地理的表示の活用、スイスの農家でも広がる
産地名や伝統的な製法がすでにブランドとして確立している農産物や加工製品を「地理的表示」に登録して法的に保護しようとする動きがスイスで活発化している。
表示を取得すると、その地域外の農業生産者が似たような製品を生産しても、その産地名を使うことができなくなる。スイスの生産者は、産地ブランドを定着させることで、厳格な表示を求める消費者のニーズに応えると共に、加速する国際競争の中で生き残りを図る。
スイス連邦農業局によると、これまでに地元の営農者が地理的表示を取得した数は16。今後2,3年で3倍に伸びる見込みだという。産地ブランド品は高値で売れるという効果もこうした動きを加速させている。
生き残り戦略
地理的表示はフランスで古く、ボージョレ、ボルドーなど伝統的に使用されているワイン類の種類を表す表示を、別の国が使用できないように規制したのが始まりだ。
欧州連合(EU)ではフランス方式を取り入れ、92年から独自にハムやチーズで「パルマ」や「モッツァレラ」などを認定しており、EU域内流通を禁止。現在ワイン類を除けば地理的表示の取得数は700にも及ぶ。
国際貿易ルールを作る世界貿易機関(WTO)でも、ワインと蒸留酒の地理的表示を保護する協定を導入しており、「シャンパン」などの産地名は使用できない。ただ、地理的表示が認められているのはワインや一部の酒類だけ。多くの食品では国際的な合意がまだないのが現状だ。
こうした中、EUは現在WTOで地理的表示を国際協定へ格上げしようと働きかけている。WTO交渉で農産物市場の開放は避けられない以上、伝統ある地方食品を抱える欧州は地理的表示の規律を強化すれば、自分たちが有利になると考えているためだ。
農家の理解
出遅れていたスイスでも地理的表示導入の機運が高まってきたが、当初は伝統的な製法を維持する戦略は農家の人たちから理解されなかったという。
西スイス・ヴォー州産のエティヴァと呼ばれるチーズは2000年に表示を取得した最初の加工食品だが、その産地の伝統的な製法に特徴がある。まず、牛を放牧飼育し、えさも牧草のみと決まっている。アルプスの草の匂いを保つためだという。搾った乳は焚き火でゆっくりと加熱していく。
本当はミルクを大型工場に運んでタンクで一気に加熱した方がはるかに経済的。だが、それだと栄養価やおいしさが損なわれてしまうと、地理的表示振興協会のジャック・ヘンショーズさんは説明する。
「産地ブランド戦略は、全く非合理的なことをやるってことなんだよ」と笑う。「最初は一体何のために手間とコストをかけるのか、誰も理解してくれなくて苦労した。でも表示のおかげで、品質の高さも見直されるようになったんだ」と語った。
スイス国際放送 アルモンド・モンベリ 安達聡子(あだちさとこ)意訳
地理的表示とは:
加工食品の品質などが原産地の土地柄に由来する場合、その土地の原産であることを特定する表示のこと
JTI基準に準拠
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