スイス繊維と日本市場
世界同時不況にスイス繊維業界も、影響を受けている。2008年の業界売上総額は前年より3.2%、輸出額も5.1%それぞれ減少した。
全ての輸出相手国で輸出額は縮小したが、日本向けは、円高の恩恵を受けたほか、テクニカル繊維部門が急増し、全体で9.9%の伸びを示した。
不況との闘い
「2008年のスイス繊維業界はほかの業界と同様、世界的金融・経済危機の渦に巻き込まれた。このため特に輸出が後退した」
スイス繊維協会 ( TVS Textilverband Schweiz ) のマックス・フンガービューラー会長は、業績発表の場でこのように語った。2008年の総売上は41億8900万フラン ( 約3570億円 ) と前年より3.2%減少。繊維部門とアパレル部門がほぼ半々を占めるが、繊維部門は前年比でマイナス4.1%、アパレル部門はマイナス2.2%だった。
輸出総額は41億8400万フラン ( 約3560億円 ) で、やはりマイナス5.1%。日本を除く全ての国への輸出が減少した。一方、輸入はアパレルが0.6%とやや増加したものの、全体では87億3100万フラン ( 約7430億円 ) で前年比マイナス2.6%だった。主要輸入元はドイツ、イタリアなど欧州連合 ( EU ) 諸国が6割を占めるが、中国からの輸入が69.3%も伸びている。
2008年第4四半期の受注が激減したことから、2009年も引き続き売上額は減少するとスイス繊維業界は予想している。
「しかし、この業界が構造的な問題を抱えているのではなく、不況との戦いを強いられているためだ」
とフンガービューラー氏は語り、人件費を引き下げることで不況を乗り切るといった提案については
「たとえ、スイス商品の値段が上がり、国際的な競争力にも影響するとしても反対である。包括的にスイス工業の致命的ダメージを引き起こす結果は望まない」
と毅然 ( きぜん ) と語った。
元気な企業もある
スポーツウエアや登山用ザイルを製造する「マンムート ( Mammut Sports Group AG ) 」( 本社セオン/Seon ) は、昨年10月に東京、表参道に専門店を開店、今年4月には渋谷にボルダリングスタジオを作った。今年も第2店舗を出す予定だという。最高経営責任者 ( CEO ) のロルフ・シュミット氏は
「日本市場は今年、50%の伸びを期待している。ライセンス商品ではなく、オリジナル商品が受けるだろう」
と語る。不況の今、レジャーは海外旅行ではなくアウトドアが人気で、マンムートもこの恩恵を受け不況は感じないという。
ディオール、シャネルといったファッション界を顧客に持つ「ファブリック・フロントライン・チューリヒ ( Fabric Frontline Zurich AG) 」( 本社チューリヒ ) は、すでに日本の百貨店で商品販売の提携をしている。クリエーション担当のアンドレアス・フール氏は
「日本では、人気商品が堅調に売れている。慎重に見なければならないが、不況は今のところ感じない」
と語った。
トラック荷台のカバーと自転車のタイヤ部分をリサイクルして作られるバッグ「フライターク ( Freitag log. ag ) 」( 本社チューリヒ ) は、約10年前から日本にも進出し「デザインを気にする日本人」に受けている。
「( 危険な ) 株式投資をしたわけでもない。膨大な報酬を要求する役員がいるわけでもない」
と創業者のマルクス・フライターク氏。5月初旬にはベルリンの中心地にショップを開店するという勢いだ。
スイス繊維業界全体で見ると、日本への輸出は円高とテクニカル繊維の大幅な伸びで、9.9%増加した。スイス繊維協会の役員マンフレット・ビッケル氏は
「喜ばしい業績だが、1つの分野の伸びが大きく影響しているので、昨年の業績は慎重に受け止めたい。ただ、日本とは経済連携協定 ( EPA ) が発効されれば、現在の8%の関税が撤廃され、原産地表示も簡素化される。そうなれば、賃金の高いEU諸国やアメリカに対しスイスが有利に立つだろう。しかし、両国とも不況から脱する必要がある」
と言う。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
売上総額 41億8900万フラン ( 前年比‐3.2% )
輸出総額41億8400万フラン ( 同上‐5.1% )
輸入総額87億3100万フラン ( 同上‐0.6% )
繊維業の労働人口1万6700人 ( 同上+1.8% )
繊維部門の輸出総額 4724万フラン ( 同上+84.6% )
アパレル部門の輸出総額 1億1486万フラン ( 同上‐5.8% )
総輸出額1億6210万フラン ( 同上+9.9% )
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