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スイス軍の新しい携帯ナイフ

スイス兵が携帯することになる新しい「ソルジャー・ナイフ」。生活様式の変化に伴い新しいアイテムが加わる Victorinox

スイス軍は携帯ナイフを新調するが、その製造をこれまで通り「ビクトリノックス」に発注した。「スイス・アーミーナイフ」で世界中に知られるビクトリノックスは、ヨーロッパ最大のナイフメーカーで、スイス軍には1世紀以上にわたって「ソルジャーナイフ」を納入してきた。

スイス軍が発注したナイフは7万5000本。日本円で約1億3000万円になる。発注先はそれまでの伝統を破って、外国企業の可能性もあるという国防省の発表に、全州議会の議員がスイス兵に持たせるのはスイス製であるべきだという訴えまで起こしていた。

ベストのナイフ

 世界自由貿易機構 ( WTO ) の規定によると、25万フラン以上の公共事業の発注は、一部の例外を除いて国内企業に限ることなく、外国企業も含め広く入札することになっている。このほどの受注にビクトリノックスのマーケティング代表ウルス・ヴィース氏は、100%確信があったわけではないと明かす。
「もちろん自信はありました。新しいナイフもわが社が受注することになり、喜んでいます。スイス軍に納入できることはわが社のイメージの問題ですから」

 現在スイス軍で使われている折りたたみ式の携帯ナイフは1961年に導入されたもので、それ以降これまでデザインに変更はなく、いささか古臭いイメージがある。
「例えば新しい武器を扱う上で、フィリップスのねじ回しが必要だ。しかし、現在使われている携帯ナイフにはこの機能は付いていない」
 と新しいモデルの導入の理由を、実際に発注した軍の付属機関「アルマスイス ( armasuisse ) 」のマーケティング部門を代表するカイ・ギュナー・シエヴェール氏は説明する。
「スイス国内外の企業に携帯ナイフの試作品を提出させ、4本に絞った。ラボでの検査のほか、7月には実際にフィールドでも使ってみた。クラッシュテストや壊れるまで使うというテストなどのほか、訓練中に兵士に渡し、実際使ってみるというテストだ。最終的には技術、軍、コマーシャルの3つの面から、コストパーフォーマンスでベストのナイフを選んだ」
 と言う。

美人コンテストではない

 ビクトリノックス以外に有望なナイフはあったのだろうか ?
「美人コンテストをしているわけではない。採用されたナイフは勝者だが、ほかのナイフは不十分だったということだ。われわれの役目は買い付けであり、最良のものを見つけ出すため、商品の質をテストする」
 スイスのメーカーだから選ばれたのではないとシエヴェール氏は言う。

 新しい携帯ナイフは、来年の兵学校の兵士に渡されることになる。デザインは現在のシルバーの柄のものとはまったく異なる。ビクトリノックスのヴィース氏の説明によると、新世代のナイフだ。片手で刀の部分を出せるようになっている。刀やねじ回しはロックできる。さらに、柄の部分も、1面はソフトになっており、たとえばテーブルの上に置いた場合、ソフトな面を下にして置けばズレ落ちないといった工夫もある。全体の形も1961年版の携帯ナイフより人間工学的になっている。

 「今、契約が交わされた段階だが、市販も考えている」
とヴィース氏は携帯ナイフのコレクターにも応じる考えを明かした。

swissinfo、ロバート・ブルークス 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

1884年創業。ヨーロッパ最大のナイフメーカー。
会社名は創業者の母親の名前ヴィクトリアとステンレスを意味するイノックスの造語。現在の社長は4代目。
1998年にスイス・ジュラ地方の時計会社「ボンフォル ( Bonfol ) 」を買収。
2002年には、アメリカの「スイス・アーミー・ブランズ ( Swiss Army Brands Inc. ) 」を買収した。
スイスアーミーナイフの商標を使えるのは、ビクトリノックスのほか、傘下にあるウェンガー ( Wenger ) のみ。

人命を救助したり、外国の大統領へのプレゼントになったり、宇宙船にも持ち込まれたりした携帯ナイフで、世界中で販売されている。だだし、スイス軍で使われているソルジャー・ナイフとはデザインが違い、ビクトリノックスではオフィサー・ナイフと言われるものが、一般にスイス・アーミーナイフとして知られている型だ。
新しく作られるスイス軍用の携帯ナイフはソルジャー・ナイフで18.40フラン ( 約1700円 ) だが、市販価格は未定。ビクトリノックスはドイツ、オランダ、ノルウェー、マレーシア、インドの軍隊などにもナイフを納入している。

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