クレディ・スイス買収劇から1年 未解決の疑問点
クレディ・スイス(CS)がライバル行UBSに売却され破綻を免れてから1年が経過した。2つの大銀行の合併作業はまだ進行中であり、いくつかの重要な疑問が未解決のままだ。
スイスの銀行業界を救うための合併作戦は、果たして成功したのか?swissinfo.chはその評価を決定づける重要な疑問点を検証した。
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UBSは無事に合併を完了できるのか?
合併は巨大事業で、完遂に2026年末までかかる予定だ。UBSのセルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)は2月、第1段階で完了すべき「成果物」(個別のタスク)は6千個に上ると説明した。
エルモッティ氏は、2024年がその過程において「極めて重要な年」になるとも述べた。UBSは今後数カ月、両行のITインフラを統合してから顧客データを新システムに移行するという重要かつデリケートな作業に取り組む。そこにミスが許される余地はほとんどない。
UBSは昨年末までに、世界で1万6千人の社員を解雇した。投資銀行業務を支えていた米国とロンドンでの解雇が最も多かった。
今年はスイス国内の雇用3千人分の削減に着手する。2026年末までに130億ドル(約2兆円)の経費を削減する計画の一環だ。
UBSがこの偉業を成し遂げることができるかどうか、という問いには答えが出ていない。スイス競争委員会(COMCO)は未だ合併に関する正式な立場を表明していないためだ。
UBSはハイリスク・ハイリターンを負っているのか?
CSが突如破綻に追い込まれれば、スイスの金融業界にも世界の銀行システムに多大な損害を与える可能性があった。それを避けるために緊急買収による救済という道が選ばれた。
UBSは現在、スイスに本社を置く銀行のなかで唯一の国際銀行であり、スイス国内総生産(GDP)の2倍のバランスシートを抱える巨大銀行だ。
同行は破綻リスクについては語っていない。明らかにしているのは買収完了後の成長戦略だけだ。富裕層向けのウェルスマネジメントの預かり資産を今後数年間で3兆8000億ドルから5兆ドルに増やすこともその1つとなっている。
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スイス連邦経済管轄局(SECO)の元首席エコノミスト、アイモ・ブルネッティ・ベルン大教授は3月、スイスの経済紙ハンデルス・ツァイトゥングで「UBSの成長への野心は心底不安になる」と語った。「ビジネスの観点では理解できるが、経済の観点から見ると非常に問題がある。私たち全員が負うリスクは高まるばかりだ」
CSの崩壊は、権威があり成功しているように見える銀行であっても、難局に対する誤った経営と戦略が破綻に導く可能性があることを証明した。
UBSが破綻するようなことがあれば、何千人もの従業員が職を失うだけでなく、銀行サービスを利用する預金者や企業にとって悲惨な結果をもたらす。スイス政府は、国民の血税を危険にさらしかねない資本注入を回避しようと躍起になっている。
規制をどう強化する?
政治家は銀行を今後どのように規制すべきかについて大きな発言権を持つ。スイス政界はUBSの成長戦略を認めるのか、それとも銀行の規模縮小を促すのか?
スイスでは2008年の金融危機以来、大手銀行をどのように管理するかをめぐり激しい議論を繰り広げてきた。
「当然のことながら、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は規模の大きさには利点があると認識している」―2009年、当時のフィリップ・ヒルデブランドSNB総裁はこう述べた。「それでも大手国際銀行に関して言えば、経験則としてはそうした利点を最大限に活用するめに必要な規模をはるかに超えていることを示唆する。この点についてはもはやタブー(禁句)はない」
同様の議論は数年後も繰り返された。
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2023年にCSの経営に黄信号が灯った時、スイスの「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」規制が解決策となるはずだった。だがスイス政府は、CSを秩序ある方法で清算する危険よりも、UBS買収を画策するほうが良いと判断した。
UBSが破綻すれば、もはや買収による救済という選択肢はスイスには残されていない。スイス政府は今後数週間以内に規制の再強化案を議会に提出する予定だ。
ショックに対応できるよう銀行に自己資本の積み増しを求める案や、UBSの分社化、金融当局の権限強化などさまざま案が検討されている。だがどの道が最善なのかについては、政治的な合意はほとんど得られていない。
ブルネッティ氏によれば、政府・議会があるべき規制の姿を見出せなかった場合、想定される結末は一つしかない。「スイスにはグローバルに活動する大手銀行は本拠を置けなくなる。つまり、UBSの本社は国外に移転されることになる」
編集:Virginie Mangin/amva、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正: 大野瑠衣子
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