スイスの税制は公平か?
スイス経済企業連合、エコノミースイス ( economiesuisse ) はスイスの税制が富裕層に有利だという批判を覆す研究報告書を発表した。
同報告書では企業や高額所得者が税金や社会保険負担金の60%も担っていると立証しているが、経済学者などはこの計算方法が間違っていると主張している。
10月に待ち受ける総選挙を前にして、税制問題は要となるため各政党がエコノミースイスの研究報告書に反応している。そのうえ、スイスはEUと税制に関して、経済摩擦の真っ只中だ。EUはスイスの幾つかの州のホールディング会社に対する税優遇措置がEUにとって不利であるとして、自由貿易協定に反すると訴えている。
公平な税制と報告書
エコノミースイスが発表した報告書「誰がスイスの財政を支えるか」では現行の税制が連帯責任に支えられているという主張を裏付けるものだ。報告書では2003年の納税者の80%に当たる中間、低所得者層は全体の納税額、社会保険負担金の3分の1しか支払っていないと推計している。
エコノミースイスのゲロルト・ビューラー会長は「われわれの税制は連帯を基礎に作られたもの。何度も軽率に言明された社会的分裂はこの数字には見られない。見られるのは競争力があり、魅力的な税制が経済と国民の両者に利益をもたらすということ」と言明する。
スイス企業家協会 ( Union Patronale Suisse ) を率いるトーマス・ダウム氏もスイス企業は既に十分な社会保険負担を担っており、これ以上税率を上げることは「スイスがビジネスを立ち上げるのに良い環境」という定評を失うことになりかねないという。
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非現実的な結果
ザンクトガレン大学の税制専門家のゲプハルト・キルヒゲスナー教授はこの報告書が非現実的な実態を描いているとの見解だ。教授は幾つかの中間所得者層、低所得者層のケースを考慮しなかったことで数値にゆがみが出たと考える。
「このエコノミースイスの報告書はその趣旨に反して現実を表していない。計算方法に深刻な問題がある。家計支出を計算するときに貯蓄やキャピタルゲインに対する課税を考慮していないことで、付加価値税が高額所得者にとって有利だという実態が現れていない」と指摘する。「そのうえ、資産売却所得を考慮しないため、富裕層の収入に対する税制負担率が過大評価されている」ともいう。
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社会格差をもみ消す
社会民主党 ( FDP/PRD ) はこの報告書が社会格差をもみ消していると非難している。同党はこの報告に対して「富裕層と貧困層の間の格差が広がっているという事実を無視している。真の意図は隠れている。エコノミースイスは連帯を密かに衰えさせようとしている」と声明を発表している。
swissinfo、マシュー・アレン、 屋山 明乃 ( ややま あけの ) 意訳
- スイスの住人は連邦、州、地方自治体 ( 市町村 ) の3つのレベルで税金を支払う。各州によって異なる税制を敷いているため、納税者がどこに住むかで税率は大きく異なる。
- これとは別に富裕税(所得ではなく生活費をもとに計算される見積課税)は州税。富裕税の税率は州によって異なるが、通常1.5%前後だ。
- 2001年1月、各州の所得税と富裕税の格差を無くすべく、連邦税制調和条例が出された。同条例は収入の規定、税金控除や特別控除の範囲を規定するものである。しかし、各州が自ら税制を敷くという自治権を超える拘束力はない。
- 2005年の12月、オプヴァルデン州の86%の投票者が高額所得者ほど納税率が下がる逆進税の導入を可決し、2006年の1月から導入された。しかし、2007年6月に連邦裁判所がこれを違憲とした。
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