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メキシコ湾原油流出にスイスのハイテク

メキシコ湾の原油流出事故の処理に、スイスのナノテクノロジーが役に立つか? ZVG

ナノテクノロジーを使って作られた布が、メキシコ湾の原油流出による環境汚染の解決に役立ちそうだ。アメリカの専門家が注目するこの布はスイスの企業「ハイQ」が開発した。

「ハイQ ( HeiQ)」は最近になって、アメリカ軍の代表とアメリカ大使の訪問を受けた。企業訪問の目的は、水と油を分離できるという同社のハイテク生地のフリースにあった。

油を吸い取り水をはじく

 現在、現地での無料テストを行うための準備が進んでいる。メキシコ湾の汚染対策プロジェクト「オイルガード ( Oliguard ) 」はロジスティック面で大がかりなものとなるという。
「アメリカ当局の許可が降りたら、アメリカ州兵軍がわが社の新製品を現場で試すことになります」
 とハイQのカルロ・チェントンツェ社長は語った。

 オイルガード計画の一端を担い、フリースをドイツで製造する「TWE」の広報担当者、カールステン・オッテ氏は
「大々的な現場テストのための見本となる全長500メートル、幅5.5メートルのハイテク繊維はすでにアメリカへ送られたところです」
 と仕事はひとまず、一段落したと語る。

 今年4月20日に発生した英エネルギー大手「BP」の油田「ディープウォーター・ホライズン」の爆破事故でメキシコ湾に流れ出した原油はいまだに止めることができないでいる。悪いニュースばかりが続くなか、ハイQの本社があるスイス、アールガウ州ツルツァッハ ( Zurzach ) から、環境被害を食い止めるための救いの手が差し伸べられている。ハイQはナノテクノロジーを得意とし、油を吸い取る代わりに、水は弾く化学物質を開発した。これをドイツで作られたフリースに付着させる。このフリースでメキシコ湾に流れ出した原油を広範囲にわたって吸い取るという。

清浄作戦は間近?

 事故を発生させたBPは、世界から寄せられた約2万件に上る汚染清浄対策の中からハイQとTWEの提案を採用した。しかし、スイスで開発された技術は実践に使われる用意が万端に整っているが、オイルガード計画の現場テストまで、貴重な時間はどんどんと過ぎてしまうようだ。ハイQとTWEは今からでも毎日30トンのオイル吸収フリースを生産する能力がある。30トンのフリースで10キロメートルの防御の壁ができる計算だ。徐々に生産能力を上げ、1日に300キロメートルの壁を作ることも可能だという。

 オイルガード計画が成功すれば、スタートアップ企業であるハイQにとって大きなビジネスとなる。
「このフリースがメキシコ湾で使われれば、生産量は10倍に膨れ上がります。従業員も増やさなければなりません」
 とチェントンツェ氏は語るが、汚染清浄へあまり高い期待を持つことには慎重だ。
「魔法の武器をではありません。問題の一部の解決です」
 と言う。

奇跡は起こらない

 「ハイQの技術が使われるのは、海岸や観光地です。その地域では効果は出るでしょう」
 とスイスの「グリンピース ( Greenpeace ) 」のアレクサンダー・ハウリ氏はある程度評価した。

 BPはこれまで、海底1500メートルにある管を切り取り、そこから原油を一部吸い上げることには成功した。しかし、吸い上げられない原油が海上に流れ続けている。流出した原油の量は1億7000万リットルから3億8000万リットルと算出されているが、その量は毎日のように動く。

 利害関係のない独立した専門家たちも、大きな期待はできないと警告している。このフリースはメキシコ湾に流れ出す原油の最高3分の1を吸収することは論理的には可能だが、ミシシッピ三角州の素晴らしい自然環境はすでに破壊され、その膨大な被害を取り消すことはできない。流れ出した原油は海面上にとどまり、すでに海中の動植物の生態を破壊している。

 しかも、ハイQのナノテクノロジーも、無害とは言えない。グリンピースのハウリ氏は
「ナノ単位の微小粒子が大量に海水に混入すると、魚の血管やエラにも入る」
 と警戒する。

エルヴィン・デトリンク、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )

2005年創立。連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) のスピンオフ企業。従業員23人。
繊維加工が専門。
銀を使いバクテリアによる臭いを抑制する物質を開発し、スポーツ衣料や病院で使われる布に利用し、有名になった。
油を吸収し、水をはじく物質の製造は、同社にとって新しい分野へのチャレンジである。

ハイQの社長、カルロ・チェントンツェ氏 ( 36歳 ) は、ティチーノ州の環境保護団体「マイクライメート ( Myclimate ) 」の創立者でもある。同氏の父は、英エネルギー大手BP社のスイスの代理会社「エマヌエレ・チェントンツェ ( Emanuele Centonze ) 」の役員。

技術的な観点から見るとフリースは、生地、紙、フェルト、ラップ、皮の性質を備える。自然の資源と化学繊維の長所を併せ持つ。耐火性があり、形が作りやすく、伝導性があり、厚みを出したり薄く伸ばしたりすこともできる。

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