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スイスのエコ繊維

ゲスナー社の工場で。ジャカード織は、必要なたて糸を持ち上げて複雑な模様を織りなす。現在はコンピュータで作業は簡単になった swissinfo.ch

企業が消費するエネルギーはどれほどなのか。スイス連邦統計局が産業別に出した資料によると、エネルギー消費の多い順に化学・医薬品業 ( 18.5% ) 、金属機械製造業 ( 16.7% ) 、製紙・印刷業 ( 13.2% ) となっている。

繊維業界はたったの1.7%と最下位だが、政府による節エネ圧力は厳しいと繊維協会のエコ戦略担当、マンフレット・ビッケル氏は訴える。

エコの高級感

 「政治家は、わたしたち産業界をやり玉に挙げますが、銀行や事務所、交通などまだ節エネの余地もあるし、交渉の余地もあるはずです」
 と語り、機織り機械や染料メーカーは、現在インドや中国向けの機械を作っているため、( スイスの繊維関連企業は ) スイスの規格に合わせるために、機械は特注しなければならず環境寄与の負担は重いと言う。

 しかし、個々の繊維企業の環境への取り組みは商品を通して着々と進んでいるようだ。エコ面で力を入れて注目される2社、「ゲスナー(Gessner ) 」と「クリスティアン・フィシュバッハー ( Christian Fischbacher ) 」の製品をのぞいてみた。両社とも「エコ」という言葉から受ける素朴な印象とは違い、高級感を漂わせる布を作っている。

「揺りかごから揺りかごまで」

 ゲスナーがエコ製品に力を入れるようになったことについて最高経営責任者 ( CEO ) のフレディ・バウメラー氏は
「たとえ200年後にリサイクルが完璧になったとしても、今わたしたちが失ったものは取り戻せない」
 という緊迫感からだと強調する。ゲスナーは、現在世界的に広まっているエコラベル「クレーデル・トゥ・クレーデル ( Credle to Credle ) 」 ( 揺りかごから揺りかごまで) がゴールド ( 右欄参照 ) ラベル と認めた製品「クリマテックス ( Climatex )」 を製造している。

 従来、リサイクルの考え方は「揺りかごから墓場まで」、すなわち生産したら再利用し資材を使い切るという認識だったものを、「クレーデル・トゥ・クレーデル」は、資源を完全にリサイクルし廃棄物を一切出さない、廃棄物は自然に返すことで再び蘇 ( よみがえ ) る「廃棄物は食物になる」という概念で、ドイツ人の化学者、ミヒャエル・ブラムガルト氏とアメリカ人建築家ウイリアム・マックドノー氏が提唱している。

 クリマテックスは、ゲスナーが製造する自然の繊維である麻のラミーとバージンウールを使いジャカード織で、事務用のいすや飛行機の座席用の布のブランド名だ。染料も環境を汚染しないことが前提のため16色しか使えないが、いす全体が自然界の再生サイクルに乗る。さらに
「蒸れずにさわやか、湿気を排除する効果もあり適度な保温性を持ち、使い心地が良い」
 とバウメラー氏はエコの他にも品質が高いことを強調する。

 ゲスナーは元来、パリや東京のファッションデザイナーのための布を手掛けている華やかな企業。デザイン工房やファッション界を通してゲスナー製の布の98%がスイス国外で使われている。今でも衣料関係の生地の売上は全体の3分の1を占め、専門とするジャカード織の需要が高い日本、アメリカが主要市場だ。

 しかし、販売広報部長のオイゲン・ヴァイベル氏によると、1990年代にファッションデザイナーの顧客を大きく減らした。そんな中、スイスの「ローナー社 ( Rohner ) 」が開発したクリマテックスの技術と機械すべてを買収することに成功した。ローナーはクリマテックスを商品化するまでに至らなかったのだ。

