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スイスのホテルの3割が倒産?

サウナの時間?スイスのホテル経営者の多くにとっても「熱い」状況 Keystone

スイスのホテル業界は業績を回復させているようだが、スイスホテル協会長の見解では、1000件以上のホテルが今後10年間を生き残れないだろうという。

ホテル業界の現状。そして、ホテル経営者で業界のトップと底辺という二つの異なるタイプが直面する課題に焦点を当てた。

ホテル業界の自然淘汰

 「もう寝て、食べて,飲むだけのホテルでは物足りない」
 と「スイス・ホテル協会 ( hotelleriesuisse ) 」のググリエモ・ブレンテル会長は言い
「ほかにも旅行する理由はあるはずだ。ホテルはそれが何なのかを知り、期待されるサービスを提供しなくてはならない」
 と、グラウビュンデン州にある中規模ホテルの経営者でもあるブレンテル氏は主張する。

 スイスにあるホテル5500軒のうち4割にホテル宿泊総数の8割が集中する。つまり、あとの6割のホテルが残りの2割を分け合う計算になると、ブレンテル氏は指摘し
「こうした状況を見れば、6割の半分、つまり全体の3分の1は将来生き残れないだろう」
 と予測し
「この3分の1が倒産するかどうかはホテル協会が決めることではない。わたしたちは自殺ほう助団体ではない。ホテルの盛衰を決めるのは市場だろう」
 とダーウィンの進化論的見方をする。

 ただ、自然淘汰ということになれば、家族経営の小さいホテルにはことさら厳しい状況だとブレンテル氏は認め
「問題は立地条件の不利、市場における方向性の欠如、弱いマーケティング力、価格競争にある。スイスよりも安い所は必ずある」
 と言い
「小さいホテルは価格面で大規模ホテルには太刀打ちできない。しかし、『よし、分かった。うちは小さいが周辺地域のことはよく知っており、ここだからこそ提供できるものもある。お客さんにはとっておきの体験をしてもらえるはずだ』と言えるようなら、市場が見つかるだろう」
 と語る。

B&B&B?

 ピア・ヌスバウマー氏は夫と共にルツェルン湖を見渡せる2つ星ホテル「ホビー・ホテル ( Hobby Hotel ) 」をフィッツナウ ( Vitznau ) で経営する。歴史あるホテルが集まる「スイス・ヒストリック・ホテルズ ( Swiss Historic Hotels ) 」に加盟しているこのホテルの名前は、オーナーの気さくさからではなく、宝飾デザインから鉄の彫刻まで幅広いアート講座を提供していることに由来する。

 「2つ星ホテルとしては、ニッチを探さなければいけない」
 とヌスバウマー氏ははっきり言い
「わたしたちの場合、シーズン中の収入だけではやっていけないので、春と秋にアートや手工芸コースを開いている。こうして『クリエイティブ・ウェルネス』とわたしたちが呼んでいるものを探している宿泊客の要求を満たしている」
 と言い、さらに
「近くの5つ星ホテルで業界大手のある製薬会社が経営セミナーを開いているが、ちょうど今日、セミナー参加者がわたしたちのホテルのコラージュ絵画講座を訪れてくれ、2時間の創作に励んでいった」
 と語る。

 そうなると、朝食つきホテルのB&Bは、例えば「自転車 ( bicycle ) 」の頭文字「B」を看板に付け足すようになるのだろうか?
「B&Bで成功することもある。しかし、ただベッドと朝食があるという理由だけでわざわざそのホテルには泊まらない。宿泊施設だけでなく経験を提供することがポイントになる」
 とブレンテル氏はみている。

 ヌスバウマー氏は、例えば山岳地域ならB&B のようなシンプルなホテルも喜ばれるだろうが、「シンプルな方が良い」という発想は「もろ刃の剣」になるだろうと言い
「7月と8月は、安いホテルで満足する旅行者や必要最低限の物以外はいらない旅行者も多い。しかし、この2カ月の収入だけで暮らすことははっきり言って無理だ。基本的に12カ月で計算するべきだ」
 と経営姿勢を語る。

安い高級ホテル

 スイスのホテル業界ではアジアブームが起こっているにもかかわらず、宿泊客の大多数はまだスイス人だ。ブレンテル氏によれば、質と価格の変動に対して、スイス人は非常に批判的だという。
「何年もの間、スイス人は安定した価格に慣れてきた。外国では客室料金は需要と供給に非常に左右されるものだ。展示会や見本市の開催期間中にドイツに行けば、通常の4倍以上の料金を支払うことになるだろう。そのようなことがスイスでは許されないのだ」
  
 さらに、高級ホテルは金融危機の最中に宿泊料金を下げたので、価格を引き戻すこともできるという。
「外国なら『この部屋は1000ユーロです。それがいやならお引取りください』と言うだろう。しかし、スイス人は違う。値段を上げる勇気がないのではないかとわたしは思う。もし5つ星ホテルの料金をほかの国と比較してみるなら、スイスは平均だ。特に5つ星ホテルやトップの4つ星ホテルなら、もう少し料金を引き上げることもできるだろう」
 とブレンテル氏は指摘する。

