スイス自由貿易協定 米国よりEU
スイス政府が米国と検討してきた自由貿易協定への話し合いは、暗礁に上がった。農業分野での利害の差が大きすぎることがその最大の理由である。
一方、スイスは、EUとのさらなる自由貿易の可能性を検討しており、経済省が外務省と協力し、交渉を進める方向にある。
スイスのメディアは、米国との自由貿易交渉は袋小路に入ったと見る。今後、成立する可能性はきわめて低い。政府はスイスと米国の農業分野での利害が大きく食い違うことから1月18日に記者会見を開き、米国との自由貿易協定の成立は難しいと認めた。一方、EUとの農業分野での協力は進み、5割から6割のスイス製品の貿易自由化が進んでいるとジョゼフ・ダイス経済相は語った。さらに2007年からは、チーズも自由化される。
自国の農家を大切に
米国は農業分野の完全なる貿易自由化を求めている。一方スイスは、一部の農作物については、特別措置が必要であるとの意見だ。サービス分野および工業製品については、自由化の問題は少ないと見られるものの、自由貿易交渉については、その可能性を再検討する必要があり、政治的判断を下す必要があるという。
ダボスで開催される世界経済会議(WEF)でダイス経済相とロブ・ポートマン米通商代表との会見も予定されているが、成立の可能性が高いと判断されない限り、交渉は保留される。
可能性のある方に期待
スイス—米商工会議所のマルティン・ネイヴィル氏は、今後、両国の利害が調整されることをを望んでいる。「農業の国内総生産に占める割合は極めて少ない。コスト高の農業はさておき、農業以外での貿易の自由化がなされることで、経済にもたらされる利点が大きく、この点を考慮するよう望む」とも語った。
一方スイス政府は、農業について、EUとの交渉にも力を入れ始めた。第1スイス-EU条約(1999年)をより進め、EUとの農産物の新たな自由化の可能性を検討している。
スイスが米国との交渉を見合わせたことについて、政・経済界の反応はさまざまだ。キリスト教民主党はこれを「後退」と批判。社会民主党は今回の発表は協定終結が、不可能であることを証明したという。国民党は条約には賛成の立場だが、なにがなんでも協定を結ばなければならないというわけではないという。
スイス農酪業家協会のウルス・シュナイダー氏は「政府は農業問題について慎重な態度で臨み、酪・農家の利益を尊重した」と歓迎している。一方、スイス企業連盟(economiesuisse)は、経済大国である米国との自由貿易協定は、欠かせないものであるという意見だ。
swissinfo 外電 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳
スイス—米貿易
2004年の貿易額 142億フラン(約1兆2740億円)
スイスの貿易総額の1割を占める。
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