外国人高額所得者への優遇税制 「不公平」とやり玉に
一般納税者の逆風を受け、外国人高額所得者への優遇税制がスイスでやり玉にあがっている。
国民の不信や不公平感を取り除くため、中道左派の社会民主党は、同税制の廃止を含めた抜本的見直し案を今国会に提出した。
だが、地方自治体は優遇税制の継続を求めている。背景には、赤字に苦しむ厳しい財政事情があり、「背に腹は代えられない」という現実があるためだ。外国人高額所得者に対する税制のあり方について本格的な議論が始まるが、先行きはまだ見えない。
優遇税制の仕組み
一般納税者は通常、年間の所得ごとに税率を掛けて税金を納める。だが、外国人高額所得者を対象にしたスイスの優遇税制は、個人の資産や年間所得をもとには徴収せず、年間家賃の5倍に相当する額を毎年一括して支払う方法を取る。
「一括税」とも呼ばれるこの税制を利用している外国人は現在3,000人ほどいる。
例えば、自動車レースの最高峰「フォーミュラワン(F1)」の王者ミヒャエル・シューマッハー選手(ドイツ人)は、一括税を利用して西スイスのヴォー州に住む。
同選手の場合、スイス税務当局に納める年間納税額は200万フラン(約1億8,000万円)。これは同選手の年間所得の2%ほど、総資産で計算しても0.2%にしかならないという。
不公平税制か否か
社会民主党スザン・ロイテンエッカー・オーバーホルツァー議員は、「国内に住む外国人が本来納めるべき額の10分の1しか払わないのは不公平。他の納税者の不信を招くだけだ」と懸念を表明、一括税の廃止を柱とする法案を今国会に提出した。
廃止を求める背景には、昨年合意した欧州連合(EU)との2地域間協定(バイ協定)を機に、こうした優遇税制を利用する外国人が増え、国民の間に不信や不公平感がさらに広がるとの危機感がある。
だが、税制問題に詳しいルガノ大学のマルコ・ベルナスコーニ教授は不公平感があるという批判に、「厳密に言えば、不公平と思うのは国外に長く滞在していたスイス人だけ」と反論する。現行の制度上、一括税を利用できるスイス人は10年以上国外に滞在した人だけで、期間も帰国後最初の1年に限られる。
同教授は「優遇税制の税収は自治体の財政赤字を解消するのに役立っている」として、一括税の継続を支持している。
swissinfo 安達聡子(あだちさとこ)意訳
スイスの税制問題:
スイスでは、外国人の資産家や高額所得者だけでなく、大企業を対象にした法人税もカントン(州)ごとに異なる。
こうした優遇税制は透明性・公平性に欠けると指摘されている。
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