スイス人、EU加盟に深い疑い
EUに加盟した場合、スイスが現在謳歌している経済的繁栄を10年間で失うと信じるスイス人が増えている。
この調査報告を発表したのは市場調査会社、「GfSチューリヒ・リサーチ」。一方、不安定要素を多く含むEU市場よりも、スイス企業は世界市場を視野にビジネス展開を行った方が良いという調査結果も出た。
この調査の責任者、ペーター・カールソン氏がスイスインフォの取材に答えた。「スイスは、EUの理想について、もはや信じていません。それどころか、ネガティブなイメージが染み付いてしまっています」
スイスはEUに加盟しなくても結構
GfSチューリヒ・リサーチが行ったこの調査は、去年9月、709人を対象に行われた。このうちドイツ語圏スイス人は75%、25%がフランス語圏スイス人。
調査結果では、37%が「EU加盟によってスイス経済は悪化する」と答え、一方「改善する」と答えた人は11%だった。彼らは現在自分たちが享受しているスイスの高い生活水準と豊かな繁栄が、望めなくなると心配しているのだ。
「スイス人は、自分たちが何かを諦めなければいけないのではないか、と恐れています。今、エンジョイしている生活の中で、何も失いたくないのです」とカールソン氏は言う。EUに加盟などしたら、移民が流れ込み、特に高学歴や高い技術を持たないスイス人にとっては大打撃だと警戒している。
「経営面では利益が出るでしょうし、経済発展もありえると思っているのですが、失業についてはまだ恐れが大きいのです。全体的に見れば、EU加盟はスイスにとって悪いことの方が多いのではないかと心配しているのです」
風潮の変化
「1999年以前には、EU加盟はスイス経済を引っ張る原動力になると思われていました。しかし、同年以降、スイス経済の快進撃は進み、EUに加盟しなくても別にいいじゃないか、という風潮に変化してきたのです」とカールソン氏は説明する。今回の調査結果によると、スイス企業はEUの競争相手と比べても決して劣らないどころか、「結構先を行っている」と思われている。
また、ほとんどの先進国と同じく、スイスも高齢化と少子化の問題を抱えており、なんらかの手を打たなければならないと言う議論はある。これについては、若くて技術を持った外国人労働者を受け入れるより、年金など社会保障費を削る一方で、定年の年齢を上げて乗り切ろうとする意見が多く見られた。
swissinfo、 サイモン・ブラッドレイ 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
‐2005年のスイスの経済成長率は前年比1.9%増。
‐2006年は同2%増(推定値)。
‐スイスの失業率は3.6%(2006年3月時点、季節調整済みでは3.5%)。
‐スイスはEUには加盟していないが、EU諸国のうち16カ国と2国間協定を結んでいる。
‐連邦政府は1992年にEU加盟交渉に乗り出そうとしたが、国民投票で拒否された。
2005年のスイスの1人当たりGDP(国内総生産)は推定3万2571ドル(約367万円)。世界で第10位。
EU諸国の平均は同2万6900ドル(約303万円)。
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