手の届かないマイホーム
スイスでの持ち家率の低さに、マイホーム購入を助けるための「預金の税金控除」の導入を求める声が上がっている。
スイスでは人口の3分の1しかマイホームを持たず、ほとんどの人が賃貸住宅に住んでいるという実情が背景にある。理由は住宅購入価格が高すぎるのと、借家人が法的に守られているからといわれる。
スイスの「持ち家協会」とバーゼル州の政治家たちはマイホーム購入を後押しするため、税金が控除される「特別持ち家預金」を導入しようとしている。
どうして手が届かないマイホーム
持ち家協会は1人1年間で1万フラン ( 約97万円 ) までを富裕税から税金を控除できる預金を提案している。一方、バーゼル州の政策はさらに寛大で貯蓄者が毎年1万5000フラン ( 約146万円 ) を10年間まで積み立てることができ、すでに家を所持している人が環境保護にかかわる改築や改装のためには毎年5000フラン ( 約49万円 ) が控除される。
昨年末、世論調査機関「gfs」が行った調査によるとスイス人の4分の3はマイホームを購入することを夢見ている。しかし、ほとんどの人が購入額の20%の手付金を払えないことを購入を諦める理由に挙げている。
スイスでは幾つかの要因が合わさって持ち家購入をそれほど魅力のあるものではなくしていると、持ち家協会のパトリック・ザードラジル氏は分析する。「とても質の良い賃貸住宅が多いこと、借家人を保護する強い法律があること、そして特に都市部では多くの人にとって、経済的に手が届かないことが障害になっている」という。
「我々は家を持つということについてのスイス人のメンタリティーを変えたいのです。政府は市民が家を購入するのに良い環境を作っていません」と訴えている。
税金の問題
持ち家協会が特に反対しているのは現存のスイス特有の不動産所得税だ。これは自分で住んでいても貸していても掛かる、不動産の評価額 ( 賃貸家賃 ) が収入として所有者の所得税に加えられる税金だ。住宅ローンがあると税金控除があるため、ローンの返済を終えないケースも増えている。
同協会はこの税制が1940年から変わっていないため、年金生活者にはこの税金を免除するべきだと主張している。ザードラジル氏は「住宅ローンの返済を終えて、80歳頃には持ち家を完全に所有していることが大切だ。現在では年をとっても持ち家の60%は銀行が所有しているケースが多く出ています。我々は国から罰せられることなく借金返済をできる制度を望んでいるのです」
スイスへの移住を手助けする「ミシュルー&シー」社のフランソワ・ミシュルー氏は、多くの人がこの不動産所得税の概念に首をかしげているという。「この不動産所得税は本当に馬鹿げています。家を所有することを妨げるように作られた税です。スイスでは賃貸者を守る法律はたくさんあるにもかかわらず、オーナーにとっては厳しくなっています」と分析する。
これで充分との意見も?
スイス連邦住宅局 のエルンスト・ハウリ副事務局長はスイスの持ち家状況は言われているほど悪くないという意見だ。同氏は今年の末には持ち家率は39%に上昇すると見ており、スイス人口の20%が賃貸住宅をする外国人ということを考慮すれば統計的に近隣諸国と同様になるとみる。
ハウリ氏は年金退職者に対する税金控除は考えても、税金免除の預金に関しては、既に住宅購入時に使える無税の任意の年金積み立て ( 毎年6000フランまで ) を使うことができると片付ける。
swissinfo、マシュウ・アレン 屋山明乃 ( ややま あけの ) 意訳
スイスは先進国の中でも持ち家比率がもっとも低い国だ。
2000年の統計ではスイスで持ち家比率は34.6%で隣国のドイツは45%、フランスは54%、イギリスとアメリカは69%、スペインは81%だった。ちなみに、2003年の国際通貨基金 ( IMF ) の統計では日本は62%となっている。
持ち家率は州別にみると、ヴァレー州が多く60%、次にアッペンツェル・インナーローデン州が57%と高く、都市部ではバーゼル市が12%、ジュネーブ市が15%と非常に低い。
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