持続可能な経済が地球を救うには
米国有力シンクタンクの「ワールドウォッチ研究所 ( Worldwatch Institute ) 」 によると、環境問題が世界経済を動かし始めたという。
同研究所発行の「地球白書2008」の著者は、なぜ、気候変動の難局は乗り越えられると楽観視しているのか。ワールドウォッチ研究所の所長クリストファー・フレイヴィン氏が語る。
253ページに及ぶ「地球白書2008」は、企業、政府、非政府組織 ( NGO ) が「世界最初の持続可能な経済を構築している」と告げている。スイスでは、複数のコミュニティが進むべき方向性を示し、企業がその流れに乗り始めている。
気候に関する国連最高機関、気候変動に関する政府間パネル ( IPCC ) の予測を踏まえて作成された環境政策文書から、一般に悲観的な先行きを描いてしまうが、全く対照的なのがワールドウォッチ研究所の調査結果だ。
swissinfo : 地球白書2008によると、多国籍企業が純粋な市場資本主義から離れ、持続可能な発展目標を数多く含む「新事業成果」を採用しているといいます。わたしたちは経済の崩壊と環境破壊を回避できるのでしょうか?
フレイヴィン : 気候変動に関して、わたしたちはもう臨界線を越えてしまったと考えられなくもありません。しかし、わたしたちはまだ臨界線は越えていないと想定し、経済を新しい方向へシフトさせる必要性がかなり現実的に迫ってきていると考えなくてはいけないと思います。
swissinfo : 白書では、スイスのアルプスにおける牛の共同放牧を1例に挙げ、資源の共同管理を評価しています。資源の共同管理がどのように持続可能性を推し進めるのですか?
フレイヴィン : 当然ながら、最も重要な環境資源は、大洋と大気です。また、熱帯雨林もある程度含まれます。どれも1企業の中はもちろん、1国の国境内には収まりきらないものです。
誰のものでもないものを、効果的かつ効率的に管理する方法を考えることが、実際に問題を解決する1つの鍵になります。非常に小規模ではあっても、スイスやほかの地域で実践されていることを、直ちに地球規模の共有物に広げていく必要があると思います。
swissinfo : 白書では、CO2 ( 二酸化炭素 ) を排出する発電に代わる選択肢として、原子力を挙げています。原子力発電は、スイスやその他の国で議論を呼んでいる問題です。原子力は環境保護主義者の賛同を得ているのですか?
フレイヴィン : 賛同は得られていないと思います。わたしたちは、原子力を支持しているのではなく、原子力の行く手を阻む多くの障害に注意を喚起したのです。個人的には、原子力利用は気候問題を解決するほんの小さな役割しか果たさないと思っています。
本当に重大な変化をもたらし得る、十分な数の原子力発電所を建設する見込みはほとんどないと思います。化石燃料に取って代わる、最も確かで最大規模のものは、エネルギー効率と再生可能なエネルギー資源になるだろうというのが、わたしたちの結論です。風力発電だけでも、原子力以上に重要な役割を担う可能性が非常に大きいと思います。
swissinfo : 白書の前書きの中で、技術と民間投資と政策改革の相互作用が、エネルギー市場の1大変化を世界にもたらすだろうとおっしゃっていますが、それだけで十分ですか?
フレイヴィン : わたしたちは悲観的であり、同時に楽観的です。わたしは、エネルギー革命が目前に迫っていると思っています。今から5年後、10年後には、新しい技術が台頭し、今とは全く違ったエネルギー市場になると思います。しかし、圧倒的に化石燃料が主流の現在のエネルギーシステムを変えるには、非常に多くの課題があります。どんなに急いで取り組んでも、十分ではないかもしれません。
swissinfo : もし手遅れだとすれば、「緩和策」ではなく「適応策」に重点が置かれるべきだと、お考えですか?
フレイヴィン : 気候変動に関する政府間パネルの科学者やほとんどの政府機関は、温暖化に対してなんらかの適応策を取る努力をして、今までと同様、適応策を完全に排除すべきではないと言っています。
適応策の問題は、課題が非常に多く、不確実性もとても高いのです。実際のところ、適応策が政治的な勢いを持つことは非常に難しいだろうと思います。ある種の惨事を免れることはもうできないかもしれませんが、温暖化がさらに進めば、悪化するのみです。
swissinfo : 産業界がどのように持続可能な行動を取れるのかという1例として、スイス製薬グループの「ノバルティス ( Novartis ) 」が挙げられています。ノバルティスは、世界中にいる従業員9万3000人が生活するために必要な費用を特定し、その金額に応じた給与を行っています。これが、あなた方のおっしゃる、持続可能な発展目標を多く取り入れた「新事業成果」の例ですか?
フレイヴィン : 基本的に、持続可能性は環境上のコンセプトです。しかし、多くの企業が、持続可能性への幅広いアプローチを試みています。いわゆる社会的責任を果たす事業もその1つです。企業は、従業員や顧客や社会全体のニーズに応えようとしています。これが、多くの企業が行っている新しいアプローチの中でも非常に重要な点です。
swissinfo、聞き手、デール・ベヒテル 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳
アメリカのワシントンDCにあるワールドウォッチ研究所 ( Worldwatch Institute ) は政府や企業に属さない独立系の研究機関だ。世界の諸問題の根底にある原因を究明し、現実的な解決策を提案しながら、環境的に持続可能で、社会的に公正な社会の実現を目的として活動している。
スイスのコンサルタント会社「エコス ( Ecos ) 」は、ワールドウォッチ研究所をサポートする数多い組織や財団法人の1つ。
ワールドウォッチ研究の2008年のレポートでは、スイス人ヴァルター・シュタヘル氏の製品寿命を延ばす取り組みにも触れている。1990年代、シュタヘル氏は「持続可能性を目指す新しい運動の創始者」といわれた。
ワールドウォッチ研究所 ( Worldwatch Institute ) によると、企業、政府、非政府組織 ( NGO ) は、技術革新や大規模な投資を通して、気候、その他の環境問題、社会問題の対策にあたっている。
クリーンエネルギーテクノロジーにかかる共同研究開発費は、2006年には91億ドル ( 約9900億円 ) に達した。2001年と比べると10倍になった。
現在、環境・エネルギー分野を対象としたヘッジファンドは、インターネットとバイオ・テクノロジーに次ぐ、世界で3番目に大きなベンチャー投資部門だ。
米化学大手の「デュポン( DuPont ) 」は、温室効果ガスの排出量を、2007年までに、1991年レベルから72%削減し、30億ドル ( 3269億円 ) 節約した。
草原、森林、牧草地、漁場などの資源の共同利用地の管理を意味する「コモンズ・マネージメント」 ( バリ島の稲作農家、スイスアルプスでの牛の共同放牧など ) という考え方が新たに導入されている。
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