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奇想天外な料理人

ヴィズナーに材料のタブーはない。石でも土でも彼の手にかかれば料理の素材に変る。 biosphaere.ch

こけの生えた石、干草、木、灰、雪など奇想天外な素材を使ったシェフのシュテファン・ヴィズナー氏の料理本が、出版された。ヴィズナー氏の料理は、彼なりの哲学と主張がある。虫を素材に使うといった、奇をてらった料理とは一線を画する。

ゴミヨーで20点中15点の格があるレストラン「ガストホーフ・レッスリ」(ドイツ語で「旅籠屋・馬」の意味)を経営するのは、シュテファン・ヴィズナー氏。地元の客を相手にオーソドックスな料理を出すほか、食材とは考えられないような素材で、高級料理も手がける。

自称「神様が禁じた素材を使って料理する男」。このほど出版された料理の本「金・木・石」に自己紹介するのは、ルツェルン州の田舎町にレストランを営業するシェフのシュテファン・ヴィズナー氏。1989年に父親から譲り受けたレストラン兼ホテル「ガストホーフ・レッスリ」をゴミヨーで15点まで格上げした腕を持つ42歳である。

自然と密着 

 ヴィズナー氏によると21世紀に入ったことが彼の転機だった。イギリスで修行を積んで、帰り戻った故郷のルツェルン州の小さな村で沼地や牧草地と自然に慣れ親しむに従い、決して口にはできないと普通の人なら思う素材を使って料理の実験が始まる。あらゆる材料を調合して金を作ろうとする錬金術師のようにヴィズナー氏は、雑草の花はもとよりこけの生えた石、干草、木などを次々と試し料理として完成させていった。

 干草は村一番の質を保つ農家と提携。こけの生えた石は近くの沼から。こうした素材で料理されたスープは、確かに干草やこけの味がするものの「調和が大事」で、他の素材とうまく溶け合っている。
 最近は木を使った料理を考案した。ワインを樽で寝かす昔からの技術からアイディアが浮かんだ。白松は不適格。高地に生息する地元の松が最適だと分かったという。

 本当に食べられるかは、村の薬剤師が太鼓判を押したもの。健康面で心配のない料理だけが、レストランのメニューとして出されることは言うまでもない。

雪の燻製は精神な儀式

 野外で火を熾(おこ)す。雪がその上に降り注ぐ。地面の上に置いたボールに、煙と共に解けた雪が水となって溜まる。ヴィズナー氏の雪の燻製はこうして作られる。もちろん普通の水でもかまわないのだか、
「雪を素材とするのは精神的なもの。自然から採集した素材を儀式的に扱い、敬うことで自然がわたしを助けてくれる」
と、ドイツ語日刊新聞「ターゲスアンツァイガー」のインタビューに答えている。

 料理の本の通りにしても、料理教室で言われたとおりにしても経験豊かなシェフにはかなわないとしたら、その理由は、ヴィズナー氏の言う「精神的」なところにあるのだろうか。 
「新しい料理を発案するのは楽しいが、毎日のメニューにするため、沼からこけの生えた石を採集するのは、本当のところうんざり」 
料理の錬金術者は、創造欲を満足させながらレストランも経営し続けなくてはいけないが、
「牛や豚を一頭丸ごと買っても、高級料理と普通の料理向けに、無駄なくすべてを使える」
という経済的な面もある。

「普通の料理」と「奇想天外な料理」がうまくバランスを取っているガストホーフ・レッスリは、週末ともなれば20席すべてが予約で埋まり、多彩な客の遭遇の場でもある。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

ゴミヨー フランスのレストランの格付けを20点が満点でする。
13点で「美味しい」とされ、15点なら上々。
満点のレストランはない。
ガストホーフ・レッスリ
月・火曜日 休業
Gasthof RoessliHauptstrasse 111CH-6182 Escholzmatt
電話 +41 41 486 12 41
Fax +41 41 486 12 11

シュテファン・ヴィズナー著出版社 AT-Verlag「Gold Holz Stein」ISBN-Nr. 3-85502-939-3
98フラン

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