スイス中銀の9年ぶりの利下げ、予想外の発表に賛否
スイス国立銀行(SNB、中銀)が21日、主要中央銀行に先駆けて利下げを発表した。トーマス・ジョルダン総裁の予想外の決定に、各紙の論調は分かれた。
SNBは21日、主要金利を0.25ポイント引き下げ1.50%とした。主要中央銀行では初めて利下げに方向転換した。
ジョルダン総裁は同日の会見で、利下げの理由を「昨年のインフレ圧力の低下とフランの実質上昇を考慮した」と説明。インフレ率は数カ月前からSNBの目標とする2%を下回り、2月には最低となる1.2%を記録。中銀は2024年のインフレ率見通しを平均1.4%、来年については1.2%といずれも下方修正した。
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ジョルダン総裁は今後もインフレ率の動向を注意深く監視するとした一方で「利下げは経済発展も支援する」と強調した。
「欧州中銀からの独立性を確保」
大半のアナリストは、中銀は金利を1.75%に据え置くと予想していた。米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など各中銀が据え置きを発表する中、常に慎重姿勢だったスイス中銀の方針転換に驚きの声も上がる。
ただUBSのエコノミスト、アレッサンドロ・ビー氏はロイター通信外部リンクに「スイスのインフレ率は低く(利下げの)可能性は常にあった」とコメント。「ECBやFRBに先んじた勇気ある行動だが、スイス中銀はそのようには考えないだろう。他の中銀も年内に追随すると考えているのではないか」と語る。
スイス公共放送の経済部編集者シャルロット・ジャックマルト氏は、2022年以来の5回にわたる利上げで、中銀はインフレをうまく抑え込むことができたと評価。「スイス中銀は、先陣を切ることで欧州中央銀行からの独立性を示したいと考えているのは確かだ。これまでスイス中銀はECBのスケジュールに適応しなければならず、後手に回ることが多かった」と分析する。
「利下げに正当な理由ない」
一方、「経済の観点からも、不確実なインフレ環境の観点からも、利下げに正当な理由がない」と批判したのは独語圏の主要日刊紙NZZだ。
経済部編集者のトマス・フスター氏は論説外部リンクで、利下げは時期尚早とし「SNBは霧がある程度晴れるまで待つべきだった」と指摘。国内では物価水準が継続的に低下する兆候は見られず、むしろインフレ率はSNBの目標範囲の上方を推移しているとした。
ここ数カ月間のインフレ率低下についても、主にフラン高とそれに伴う輸入価格の低下によるものだと指摘。「国内製品のインフレ率は依然2%弱と比較的高い。利下げに伴うフラン安は、輸入品価格が再び割高になるリスクを高める」と分析した。
また昨年末の住宅ローン基準金利の引き上げで、今年5月から賃料も値上がりすることに触れ「全体的に見て、金利引き下げが必要な状況ではない」とした。
「ジョルダン総裁の最後の大仕事」
一方、左派系の独語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、「金融政策の使命に100%適合した」論理的な決定だと評価外部リンクした。
2007年からSNB理事、12年からSNB総裁として、11年の1ユーロ=1.20フランの上限レート設定(2015年に撤廃)、2014年のマイナス金利導入(22年に撤廃)など、ドラスティックかつ時に無謀ともとられるジョルダン総裁の金融政策について「厳格な概念に固執することなく、長年にわたり金融政策を状況の要求に適応させ、手法とタイミングの面でかなりの柔軟性を示してきた」と評価。今年9月に退任を控えた総裁の「最後の大仕事が成功する可能性は高い」とした。
ロンバー・オディエIMの債券ストラテジスト兼ポートフォリオマネジャー、フィリップ・ブルクハルト氏はロイター通信に対し、今回の決定は今後の追加利下げを示唆するものだと指摘。「これはジョルダン総裁からの送別の贈り物でもあり、後任に方向性を明確に示している」と述べた。
編集:Balz Rigendinger、校正:上原亜紀子
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