 衣料用の布の生命は6カ月以内。「その後は消滅する」とヴァイベル氏。しかしクリマテックスは、家具用に特化することで、開発期間は約6カ月と長いものの、寿命も4、5年と長いことが長所だ。すでにクリマテックスは、タイ航空、南アフリカ航空、フランス航空などの飛行機の座席に使われている。
「ファッション界と家具の二つの商品を持つことは戦略的にも有利です」
 とヴァイベル氏は語る。6月には、デザインからすべてを任せてもらえると期待がかかる日本の家具業者へ売り込みに出るという。

ペットボトルからファンシーな布へ

 シーツやカーテンなどインテリアファブリックスで日本にも進出している「クリスティアン・フィシュバッハ ( Christian Fischbacher ) 」のエコラインは「ビニュー ( Benu ) 」。プロダクト・ブランドマネージャーのカミラ・フィシュバッハ氏によると、古代エジプトの不死鳥の名前から取ったという。「灰から美しい物を作り上げたい」と考えて命名した。2009年秋には日本でも紹介されている。

 ペットボトルを繊維として加工し、これだけを使って織った「ビニューPET」コレクションがある。
「ペットボトルを使った試作品は固くて、美しくはありませんでした。これは使えないと思いました。しかし、ペットボトルから布を作るというアイディアは素晴らしいと思ったのです」
こうしてペットボトルにこだわった彼女が、ソファーなどインテリア用に商品化するまでには2年かかったという。

 ペットボトルはスイスでも回収されるが、すべてリサイクルに回るわけではない。ビニューに使うのは、ペットボトルを透明、緑、青など色別に分別し、細かく裁断し束にして、さらに細かく切って何度も洗浄したあとできあがる、ふわふわしたポリエチレンテレフタラート ( ペットボトルの原材料 ) の繊維だ。これを糸にしたものをアメリカから輸入している。さらにビニューには、ナノテクノロジーで水をはじき、汚れが付きにくい加工が施されている。リサイクル繊維を使っていることから、色に制限があり、コレクションは全体的にベージュが基調。「エコでありナノであるのがポイントです」とフィシュバッハさん。家具用テキスタイルであることから厚みはあるが、ゴワゴワするということもない。しっかり水もはじいた。

 クリスティアン・フィシュバッハではこのほか、綿の古着を細かく切断し繊維に戻して織り直した「ビニュー・ヤーン ( Benu Yarn ) 」も作っている。同社の資料によると、製品1トン当たり節約量は、4817リットルの水、16.5キログラムの化学物質、233.8キログラムの二酸化炭素 ( CO2 ) などが挙げられる。

 最高経営責任者 ( CEO ) のミヒャエル・フィシュバッハさんは
「『ビニューPET』、『ビニュー・ヤーン』は、昨年の展示会で初めて紹介しましたが、繊維業界でもリサイクルが世界的に興味の高いテーマで反響があったことには、実際、驚きました」
 と言う。こうしたエコ商品は、若くてエコに関心のある層をターゲットにしている。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

科学・医薬品業18.5%、金属機械製造業16.7%、製紙・印刷業13.2%、食品10.4%、鉄鋼業8.1%、機械製造業5.7%、セメント業3.2%、繊維・皮製造業1.7%

プラチナ、ゴールド、シルバー、ベーシックに分類される。クリスティアン・フィシュバッハ社の「ビニュー」はシルバーのラベルで、環境や健康に優しい素材を使い、太陽エネルギーを利用し節水などの規範をクリアしている。

ゲスナー社はゴールドのラベルで、シルバーの条件に加え、危険な化学薬品を一切使っていない、再生可能エネルギーの使用率50%以上、水使用量と排水の水質検査や社会的責任の規範調査に合格したものとされている。

創業1819年
創立者の名前が社名となっている。代々フィシュバッハ家が経営し続け、2008年からは6代目のミヒャエル氏が最高経営責任者 ( CEO )。スイス国内外で高級インテリアファブリックスのメーカーとして知られている。

創業1841年
従業員53人
19世紀来からの商品見本を抱えるほか、6人のデザイナーにより新作デザインを手がける。たて糸とよこ糸の織りなす模様が美しいジャカード織が売り物。

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