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スイス銀行に逃避する米国富裕層 トランプ2.0に備え

チューリヒは富裕層にとって魅力が高い 
チューリヒは富裕層にとって魅力が高い  Westend61 / A. Tamboly

ドナルド・トランプ政権が不確実性をもたらす中、米国内外の米国人富裕層たちが資産をスイスに移す計画を立てている。

特に米国の税法に準拠したスイスの銀行に預金・投資口座を開設したいという顧客が急増している――プライベートバンカーや複数家族の資産を総合管理するマルチファミリーオフィス、資産運用会社は口々にこう語る。

在外米国人向け資産運用会社マセコ(Maseco)の共同創業者で英国在住のジョシュ・マシューズ氏は、米国の銀行破綻への懸念が強まった世界金融危機の際にも同じような要望が増えたと語る。今回は「トランプ大統領がもたらす不確実性」が背景にあるという。

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FT

国外顧客の資産を預かるウェルスマネジャーの1人は、米国のある裕福な家庭が500万~1000万ドル(約7.5億~15億円)をスイスに移すのをサポートしているところだと話す。

ロシアがウクライナに全面侵攻した後、スイスの中立性は激しい政治的議論を呼んだ。だが富裕層らがこうして備えを進めるのは、金融業の中心地としてのスイスの強みは衰えていないことを浮き彫りにする。海外顧客の資産運用において、スイスは今も世界第1位の座を保っている。

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アルペン・パートナーズの創業者兼マネージング・パートナー、ピエール・ガブリ氏は、居住や資産の置き場を模索する米国人から多くの問い合わせを受けていると話す。同社の米国法人、アルペン・インターナショナルは米商品取引委員会(SEC)に登録されている。イスラエルやインドなど他の国籍を併有する米国人からの照会が特に多いという。

ガブリ氏は「確かにここ数カ月、このパターンが多い。大統領選以来、反トランプ派の顧客もいるし、その多くは恐怖に駆られている」と語る。

ガブリ氏によれば、スイスの口座を開設して米ドル建て以外の資産への分散を図る顧客が多い。

法廷闘争の後に

米国では法規制が厳しく、米国人がスイスの銀行に口座を開くのは容易ではない。例えば外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)は、外国の銀行に米国人顧客の口座情報を内国歳入庁(IRS、日本の国税庁に該当)に報告する義務を課す。

だが米SECに登録されているスイスの資産運用会社であれば、米国人顧客のスイス口座の開設や資金管理をサポートすることが可能だ。

米国に拠点があるスイス資産管理会社の代表を務めるウェルスマネジャーは、スイスの銀行口座の開設を希望する人が急増しているわけではない、とみる。米当局に数十億ドルの罰金を課されたスイスの銀行が、法廷闘争が落ち着き、米国人顧客を取り戻しやすくなったにすぎないという。

米当局は2008年以来、スイスの銀行が秘密主義を利用して米国人顧客の脱税を幇助したとして、数十行のスイス銀行を取り締まってきた。

スイスの銀行は米国の税制に適応するため、2013年に透明性向上やFATCAの順守、米国人顧客の情報提供を米当局に約束した。だが米国の顧客がこれらの規則に準拠していることを確認するプロセスは、一部のスイスの銀行をうんざりさせている。

このウェルスマネジャーは「スイスの銀行が米国登録法人を設立し、顧客はスイスに資産を預けているが担当者は米国にいる行員、というトレンドがある」と語った。

追加取材:Joshua Franklin(ニューヨーク)

Copyright The Financial Times Limited 2025

英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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