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スイス観光 エジプト資本の脅威

アンデルマットのウルゼルンタール ( Urserntal ) 。サミー・サヴィリス氏が開発しようとする土地に腰を下ろす Keystone

「アルプス観光開発」は斜陽にあるのかそれともブームなのか。ベルンのスイスアルプス博物館で開催されたシンポジウムのテーマだった。エジプト人資本家サミフー・サウィリス氏の「新アンデルマット計画」は金融・経済危機の今、格好のタイミングで進められている。

「後先を考えずに計画し、金融・経済危機に転んでしまうとでも思いましたか」とサウィリス氏。金融・経済危機はまるでプレゼントのよう。投資家はさらに慎重を期し保守的になるからだという。

計画の停滞

 とはいえ、サウィリス氏のアンデルマット観光開発が慎重に進められていると誰もが思っているわけではない。自然保護団体の「モファ基金 ( Mova ) 」のマリオ・ブロッギ氏はシンポジウムで、サウィリス氏の計画が超特急で州民投票で承認され、連邦政府でも認可されたことは驚異的だと指摘した。

 「サウィリス氏のために、外国人の不動産投資を規制する『フルグラー法』さえ例外とされた」
 と非難し、開発における持続性があるとされる構想について疑問を持つと発言した。これに対しサウィリス氏は
「これが超特急だと言うのか。4年前からの計画にもかかわらずまだ建設工事は始まっていない。エジプトだったら4週間しかかからない」
 と反論した。

 一部の大きな期待がかけられているアンデルマット観光開発計画には、常に反対運動や批判が立ちはだかった。サウィリス氏が目的達成寸前のところで反対意見が出され、計画はほとんど頓挫の危機に立たされたこともある。
「少数派が多数派を阻止できる。これは民主主義ではない」
 とサウィリス氏は言う。「9割の支持を取り付けたが、8割しか支持してくれなかったとしたら、もっと反対意見が出て、この計画は停滞し失敗していただろう」

 サウィリス氏にとって民主主義とは、それが僅差であっても多数決で決めることなのだ。とはいえ、計画を断念するつもりはないという。
「なぜ断念するのか。やっとここまで来たのに」
 そもそも、反対意見により計画が頓挫するかもしれない危機に立たされると事前に分かっていたなら、サウィリス氏は開発計画を立てただろうか。

お金は奇跡を生む

 710軒のアパートと合計600室になる6棟の高級ホテルのアンデルマット開発計画の規模はことあるごとに大きすぎると指摘されてきた。「スイスのどこの観光地よりこの計画は小規模だ」とサウィリス氏は言う。サンモリッツ観光局のハンスペーター・ダヌーザー前局長も
「サンモリッツには合計2万床あり、ホテルのそれは5000床に上る。ツェルマットはその25%増しだ」
 と言う。

 サウィリス氏の計画では、使われないで「冷たくなってしまうベッド」対策も用意されている。アンデルマットはオールシーズンで観光業が成り立つので、アパートの所有者には、アパートを使わないときには貸し出すようサウィリス氏自ら説得するというのだ。そのためには、金銭的に魅力的な条件が設定されなければならない。「部屋を貸し出せばアパートの購入代金が半額になるとしたら、みんながやります」
 サウィリス氏は経験から「お金は奇跡を生む。頭が固ければその分、出費もかさむ」ということを学んだという。

 観光客は自然や昔ながらの街並みを求めて来るのであり、経済と利益追求が自然保護や以前からの村の景観の保護とは矛盾しないとも言う。
「アンデルマットの新しい部分と古い部分をリンクさせることはこの計画の最大の課題だ」
 そのため、新しい部分が目立たないようにするため、ガラス張りのビルディングを作り、有名建築家にデザインを任せるといったことはないとサウィリス氏は強調する。とはいえ、計画的に生まれる1つのリゾート地という構想はスイス人にとって初めての経験。観光業の経験も長いダヌーザー氏は
「更地に休暇リゾート地を計画することは可能であるという格好の例になる」
 と語る。

swissinfo、スザン・シャンダ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

1957年カイロ生まれ。ドイツの学校で就学。エジプトの資産家の出身。ベルリンで大学を卒業し、両親の経営する会社に入社する。2005年、600床、ゴルフ場付きのアンデルマットの観光開発計画を発表した。

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