スイス・クオリティ

 高級ホテルグループ「ヴィクトリア・ユングフラウ・コレクション ( Victoria-Jungfrau Collection ) 」のマーケティング部長クリストファー・コックス氏も同様の意見で
「ほかのヨーロッパ諸国と比べると、スイスのコストパフォーマンスは時として確かに高い。もしスイスをイギリス、ロシア、イタリアと比較するなら、スイスの5つ星ホテルの宿泊料金はリーズナブル以上だが、安すぎるとは言わない」
 と言う。

 同グループはスイスで5つ星ホテル4軒を経営している。インターラーケンの「ヴィクトリア・ユングフラウ ( Victoria-Jungfrau ) 」、ベルンの「ベルビュー・パレス ( Bellevue Palace ) 」、ルツェルンの「パラス・ルツェルン ( Palace Luzern ) 」、チューリヒの「エデン・オ・ラック ( Eden au Lac ) 」がそれだ。

 コックス氏が言うには、最も大きい市場はいまだにスイス国内だが、4軒のホテルのうち特にインターラーケンとルツェルンでは、今年はインドと中東からの宿泊客が増えているという。さらに、同グループの最大の課題は、商用でのホテル利用を維持することだという。多くの企業が5つ星ホテルを選択肢からはずしているからだ。

 しかし、一般的に見て、スイスの高級ホテルは堅調だ。
「要はクオリティの問題だ。ほかの国と比べてスイスの質はかなり高い。実際に非常に高い評価も受けている。それに、スイスがヨーロッパの高級ホテル産業の発祥の地だということもいまだに強みだ」
 とコックス氏は言う。

もっと「本物」を

 ところで、ヌスバウマー氏の最大の課題の一つは、星が2つという不名誉を克服することだ。
「投資して3つ星ホテルに格上げしようと思っている。スイス人客には2つ星で十分だが、外国人客や旅行業者は最低でも3つ星ホテルを探す。それに、星が3つあれば、求人ももっと楽になるだろう」
 
 「しかし、その一方で、宿泊客の中にはここが歴史あるホテルであることを好む人もいる。そういう人たちは『ヒルトン ( Hilton ) 』のようなどれも同じようなホテルチェーンに飽きていて、ちょっとシンプルかもしれないがより心のこもったもてなしをするホテルに泊まりたいと思っている」
 と、ヌスバウマー氏はホビー・ホテルの特徴を強調し、この文化的側面の役割は大きいと言う。

 「面白いことに、『何も変えずに、すべてこのままにしておいて!』と言う人もいれば、『100年前にタイムスリップしたみたいでひどい所だ』と言う人もいる。そういう人たちには『そういうことでしたら、わたしどもが目指してやってきた歴史あるホテルになったということですね』と答えている」
 とヌスバウマー氏は微笑んだ。
トーマス・スティーブンス、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、中村友紀 )

連邦統計局 ( BFS /OFS ) が1934年から2009年にかけて行った宿泊施設に関する統計によると、ホテル数は7756軒から5533軒に減少し、29%減となった。
しかしベッド数そのものは35%増加している。
宿泊数は2.5倍増え、1934年の1430万泊から2009年は3560万泊に増加した
一方、宿泊日数は減り、1934年は平均4.2泊だったのに対し、2009年は2.3泊だった。観光客は、1934年は外国人が43%でスイス人が57%だったのに対し、2009年では逆転し、外国人が57%でスイス人が43%だ。

8月4日に連邦統計局 ( BFS /OFS ) が発表した数字によると、経済危機の打撃を受けたスイスのホテル業界は業績を回復させているという。今年上半期のホテル宿泊総数は1750万泊で、2009年同期より2.1%増加した。
スイス国内からの客の宿泊数は750泊と2.9%増加した。スイス以外のヨーロッパ諸国からの宿泊客は0.9%減少した。
一方、アジアからの宿泊客数は増加しており、2009年の上半期より16%上回った。また、2010年6月には、前年6月よりも32%も増加した。大半が中国からだが、日本、インド、湾岸諸国からも多い。

スイスのホテル業界はスイスフラン高の恩恵を受けてはいない。現在、1ユーロ1.33フラン ( 約107円 ) で取引されている。イギリスとアメリカからの旅行者も同様にフラン高で痛手を負っている。
「普通、格安の休暇を過ごそうと思ってスイスに来る人はいない。それが目的ではない。スイスのホテルはこれ以上安くはできない。できることといえば、より良くなるだけだ。わたしたちに言えることは、たとえスイスでの旅行がもっと高くなるとしても、スイスに来る価値があるようにすることだ」
 とググリエモ・ブレンテル氏は言う。
昨年末の為替相場は1ユーロ約1.50フラン ( 約121円 ) だったが、今年7月1日、1ユーロ1.3070フラン ( 約105円 ) の史上最高値をつけた。
「1.40以下は問題だ。1.60ならパーティ、1.50も大変結構、1.40はまだ大丈夫、1.30だと頭痛」
 とブレンテル氏は言う。
ピア・ヌスバウマー氏のホテルの今年の業績は昨年より悪いというが「これは想定内だ」という。
「わたしたちのホテルはヨーロッパ市場向けの典型的な休暇用ホテルなので為替レートの影響をもろに受ける。ほかのヨーロッパ諸国からの旅行者にとって、スイス旅行は10~12%ほど割高になった。そして、わたしたちはこの10~12%に大きく左右される所にいる」
 とヌスバウマー氏は語る。
そして、クリストファー・コックス氏は
「フラン高はどのホテルにとっても悩みの種だろう。業界内にいくらか変化はあるが、それほど目立つものではない」
 と言う。

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