカ人の物の見方を嫌う日本人も多くいることは確かですし、そういった感情は理解できます。また、映画の中での間違いがあることも認めます。しかし、この映画は日本人にとって、興味深い内容だと思いますよ。

swissinfo.ch : スイス向けにこの映画を宣伝する機関「オーシャン・ケアー ( Ocean Care ) 」はこの映画を「エコ・スリラー」と呼んでいます。確かに、最後まではらはらさせられます。漁民が悪役、イルカの運命を悲しむ欧米人といった対比がはっきりしていて、物語としてよくできているからこそ、これは本当にドキュメンタリーなのだろうか、事実はどれほどあるのかと疑問を持たれてしまうのでは。

ロート : 現実に反していておかしいと思うようなシーンは少なかったと思います。映画のシーンは、ほとんどが本当に現場で起こったことを映し出しています。わたしも太地町を知っています。

もちろん、映画のごく小さな部分で、ジャーナリストとして自分ならこうしただろうと思うことはありました。しかし、わたし自身は、この映画が極端であることや、間違いなどがあるといったことも含めて、素晴らしい映画だと思っています。

swissinfo.ch : 映画のなかに出てくる日本人は、愚かな者として描かれているとは思いませんでしたか。

ロート : 確かに、太地の漁民はあまり良くは描かれていません。とはいえ、例えば、食品安全を説明するシーンでは、日本人が英雄として取り上げられています。

swissinfo.ch : そういった意味ではなく、映画の中の「悪者」であっても、彼らが、議論が可能な、対等な人間としては描かれていないということです。

 ロート : この映画は、意見がある映画です。中立的ではありません。ですから、イルカ漁禁止に反対する人たちが、映画の中でそのように映し出されなければならなかったのです。悪玉対善玉という対立で。

この映画は感情的な映画です。そこが日本の人たちに非難されるところなのかもしれませんが、わたし自身が現地で見たことは…。イルカに特別な感情を持っていると ( イルカ漁に対して ) 強い怒りを感じ、残虐だと思うのです。

swissinfo.ch : 太地町では、地元の人に暴力を振るわれたとのことですが、外国人が日本の小さな漁村に行けば、地元の人にとっては、一種の「脅威」と映るのが当たり前ではないでしょうか。

ロート : 殴られるとは思っていませんでした。彼らが威嚇してきたんです。もっとも、わたしたちが闖入者 ( ちんにゅうしゃ ) と思われることは理解します。自分も逆の立場なら、 嬉しいとは思わなかったでしょう。

しかし、事件が起こったのは公共の場所ですよ。わたしは、法律に違反することは何もしていません。日本の憲法21条でも、集会、言論、出版、表現の自由が保障されているわけですし。公共の場所で、わたしたちの仕事が邪魔されたわけですから。彼らの好き嫌いにかかわらず、日本の法律でわたしたちがやろうとしていること、つまり啓蒙活動をする権利は保障されています。

swissinfo.ch : 豚や牛を殺して食べる文化のある欧米人から、日本が非難されるというのは受け入れ難いことだと考える日本人もいます。

ロート : 日本人の批判者たちが、わたしたち欧米人も残虐な方法で牛を殺すだろうと非難することは分かります。しかし、だからといって、わたしたちが ( この問題について ) 発言できないことはないと思います。

わたしも、西洋諸国でも動物に対する虐待があることは酷いことだと思います。日本人がヨーロッパの虐待をしっかり分析して、批判する人がわたしの所に来たら、歓迎します。

日本と、アメリカやスイスなどとの違いは、動物虐待に対する厳しい法律があるということです。私が知る限り、日本にはそういった法律はありません。また、イルカの肉が水銀に侵されていて、日本の基準でも食品として認められない含有量であるということを日本人が知らないということは、食品安全面でのスキャンダルですよ。動物保護、消費者保護運動が日本にはないということが、重要なポイントです。

swissinfo.ch : あなたの太地町との妥協点とはなんでしょうか。

ロート : イルカ漁は、残念ですが、今後も長く続くことになるのでしょう。ただし、イルカパークなどに ( 曲芸用や観賞用として ) 売る分だけを捕獲し、そのほかは殺すことなく、海に放すという妥協に達すれば、非常に多くのものが達成できると思います。肉は食べられない質のものですし、イルカの頭数も減っており、保護されなければならないからです。

イルカが殺されなくなったら、わたしが、日本国外に向けて太地町へ観光客を呼ぶ最初の宣伝塔となるでしょう。風光明媚な所で、素晴らしい場所ですから。観光客をイルカ鑑賞ツアーに連れて行くこともできるのではないでしょうか。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

2010年2月、Delins Klasing Verlag出版
リック・オベリー、ハンス・ペーター・ロート共著

1967年生まれ
ベルン大学で地理学を学んだ後、地方新聞社を経て弱者の代弁者としてのフリーのジャーナリストになる。
ほかの著作として、『穀物畑のサークルの秘密 ( Das Geheimnis der Kornkreise ) 』2000年、共著『スイスの秘密の場所 ( Orte des Grauens in der Schweiz )』 2006年がある。

アメリカ、長編ドキュメンタリー
監督 ルイ・シホヨス
出演者 リチャード・オバリー、ルイ・シホヨス、サイモン・ハッチンス
あらすじ
1960年代に、世界的に人気を博したテレビドラマ「フリッパー」の調教師だったリック・オバリーは、現在イルカを保護する急先鋒として、活躍中。和歌山県太地町のイルカ漁を阻止する目的で、その実態の撮影のため現地に乗り出した。イルカ殺戮の実態、イルカの肉が水銀に侵され食品として危険であることを告発する。

( インタビューにおける ) 最後の質問の答えを以下のように訂正したいと思います。それは、わたしが熟慮することなく答えたため、誤解を生み間違って理解されたためです。わたしの意見は次のようにはっきりしています。イルカ漁に対しては、どのような形でも全く反対です。つまり、マリンパークのための、まったく忌まわしい捕獲にも反対します。これは、スイスの海の哺乳類とその環境を保護するスイスの団体「オーシャンケア ( Ocean Care ) 」が指摘するように「結局は死にいたるクジラ捕り ( イルカは小クジラです ) 」だからです。この表現にわたしもまったく同感です。ちょうど今、日本からスイスへ帰って来て、その思いはなおさらです。日本では狭い入江にイルカが追い込められ、すべてが早期に死んでいくことを目にしました。わたしが提案した太地の観光促進は、今も有効です。しかし、イルカ漁やクジラ漁とその取引が、たとえ生きているイルカであっても完全に中止されることが条件です。

わたしが不用意に最後の質問に答え、今こうして訂正したわけですが、『入江』の共同著者であるリック・オベリー氏、アメリカ、ヨーロッパ、日本で活動している仲間の怒りといらだちの原因となったことをここにお詫びします。また、インタビューをした記事の執筆者に対しても、わたしが首尾一貫せず、誤解を招く表現をしたことを謝罪します。

日本語の記事を熟読し不手際を指摘して下さった方々に感謝します。
2010年3月22日
ハンス・ペーター・ロート

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